バンコクの怪人のお出迎え

文字数 2,060文字

 舞台は変わってタイ!

 バンコク・ドンムアン空港。
 私にとって、この空港ほど降り立った瞬間に心が落ち着く空港はありません。日本の空港のように小うるさい税関の取調べも無いし、なにかほっとします。

 これまでの書き込みでは、あまり触れていませんが、スリランカなどはいろいろな意味で緊張感が常に付きまといます。
 一歩外に出ると心が本当に休まる瞬間というものがない。これは非常に疲れることです。。

 タイという国の良いところは、外国人である我々に対して構えるところがあまりない・・ということです。良い意味でほっといてくれる。

 日本に帰る前に、このタイという国をタカとふたりで旅してみよう・・というのが今回の旅行の締めくくりです。

 私はこれまでにも、タイには何度か来ていますが、仕事だったのでじっくりと旅を楽しんだことがなかったのです。。。

 例によって何の質問もなく税関を素通りして、待合ロビーに出ます。

 いつもながらおそろしい数の出迎え(ツアーガイドなど含む)が名前を持った紙をかかげています。

「さてさて。。今日は出迎えが来ているはずなんだけど」これは私。

「押忍。師匠が言ってた人ですね・・・すごい人だっていう」

「そうだ。。はて?」ロビーを見渡しますが出迎えの群衆の中には見当たらない。。。
 ・・・ん?・・・あれは??

「******!!」「*****?****!!」

 タイ語で罵り合う男女がいます。よくあるタイ人同士の痴話ケンカに見えますが・・・よりによって、国際空港で女とケンカしている男といえば彼しかいません。

「おーい!!中田さーん!!」

 女性を怒鳴り散らしていた男が振りかえります。

「やあ、トミーさん。お疲れ様です」
 お風呂上りのようにさわやかな笑顔で手を挙げて答えます・・・・やっぱり中田さんだ。

 まだわめき散らしている女性を完全無視して、にこにこしながらこちらに来ました。相変わらずの二面性人間ぶりだ。

「中田さん。ひさしぶりです・・・なんか相変わらず大変そうですね」

「いや、大したことじゃないんですよ。彼女、なにか誤解してるんです」

 ・・・いや、違うと思う。。。

「あのう、中田さん。これ、今回一緒にスリランカに行った弟子のタカですタカ、この人が中田さんだ。挨拶しなさい」

「押忍。中田さん。タカです。ヨロシクお願いします」

「はい、どおも。。こちらこそ!話はトミーさんから聞いてます・・ウォッ!」

 先ほどの女性が後ろから中田さんの尻を、思い切り蹴飛ばしたのです。

「****!!」

「なあにしやがる!この****!!!」

 日本語とタイ語のスラングの混ざった口げんかが再開。。。どうしよう・・?


「いやあ、タイに着くなり変なもの見せちゃって、すみません」

 タクシーの中です。

「どうしたのかなあ?彼女。普段はおとなしい娘なんですがねえ。タイ人の女ってキレると手が付けられなくなるんです」

 ・・・いや、確かにそうかも知れないが、あんた、日本でも同じような揉め事起こしてるじゃない。。。それも頻繁に。

「あのう・・・中田さん。今の女の人、クルマに乗ろうとしてたのに無理やりドア閉めて置いてきちゃったけど、あれいいんすか?」これはタカ。

「ああ、気にしないでください。それより今夜は空いてるんでしょう?タカ君はバンコクはじめてですよね?いいところに案内しますよ」

「押忍。ありがとうございます」

 タクシーはハイウェイに入り、一路都心部にある私たちの定宿へと向かいます。

「それにしても、トミーさん。なんか太りましたねえ。。昔スリランカから帰ってきたときには、ガリガリに痩せて真っ黒で、何か目だけがギラギラして黒豹みたいな雰囲気だったのに・・」

「そうかなあ・・まあ、たしかにあのころよりはずいぶん太りましたけど」

「そういえばオレが師匠にはじめて会ったときも、もっと痩せてたっす」

 ・・・実はこの一年ほどで体重が10kgも増えてしまい、気にしていたのだ。

「しかしトミーさん。なんか太って目つきも鋭さがなくなったし、すごく色白だし・・・それじゃもう・・・黒豹じゃなくて・・まるで・・」

 言葉を飲み込む中田さん。分かってるよ!!『豚』だろ!『まるで白豚』だって言いたいんだろ!このスケコマシは!!

 ・・・そういう中田さんは、何年たってもちっとも変わらない。

 相変わらず見かけは誠実そうな、好青年風の二枚目ぶり。
 女はみんなこの見かけに騙されるのだが。。私の知る限りこの人ほど女性に対する『誠実』が欠如している男はいないのだ。。

 今回も彼のこの性格から思わぬトラブルに巻き込まれます。

 タカに「中田さんはすごい人」と言ったのは「すごいトラブルメーカー」という意味なのです。そしてそのトラブルのツケを平気で人に押し付ける名人なのだ。。。

 現在でもタカは事あるごとに「師匠、いいかげん中田さんとは手を切れ!」と言いますが

 ・・・タカよ。。こんなネタになるおいしいキャラ、めったにいないぞ。。。
 この人に関しては完全なる実話でもネタになるんだもん。。
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