虎の威を借る
文字数 2,073文字
夕方になると、チェンマイは大変涼しくなります。上着を着ないと肌寒いこともあるくらい。
「さて、どこに行こうかなあ」
「押忍。まあ、とりあえず出かけましょう」
ホテルのエレベーターに乗ると、そこに貼ってあるポスターに目が止まります。
「あ、これなんかどう?」
「なんすか?これ」
カントーク・ディナー・・・チェンマイの名物のひとつですが、私はまだ行ったことがありませんでした。
古都チェンマイを京都に例えるなら、懐石料理みたいなものでしょうか。
タイの古典舞踊を観ながら、チェンマイの伝統料理を食べるツアーを、このホテルで受け付けているようです。
早速フロントで申し込むと、すぐにバスが出るからそれにのれ・・・と。
ホテルのミニバスには、すでに西洋人の客が何人も乗っています。
それにあわてて乗り込むと。。
「トミー先生!こっちこっち。こっちに来て下さい」
ビルです。
「ああ、君もカントーク行くんだ」
ビルのそばに行くと周りにいる若者たちが席を空けます。
「どうぞ座ってください、先生。ホテルで知り合った連中と行こう、って話になって。先生も誘おうかなと思ってったんだけど、部屋聞いてなかったし。ちょうど良かったです」
・・・本当かよ。。
と思いましたが、まあいいや。
バスが動き出します。
「彼らが、同じホテルに泊まっている連中です。おい、こちらは日本のカラテマスターのトミー先生とタカさんだ」
こういうときに西洋人というのは実に気さくに笑いながら、握手してきます。ビルのほかにもう1人の白人男性と女性。ふたりとも若くてどうやらカップルのようです。
そして黒人の学生風の女の子ふたりぐみ。友達同士で旅行に来ているようです。ひとりは、ちょっとゴツい感じの女の子ですが、もうひとりは華奢でメガネを掛けた知的な美人です。その彼女が・・・
「こんにちはトミー先生。イギリスから来たエミリーです」
「こ、こんにちは。。」私、ちょっとアガってしまいました。
黒い顔にクリクリとした大きい目。ニコッと笑うと白くて小さな歯が並んでいます。超カワイイ!
エミリーの顔に見とれていると横から、白人カップルの男のほうが
「ハイ!先生ワタシはイギリス人のジョンです。ワタシもカラテ、日本でやってたよ。ヨロシク」・・・日本語です!
「あ、日本語できるんだ」
ビルも意外そうな顔で彼の顔を見ます。
「ハイ。日本のK大学に留学してたです。そのときカラテ習ってました」
ジョンは身長は190cmはあるでしょうか。体重は100kgゆうにあるでしょう。強そうだ。
ビルが・・・一体何を話している?・・・とジョンに尋ねます。
ジョンがかいつまんで話すと、「それなら、トミー先生に教えてもらうといい」
とか言い出します・・・余計なことを!
ジョンの金髪でちょっとデブな彼女と、エミリーの連れの女の子が顔を見合わせてWOW!とか言ってるし。。。
「ジョン君は大学の空手部に入ってたの?」
「いえ、**会館の道場に行ってました」
・・・**会館・・・(汗)・・・マズイ。。。それはマズイ。
「あの・・ビル君は**会館でどれくらいやったのかな?」
「オス。今年茶帯貰いました。それで国に帰って、いまイギリスの**会館に居ます」
・・・ますますマズイ。
**会館というのは、とにかく強い空手の名門です。
知らない人は「なんだ、黒帯じゃないのか」と思われるでしょうが、**会館の現役茶帯なら我らが中川先生の出す、なんちゃって黒帯の何倍も強いでしょう。(ましてや私は運動不足のデブ)
・・・こんなのと組手やらされちゃタマラン。
弟子の手前・・・いや、そんなのはもうとっくに地に落ちているからいいとして、エミリーちゃんの手前、恥をかくのは避けたいものです。
・・・ハッタリだ!何かハッタリで逃げる突破口を見つけなきゃ・・・
「K大の近所で**会館といえば、先生は誰?」
「オス。○○師範です」
「ああ、※※支部か。じゃあMとか知ってる?」
ジョンはびっくりした顔で
「し・・知ってるんですか?Mセンパイを」・・・突破口みーつけた♪
「知ってるも何も、Mは僕の後輩だよ」
これは半分本当。半分ハッタリ。
Mはいちおうは私の中学の後輩ですが、別に一緒に空手をやっていたわけじゃないです。
お互い地元では顔見知りではありますし、今でも会えば挨拶くらいはするでしょうが、それほど親しかったわけでもありません。
ただ彼が**会館でかなり活躍した選手になったのを知っていたので、名前を出してみただけ。
「あの恐ろく強いMセンパイのセンパイなんですか?・・・オス!失礼しました」
ジョンは心底Mにビビっているようです。
と同時にMの先輩だという(ハッタリだけど)私に対しても畏敬の念を持ったようです。
・・トミー先生と戦ってみろ・・・と無責任に言うビルに「やめろよ」とだけ言うと、すっかり恐縮した表情で座席に控えます。
やりとりはずっと日本語でしたから、ビルたちは分けが分かりません。
私は心の中で言いました。
・・・Mよ。勝手に名前出してスマン!
