周りはすべて敵?

文字数 1,611文字

 私は元来、小心者ですのでプラーと会う前に、ある程度テンションを上げておかなければ気おされてしまいます。
 なにしろプラーという女は、いつもプリプリ怒っているので、向こうのペースで話をすると大変不利なのです。

 こちらが先に怒ってしまおう・・・これが今回の作戦。

 駐車場はやはり満車状態ですが、ここは主に出店している業者が停めていますので、他の駐車場に比べて人通りは多くありません。
 手押しの台車に荷物を積んだ、業者が行きかう程度。

 建物の壁沿いに荷物を満載した、2台のトゥクトゥク(三輪タクシー)が停まっており、その前にプラーが腕組みをして立っています。
 タイトなデニムパンツに白いブラウス。長い髪は今日は後ろに束ねている。
 私に気がつくと、眉間にしわを寄せ、鋭い視線を送りながら口の端だけでニッと笑います・・・おい、それは一応愛想しているつもりか・・?

 よし。まずこっちのペースで切り出そう。

「おい!プラー!!何時だと思っている。僕らはもう一時間以上待ってたんだぞ!!」大げさに手を出して腕時計をかざします。

「あら、私はナカタに11時って言ったわよ。トミーの間違いでしょう」

 ・・・え?そうなの。。いやいかん!相手のペースに飲まれては。

「いや、ナカタは確かに10時だと言った。お前が遅刻したんだ」

「ふん。じゃナカタが間違えたんでしょう。そんなことよりまず、私のバッグ返しなさいよ」

 ・・・くそ!この女、ゴメンのひとことが言えないか?

 しぶしぶバッグを渡します。

 プラーが中身をあらためて「ナイフがはいってないわ!」

「そんな物騒なもの今渡せるか。ナカタに預けてある。今度返してもらえ」

「ふん。・・・まあいいわ。荷物はこれよ」

 2台のトゥクトゥクを指差します。

 縦縞模様の大きなビニールバッグ・・バイヤー間での通称「華僑バッグ」が各5つづつ乗っています。

「OK。よしタカ、とりあえず荷物を降ろそう」

「押忍」

 タカが荷物を降ろそうとすると。。

「待ちなさい!先にお金よ。持ってきたんでしょう?」

 ・・・がっちりしてるなあ。。

「ああ、ナカタから預かってきている」お金を差し出します。

 プラーはパラパラと札を数えて・・

「どういうこと?全然足りないわ」

 ・・・え?

「ナカタは15000で話をつけたって言ってたぞ!」

「冗談じゃないわ。私は48000って言ってたのをナカタが値切ったのよ。しかたがないから私は15000、ディスカウントしてあげたのよ!だから33000。それを何?トミーは今この場でそれを15000まで値切るつもり?あなたも大概、私をなめてるわね」

 冗談じゃないのはこっちの方だ。話が全然食い違っている。

  「ナカタから預かっているのは確かに15000だけだ。それ以上は出せんぞ。もっと欲しいならナカタから貰え。荷物は貰っていく・・・タカ!降ろせ」

 タカが再び荷物を降ろそうとすると

「待って!タクシー代はあなたが払いなさい!」

「ん?タクシー代?いくらだ」

「運転手ひとりに300づつ払って」

 ・・・ここで、私も本気でブチ切れました。

「ふざけんなあ!!お前、いったいバンコクのどこから来たらトゥクトゥクが300にもなるんだよ!イイカゲンニシロ!!このク○アマがあ!!」

 半分日本語です。。

 が、プラーも同様に切れています。

「あんた!お金は半分しか渡さない、タクシー代は払わない!いつもそうなのね。いつもあんたがそうやってお金を払うのを渋るんでしょう!もう許さないから!」


 私たちの大声での怒鳴りあいに、この辺に居た人たちすべてが、私たちを遠巻きに取り囲み見ています。

 ・・・タカはこのときの心境を最近になって語ってくれました。

 タカの目には周りにいるタイ人全部が敵に見えたそうです。

 ・・・どいつが襲ってくるか分からない・・・

 そして、こうも考えたと。

 ・・・とにかく、この場で師匠に近づく奴は・・・片っ端から殴る!・・・
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