ナチュラルハイ in チェンセン

文字数 1,961文字

「タカ・・起きたか・・ぷぷぷ・・ぶはははは」

「起きてますよ・・何、師匠・・ぷぷ・・朝から・・うひゃ。ひゃひゃ・・」

「シャ・・シャワーでも・・ぷはっ・・浴びてから飯でも・・くはははは」

「うははははは!!」

「くははははーーーく、くるしい!!」

「はははは・・腹が痛てえ・・くわははは!!」

 ここはチェンセンのゲストハウス。

 もう、すでにここに何日いるのでしょうか・・・。
 上の狂った会話はワケがワカランと思われますが、皆さん。
 本物のナチュラル・ハイって経験されたことがありますでしょうか?

 私たちは、ここチェンセンにたどり着いてしばらくのうちは、ただひたすらメコン川を眺めたり、そのへんをブラついたりして過ごしておりました。
 チェンセンは川と湖以外、これと言って何もないところなのですが、不思議とハマってしまう町なのです。
 何を見ても楽しい。何を食べてもおいしい。

 私は過去にも旅人から「チェンセンはハマるよ・・」という話を聞いたことがありますが、ここのハマりかたはちょっと不思議なのです。

 インドにハマるとか、ああいうイベント盛りだくさんなハマりかたではない。
 何も無いところにハマってしまうのです。
 これを上手く説明するのは難しいですが、究極の精神の開放感というか、リラックスの極地というか・・・そしてナチュラル・ハイがキマってしまうと・・

 ・・正直、このキマりかたはハッパなどの比ではありません!

「ひいひひひ・・・はあ、はあ・・ああ、やっと少し落ち着いた・・」

「はああ・・押忍・・これ、なんかヤバいっすね。オレ達、狂ったんじゃないですか」

「うん。それに近いものがあるよな・・・メシ行くか。。。」

 マジで私達はシラフです。薬物も一切使用しておりません。
 なのに、一旦笑い出すと止まらなくなる。確かに狂っております。

 ゲストハウスから、歩いてすぐのところに、中国からの貿易商あいての小さな中華料理屋があります。
 中国人の夫婦が経営している安食堂なのですが、ここの鶏のスープが内臓が踊りだすくらいウマイのです。

 ここでの私達の一日は次の通り。

 朝、飯食いに行って食後に川を眺める。
 中国からの船が着いたりすると、まるで雑技団のような離れ業を使って荷物を積み込む様を見物。
 そのあとタカの運転するバイク(ゲストハウスで借りた)に乗って、チェンセン・レイクへ。

 このチェンセン・レイクという湖には、なぜか沢山の古タイヤが投棄されており、それがあたかも「タイヤが生えている」ように見えます。

 それを眺めながら
「世界のタイヤの70%は、このチェンセンレイクで採れるんだ」
 というお決まりのギャグを私が言うと、しばらくふたりして笑い転げる。

 そこから近くにある、ちょっと雰囲気のいい英国別荘地風のホテルのレストランで昼食。ここによく通う理由は、まずここの食事がまたウマイ!
 洋食で、材料が凝っているわけではないのですが、ありきたりの材料で実にすばらしい味の料理を作る。コックがただものではありません。

 もうひとつの理由が・・・私がここのウエイトレスの女の子に一目ぼれしたからです。すでにお気づきかもしれませんが・・・私は結構惚れっぽいです。。

 しかし皆さんの期待には沿えず、特にこの娘さんとはなんの進展もなく、宿にもどって夕刻までボーっと過ごし、暗くなったら再び川に行って対岸のラオスを眺めながらロウソクの明かりが乗ったちゃぶ台とゴザの屋台で、メコン川で釣りたてナマズのトムヤムとヤムウンセン(春雨サラダ)の夕食を食べるか、田んぼの真ん中にある掘っ立て小屋のライブハウスに行きます。

 このライブハウスには2000円くらいの安物ギターで弾き語りをやる、若い男性デュオがいますが、これがなかなかやる。演奏も歌も驚くほどレベルが高いのです。
 タイミュージック界の底辺層がいかに充実しているか。
(私は後にタイポップスにハマることになります)

 と、まあ・・・こんな風に毎日を送っておりました。

 平たく言うと、沈没していたわけです。これがもう楽しくてしょうがない。。

「師匠・・・オレ達・・もうここにどれくらい居るんでしょう・・・?」

「ええと・・あれ?・・よくわかんないや・・・」

「・・師匠は静子さんに、急ぐ旅だって言ってたけど、これでいいんすか?」

「ヤバいよね。これは。ちょっとあまりにも気分が良すぎて動けなくなってるよなあ・・・ダメだ・・・タカ。動かなくちゃ・・ゴールが見えない」


 そうです。

 ここでいつまでもこうしていたい気持ちはあるのですが、それでは意味が無い。
 私達は踏ん切りをつけるために、静子さんもオームも振り切って旅に出たはずなのです。

「明日、行こうか?この旅の終点に・・・メーサイに、そしてビルマ(ミャンマー)に・・・」
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