仕事は終了

文字数 1,719文字

「お前ら!見世物んじゃねえぞ。仕事にもどれ!行けっ!」

 チャトゥチャイがヤジウマを追い払います。
 まあ、連中も素直に従いはしませんが、チャトゥチャイは一種のヤクザ者ですから、それなりにコワモテですので迫力はあります。

 ・・・伏兵が飛び掛ってくることもなさそうだ。。。

 つづいてチャトゥチャイはトゥクトゥクのライセンスを調べて、壁際にもたれて唸っている”第二の男”のほうに脅しをかけます。

「お前ら今回のことで恨みを持つんじゃねえぞ。全部水に流せ。さもないとバンコクで商売できなくしてやる。いいか?」

「う・・う・・わかった。。」

 さすが雲助のボスだけあって、雲助ドライバーには睨みがききます。

 もうひとりの男はノビていましたが、タカが2,3発平手を見舞うと苦しそうな声を上げていますので、死んではいません。ま、当分痛むでしょうが。。。

「タカ、お前大丈夫なの?膝蹴りモロに食らったみたいだけど」

「押忍。痛かったっすよ。あんなに痛いの始めてっす。しばらく息が止まりました。まあ、今はもうだいぶマシになりましたけど」

 ・・・まあ、動いてるんだから大丈夫だろうけど。。頑丈な奴だなあ。。
 ・・・よし、プラーにガツんと言ってやる!・・・

「やい!プラー!!」

 腕を組んでこっちを睨んでいるプラーに向かって

「お前、トミーとタカの師弟コンビに、こんなへっぽこムエタイ・コンビで勝てるとでも思ったのかよ!俺たちを負かしたいんなら、チャンピオン10人くらい連れて来い!!」と、ガツんとね!!

「師匠!そのセリフ、日本語で言ってどうするんですか!!」

 ・・・。。

 こんどはタイ語で。。

「プラー、荷物は貰っていくぞ」

 プラーはフン、と鼻で笑って

「わかったわ。持っていきなさい」・・・・お、ようやく解決?

 指図するまでもなく、チャトゥチャイはガンガン荷物をワゴン車に積み込んでいます。ひとつ最低20kgはある袋をまあ、軽々と枕運ぶみたいに。。
 大した力です。もっと早く来てくれたらムエタイ・ドライバーのコンビも、あっさりかたずけてくれたかも。。

「よし、トミーさん、行こう!」

 助手席にタカを乗せ、私も後から乗り込もうとすると・・・

「トミー!」・・・プラーです。

 そちらを見ると、プラーは親指を首に当てて喉をかき切るポーズ。

 ・・・ふう。。勝手にしろ。。

 とは思ったものの、この後何度かバンコクを訪れたときには、結構街を歩くときには背後に注意したものです。いや、マジで。

 後日談を語ると、この一件から一年くらいして、中田さんとピーチャイがうまくしてくれて、私たちは一応は、仲直りしたんです。ベトナム料理を食いに行ったんだ・・プラーと!

 彼女は上機嫌でニコニコしながら料理を勧めてくれましたが・・内心、もうあまりプラーとは顔を会わせたくないな・・と思いました。

 だって、そう思うでしょ?普通!


 クルマでそのまま、バスターミナルへ行き、チェンマイ行きのバス便で荷物を送ります。
 バス便というのは一番安いタイ国内輸送手段で・・ようするに普通の長距離バスに荷物だけ乗せちゃうんです。バスターミナルからバスターミナルへ。。。

 ・・・これで仕事は終了!!やれやれ。。。

 帰りのクルマの中。興奮さめやらぬタカが、いつになく饒舌になっています。

「師匠。まさかオレも本当にタイに来てムエタイとやるなんて、夢にも思わなかったっすよ」

 ・・・うん。大変だったな。。

「でも、師匠の”対ムエタイ戦略”。あれ聞いといてよかったですよ。おかげでなんとか勝ちました」

 ・・・え?そうだったっけ?

「ほら、師匠が『ムエタイには金的』って教えてくれたでしょ?その通りにやったら勝てました」

 ・・・いや・・タカ・・僕はあんな技教えてないんだけど。。

「でも、師匠。師匠のあれはちょっと、違うっすよ」

 ・・・なにが?

「師匠のあれは・・空手じゃないよ。あれじゃ相撲じゃないですか。ププッ。あ、失礼。笑っちゃった。でも・・プッ!・・どすこーい!・・って。。。いくら相撲体型になったからって・・プププププ・・・・ッ。。。」

 ・・・あれはなあ!あれは、つまりタイの国技に敬意を表してだ、日本の国技で戦ってやったんだよ!!
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