神々の誓い

文字数 5,493文字

――Earthboy:

さしずめ神々の集いといったところだろうな。俺も神、プーチンも神。そして天馬よ、テメーも神だってんだろ?

――tenma:

俺が神すぎる事実は揺るがない。俺は存在しているだけで世界を揺さぶってしまうのだ。実際にいま、俺は世界で一番の有名人だとギルメンが言っていたな。

――putin:

悪い意味での有名人だろうな。世界を混乱させる極悪人だ。

――Earthboy:

それを言うならプーチン、おめーもだろう?

――putin:

ふん、私の場合は質が違う。今回、不動天馬とマリシェヴァの暗殺作戦は失敗したものの、過半のロシア人はこの軍事行動を結果的に支持した。核物質を突き付けられたロシア人としては当然の心情であろう。私を攻撃しているのは西側のクズメディアどもだ。

――Earthboy:

西側のクズメディアって話は同意するぜ。おいライザ、CNMの同僚のクズどもはどうにかならねえのか? フェイクニュースを垂れ流す連中はみんな暗殺してしまえ。俺が許可する。

――liz:

それは大統領令だと受けとるべき?

――Earthboy:

一人でも多くの頭の悪い反トランプ陣営の連中をファックしてやれ。CNMの生粋の記者どもはぜんぶ一掃して、そっくりCIAかNSAにしちまえばいいんだよ。いや、CIAも7割のヤツらはラリッてやがるな。暗殺は国防総省にやらせるか。

――liz:

それはもう暗殺とかいう次元じゃないわ。自国に核兵器でもぶち込んだほうがいいんじゃないの?

――Earthboy:

名案だ! 俺を支持する知能のない低能どもはまとめて檻にでもぶち込んで、核で根こそぎ吹っ飛ばしてやるぜ。

――tenma:

貴様の戯言を聞くためにこうして顔を突き合わせているわけじゃない。俺は多忙を極めているのだぞ。このあとはギルメンどもを引き連れ、ヨルムンガンドに戦いを挑まなくてはならない。

――Earthboy:

そうだよ、俺たちは暇人じゃねえ、とっとと決めることを決めてしまおうか。

――putin:

一番余計な話をしているのは君だと思うがね。

――tenma:

ここで話し合うべきことは明快だ。まず自分の戦略目標を明示し、そのための協力をここで取り付けておくことにある。

――putin:

私からいこう。tenmaやEarthboyが先だと話がどこまでも飛び、収集が付かなくなりそうだからな。

――Earthboy:

ハッ、自分だけお利口さんぶりやがって。

――tenma:

いいぞ、話を聞いてやる。言ってみろ。

――putin:

ロシアの中長期的目標としては、旧ソ連邦を構成した諸国への影響力を取り戻すことにある。その前に立ちはだかる最大の障壁は、やはりNATOだ。そしてNATOの求心力はアメリカに他ならない。

……だが、トランプはNATOからさえいずれ手を引く方針だと受け止めている。ここで方針を合わせておきたいのだが?

――tenma:

要するにNATOからアメリカを引かせ、ロシアはバルト三国やウクライナ東部、それから中央アジアの一部地域を奪い取ってしまおうと言うのだな?

――putin:

住民が望んでいるようにする、それだけのことだ。

――tenma:

何が住民だ。おためごかしも程々にしろ。こういう場だ、本音でなくては意味がない。

――Earthboy:

アメリカはNATOから実質的に手を引け、そしてロシアが乱暴狼藉するのを邪魔するな……という理解でいいのだな?

――putin:

住民投票や影響圏の拡大を「乱暴狼藉」と表現したいなら、それでもいい。

――Earthboy:

いいぜ。ロシアがどこで何をしようが、俺の知ったことじゃねえ。

――putin:

ずいぶんあっさり同意するものだな?

――Earthboy:

そんなに世界の嫌われ者を続けたいなら好きにしろ。むしろありがたいくらいだ、ロシアが最悪を演じ続けてくれるなんてな。その希望を呑む代わりに、俺の要求も聞いてもらうぜ。

――putin:

言ってくれ。

――Earthboy:

2つある。1つは、俺はいまアメリカ国内のフェイクメディアの連中から、ロシア疑惑を責められている。要するに、俺がアメリカ大統領になるために、ロシアと結託したんじゃないかってな。ロシアと秘密裏に交渉して何が悪い。それが外交だろ、ああ? どう思う、ライザはよお?

――liz:

ノーコメント。だって私は、トランプ大統領がロシアとどういう関係を持っていたかなんて把握していないからね。知らないことを聞かれたって困るわ。

――Earthboy:

ふん、愛想の悪いスパイだな。要するにだ、俺はこれからロシアに無理難題を吹っ掛ける。攻撃もするし、メチャメチャ非難もさせてもらおう。貴様のこともスピーチでぶっ叩くから覚悟しておいてくれってことだ。

――putin:

お安い御用だ。

――tenma:

このような貴重な会合にあって、要するに自分の立場を守ることしか考えてないのだな。愚かしいことだ。

――Earthboy:

違げーよ、次が本命なんだよ。2つめだ。この俺は要するにアメリカ国内に巣食う既存権力と真っ向から対決中ってわけだ。わかるだろ、わかれよ。

――tenma:

世界的なアメリカ覇権を維持することを死守したい軍産複合体や、グローバル化を当然視するリベラル系メディアと、国内での隠然とした対決をしているということだな?