「さて、どこに行こうかなあ」
「押忍。まあ、とりあえず出かけましょう」
ホテルのエレベーターに乗ると、そこに貼ってあるポスターに目が止まります。
「あ、これなんかどう?」
「なんすか?これ」
カントーク・ディナー・・・チェンマイの名物のひとつですが、私はまだ行ったことがありませんでした。
古都チェンマイを京都に例えるなら、懐石料理みたいなものでしょうか。
タイの古典舞踊を観ながら、チェンマイの伝統料理を食べるツアーを、このホテルで受け付けているようです。
早速フロントで申し込むと、すぐにバスが出るからそれにのれ・・・と。
ホテルのミニバスには、すでに西洋人の客が何人も乗っています。
それにあわてて乗り込むと。。
「トミー先生!こっちこっち。こっちに来て下さい」
ビルです。
「ああ、君もカントーク行くんだ」
ビルのそばに行くと周りにいる若者たちが席を空けます。
「どうぞ座ってください、先生。ホテルで知り合った連中と行こう、って話になって。先生も誘おうかなと思ってったんだけど、部屋聞いてなかったし。ちょうど良かったです」
・・・本当かよ。。
と思いましたが、まあいいや。
バスが動き出します。
「彼らが、同じホテルに泊まっている連中です。おい、こちらは日本のカラテマスターのトミー先生とタカさんだ」
こういうときに西洋人というのは実に気さくに笑いながら、握手してきます。ビルのほかにもう1人の白人男性と女性。ふたりとも若くてどうやらカップルのようです。
そして黒人の学生風の女の子ふたりぐみ。友達同士で旅行に来ているようです。ひとりは、ちょっとゴツい感じの女の子ですが、もうひとりは華奢でメガネを掛けた知的な美人です。その彼女が・・・
「こんにちはトミー先生。イギリスから来たエミリーです」
「こ、こんにちは。。」私、ちょっとアガってしまいました。
黒い顔にクリクリとした大きい目。ニコッと笑うと白くて小さな歯が並んでいます。超カワイイ!
エミリーの顔に見とれていると横から、白人カップルの男のほうが
「ハイ!先生ワタシはイギリス人のジョンです。ワタシもカラテ、日本でやってたよ。ヨロシク」・・・日本語です!
「あ、日本語できるんだ」
ビルも意外そうな顔で彼の顔を見ます。
「ハイ。日本のK大学に留学してたです。そのときカラテ習ってました」
ジョンは身長は190cmはあるでしょうか。体重は100kgゆうにあるでしょう。強そうだ。
ビルが・・・一体何を話している?・・・とジョンに尋ねます。
ジョンがかいつまんで話すと、「それなら、トミー先生に教えてもらうといい」
とか言い出します・・・余計なことを!
ジョンの金髪でちょっとデブな彼女と、エミリーの連れの女の子が顔を見合わせてWOW!とか言ってるし。。。
「ジョン君は大学の空手部に入ってたの?」
「いえ、**会館の道場に行ってました」
・・・**会館・・・(汗)・・・マズイ。。。それはマズイ。
「あの・・ビル君は**会館でどれくらいやったのかな?」
「オス。今年茶帯貰いました。それで国に帰って、いまイギリスの**会館に居ます」
・・・ますますマズイ。
**会館というのは、とにかく強い空手の名門です。
知らない人は「なんだ、黒帯じゃないのか」と思われるでしょうが、**会館の現役茶帯なら我らが中川先生の出す、なんちゃって黒帯の何倍も強いでしょう。(ましてや私は運動不足のデブ)
・・・こんなのと組手やらされちゃタマラン。
弟子の手前・・・いや、そんなのはもうとっくに地に落ちているからいいとして、エミリーちゃんの手前、恥をかくのは避けたいものです。
・・・ハッタリだ!何かハッタリで逃げる突破口を見つけなきゃ・・・
「K大の近所で**会館といえば、先生は誰?」
「オス。○○師範です」
「ああ、※※支部か。じゃあMとか知ってる?」
ジョンはびっくりした顔で
「し・・知ってるんですか?Mセンパイを」・・・突破口みーつけた♪
「知ってるも何も、Mは僕の後輩だよ」
これは半分本当。半分ハッタリ。
Mはいちおうは私の中学の後輩ですが、別に一緒に空手をやっていたわけじゃないです。
お互い地元では顔見知りではありますし、今でも会えば挨拶くらいはするでしょうが、それほど親しかったわけでもありません。
ただ彼が**会館でかなり活躍した選手になったのを知っていたので、名前を出してみただけ。
「あの恐ろく強いMセンパイのセンパイなんですか?・・・オス!失礼しました」
ジョンは心底Mにビビっているようです。
と同時にMの先輩だという(ハッタリだけど)私に対しても畏敬の念を持ったようです。
・・トミー先生と戦ってみろ・・・と無責任に言うビルに「やめろよ」とだけ言うと、すっかり恐縮した表情で座席に控えます。
やりとりはずっと日本語でしたから、ビルたちは分けが分かりません。
私は心の中で言いました。
・・・Mよ。勝手に名前出してスマン!