チェンマイ行き寝台特急

文字数 1,292文字

 夕刻にカマボコの形をした建物・・・ホアランポーン(バンコク中央駅)より私たちはチェンマイ行きの夜行列車にのりこみます。

「師匠。タイの列車ってなかなかキレイですねえ」

「うん。同じ2等車両でも、スリランカと比べるとね。冷房も効いてるし天国だわな。」

 発車間近になると、ホテルのようなボーイ服を着た男性が、写真入のメニューを持って注文を取に来ます。

「お、なかなか旨そうだな。僕はこのトムヤム・セット食べよう」

「オレは・・・これ!焼き鳥セット。しかし豪華なメニューですねえ。オレ、ビールも飲んじゃおうかな!」

「おお。飲め飲め。なんか、ようやく旅行らしくなってきたなあ」

 タカはもともと、食に関心を示さない男だったのですが、タイに来て旨い料理を食べつけることで、「食べる楽しみ」を知ったようなのです。いったい今までどんな食生活を送っていたんだろう。。

 とにかく世の中に、食えるものより食えないものの方が多い、というタカの偏食がかなり改善されてきたのは事実です。
 以前はまったく食べられなかった魚介類も、今では旨そうに食べる。

 私はタカの短気と、すぐに腕力にモノを言わせたがるクセは、この偏食による栄養の偏りが原因ではないか?と、考えておりましたので大変喜ばしいことです。・・・タイにつれてきて良かった・・まあ多少危険な目にもあったけど。


 列車が発車すると、ボーイが座席にテーブルをセットします。しばらくすると、料理が運ばれてきました。
 その焼き鳥をパクつきながら、タカはビールを旨そうに飲みます。
 私もトムヤムに舌鼓を打ちながら列車に揺られていると、何かスリランカでの出来事や、バンコクでのいざこざ・・すべてが夢のようです。

 旅も終盤に差し掛かり、ようやく私たちは純粋に旅を楽しもうとしているのです。
 

「なあ、タカ。ようやく旅行らしい旅行になりそうだなあ。これからはもう、あまり殺伐としたことはやりたくないなあ」

「押忍。そうですね」

「もう列車のトイレで誰かが割り込んできても、いきなり殴ったりするなよ」

「わはは。。やりませんよお。あれはやっぱりスリランカの雰囲気が良くなかったんです。これだけキレイな列車で、これだけ旨いもの食わせてもらったら、タイ人にも優しい気持ちになれますよー」

 タカもなにか上機嫌です。


 腹いっぱいになったら、眠くなります。
 座席はベッドに変身しますので、これで眠れば朝にはタイの第二都市、チェンマイです。

 
 ・・・平和な旅になりそうだ。。
 

 ベッドに横になると、私は少し日本のことを思い出します。この旅ももはや終盤です。

 私たちはふたりとも、日本での身の振り方が決まっていない失業者です。

 が、すぐに考えないことにします。

 
 ・・・今は、この旅を最大限に楽しもう・・・

 
 私はかつて中川先生の命をうけ飛行機に乗り込んだあの日から、常に旅の空の下にあり、そこで自分の進む道を見つけてきたのだ。

 今回も同じだ。私は何も変わっていない。今回も旅の空の下で自分の進む道が見えるだろう。

 私は何も変わっていない・・・・あのころより、ちょっと(?)体重が増えただけだ。。
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