――Earthboy:

ぶっちゃけ、暗殺されるかもしれねーんだよな。どう思う、そのあたりライザはよぉ?

――liz:

また私に振る? こんなトップ会合の場だってのに、引っ張り出さないでほしいわ。私なんて書記みたいなものよ。

――Earthboy:

いいから答えてみろ。

――liz:

CIA分析チームが冗談交じりで検討したことあったらしいけど、伝え聞いたところによると暗殺確率は8%らしいわ。私の個人的判断によると確率15%。

――Earthboy:

なんだよ普通だな。歴史上でアメリカ大統領が暗殺された確率とほとんど同じじゃねーか。クソ面白くもねえ。まだまだ俺は仕事をしてねえってことの証明みたいなもんか。

――putin:

フッ、大統領の暗殺確率が8%もあったり、すでに何人もの大統領が暗殺されてきたアメリカは野蛮人の国だな。

――liz:

大統領は死んでもいいの?

――Earthboy:

俺なんかよぉ、どっちにしろもうすぐ寿命だぜ? だったら最後にド派手にぶち上げたっていいじゃねーか。それが男の人生ってもんだろ?

――liz:

男の人生なんて知らないけど……。

――Erica:

どこかtenmaと相通じるところがあるような気がします。

――tenma:

ふざけるな。俺はトランプのような低レベルの陰謀家ではない。しかも俺は寿命など意識もしておらん。まったくの別モノであることをEricaは知っておいたほうがいい。

――Earthboy:

おうおう、こっちだってテメーごときテロリストの首領と一緒にされるのは願い下げだぜ。愚民どもには、俺がやろうとしている革命がわからねえ。バカ揃いってことなんだよ。

――tenma:

バカ揃いであることは同意するが、俺以外の人類は全員低能だ。

――putin:

ところで、やはり君たちだと話が飛ぶようだ。脳が足りない政治家連中と話すと、こうなるから困りもの。

――Earthboy:

そうだよ、俺の話の途中だ、要するに俺は今国内に猛烈な敵を抱えてるってわけだ。こいつらはしぶとい。だがこいつらを叩き落さねーと、もうアメリカはダメだろうな。俺が死んだあとに別にダメになるのは勝手だが、大統領としちゃやれるだけのことはやっておこうと思ってよぉ。

――tenma:

で、具体的にはどうしたいんだ?

――Earthboy:

こいつらを叩いてほしい、俺と一緒にな。あらゆる方法を使ってだ。どんな方法でも構わない。関係しそうなキーマンを片っ端から殺しまくってくれてもいいぜ。

――tenma:

隙を見てその手のグローバル企業にミサイルを撃ち込んでもいいし、大株主を暗殺をしてもいいということだな?

――putin:

つまりロシアにそれを担えと?

――Earthboy:

俺だって命を晒してるんだからオアイコなんだよ。アメリカがNATOを通して欧州に強力に関わりたがっているのは連中だ。中東や中央アジアに張り付きたいのも連中だ。アジアのいざこざに介入したいのも連中だ。tenmaとputinにとっても、悪い話にはならないはずだぜ?

――tenma:

俺のほうは構わないが。

プーチンはどうなんだ?

――putin:

少なくとも、トランプ政権が強化されることはロシアの国益にも直結している。ロシアを常々敵視していたのは旧態依然としたアメリカ主流派だ。忌々しい連中をこの機会に根こそぎ地球権力から排除してしまえるならば、人類にとって素晴らしい取り組みとなるだろう。

――Earthboy:

よし、決まりだ。俺のほうからも適時ああしろこうしろと指示を飛ばすから、役者としてせいぜい活躍してくれや。

最後はtenmaだぜ、俺たちに何を求めるんだ?

――tenma:

まず帝国は、もうすぐオーレス首都に侵攻を開始する。オーレス共和国は俺のものだ。カモフラージュとして非難してもらうのは望むところだが、実質的な手は一切出さないでもらいたい。

――Earthboy:

こっちもシナリオ通りだ。tenmaにオーレスを押し付けて、アメリカ軍はカッコよく撤退させてもらうぜ。

――putin:

問題ない。だが先のロシア急襲事件の余波もある、外交上ではこれ以上ないほどの非難を繰り返させてもらう。覚悟しておけ。

――tenma:

OKだ。そしてオーレス共和国を統一した帝国の、次の目標は中国だ。帝国がいざ中国侵攻となった際、いくら非難してもいいが、実質的には全力で俺の援護をしろ。

――Earthboy:

おうおうおう、喜ばしいことじゃねーか。メチャメチャにしてくれよ。勝手にテメーと中国が争うってのは、目先の経済面は途轍もねえほど強烈なマイナスだろうが、広い世界史的視野に立つってんならアメリカが救われる部分のほうが大きいはずだ。

――putin:

素晴らしい話だ。もしそのことを予め知っていたら、この私も、君とマリシェヴァをすぐに暗殺しようとまでは思わなかったかもしれん。駒として残す価値がある。

――tenma:

中国を征服すれば、その後はすぐに日本や東南アジア諸国まで飲み込むことになるだろう。そしていずれさらに拡大し……要するに、この俺が世界を征服する。神だけに仕方がないのだ。

――Earthboy:

冗談は程々にしとけボケが。テメーなんぞがアメリカの逆鱗に触れてみろ、マジで消し飛ぶぞ、一瞬でな。

――putin:

いや、バカげた話だが、それほど悪い話でもない。tenmaが悪事を働くことで世界をかき乱していく状況を我々は事前に予測できる。たったそれだけで、我々は優位な立場に立てるに違いない。その意味からすれば、私とEarthboyでtenmaを煽りたてておくことは有効かもしれんぞ。

――Earthboy:

なるほど、俺たちに都合が良いようにtenmaを動かし、誘導していくと考えればいいんだな。たしかにそいつは悪くねえ。都合が悪くなったら、サッサとポイ捨てだって出来るわけだしな。

――tenma:

決まりだ。この秘密会談で、地球の未来の大半が決したとみていいだろう。外交上では互いに相手を繰り返し罵り続けることになろうが、ここでは常に結託する。互いにとって都合がよい限りはな。

――Earthboy:

よっしゃ、今日から俺たちは兄弟だ。俺に役に立つ間は、だけどな。

――putin:

私にプラスになる間は同盟関係を構築してやってもいい。

――liz:

とにかく話が決まって喜ばしいことなのかしら? 誰が先に裏切るか興味が尽きない感じだけどね。

――Erica:

中国の故事、三国志の『桃園の誓い』みたいなものでしょうか。相当に危険で怪しげな誓いですけれど……。

――Earthboy:

『桃園の誓い』、いいじゃねーか。

おう、俺たちもそんな感じにしようぜ? 誓いを結んだ3人が同じ日に死ぬことを約束する宣言だったな?

――tenma:

何をするつもりだ?

――Earthboy:

俺たちの血の同盟関係をここに熱烈に宣言するんだよ。俺が死ぬときは、tenmaとputinも死ね。そしてお前らが死ぬときは、俺も死んでやることを少しは考える余地がある。

――putin:

何を言い出すのかと思えば。私も、tenmaとEarthboyのどちらかが死んだときは、自分の死というものについて1秒程度は熟考してやろう。

――tenma:

いいだろう。貴様ら2人がいつ死のうと俺には痛くもかゆくもないが、俺が死んだとき、貴様ら2人には自殺する権利をくれてやろう。実に美しい盟約関係になりそうだ。

――Earthboy:

おう兄弟、ちょっとホワイトハウス前の売店からホットドック買ってこいや。代金はテメーら持ちな!

――putin:

ふん、美しい桃園でもあるなら少しは映えようものを、これでは『ネットゲームの誓い』だな。実にバカバカしい限りだ。だがこの愚かしさこそ、政治の実像というものだ。

――tenma:

貴様らには、せいぜい俺の帝国が世界征服していくための礎となってもらうとしよう。俺の踏台として人生を全うできることを全力で感謝するんだな。

 地球を我が物にするための、桃園ならぬ、ネトゲの誓い。

 いつ誰が裏切るかもわからないが、それを皆が把握したうえでの、最高に胡散臭い神々が奏でる国際政治ゲームの幕開けである。

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登場人物紹介

不動天馬(ふどうてんま)

40歳ニートだが、自分を神だと主張して憚らない。引きこもり歴は実に25年にも及ぶ。近所のコンビニがライフライン。

エリカ・マリシェヴァ

25歳。ロシア連邦保安庁(FSB)の情報工作担当官。日本人とロシア人のハーフで、日本語に精通していたため、東京より呼び戻される。

イヴァ・クリチコ

15歳。アスタリア人を率いる族長。しかし亡き父を継がざるをえなかっただけであり、祖父である長老が実質的に部族を仕切っている。

プルト・カシモフ

32歳。前族長の副官として部隊を率いていた。14歳で従軍して以来、アスタリアの全戦闘に従軍してきた歴戦の兵士。天馬に反旗を翻す。

ライザ・フローレンス

24歳。世界最大級のリベラル系メディアCNMの報道特派員。無名の天馬に狙いを定めて取材を申し入れてくるが……?

ロスティスラフ・プーチン

64歳。ロシア連邦大統領。元KGBのエージェント出身であり、国際政治に多大な影響力を持っている大政治家。

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