神は中年

文字数 1,293文字

 市庁舎の前の広場にて、天馬は、勢揃いした各小隊のチームリーダーたちを前にしていた。

 アスタリア軍は軍事機構というほどでもないが、ここにいるリーダーごとに10人を率いて一つのチームとなっているらしい。緊急で集められたアスタリア兵600だから、ここに揃うのは計60人ものリーダーたちだ。

出来上がったものから、俺の指定するポイント付近の木に設置していってくれ。上手く葉で隠して見つかりにくい上のほうだぞ。敵が侵攻してくる前に、まずは最前線の方面から取り付けていく。

【アスタリア兵】

長老……なんでこんな男に従わなくちゃならないんですか? そもそもこいつは誰なんです?
 天馬に並ぶように立っていた長老が、居心地悪そうに応じる。
う、うむ……。ロシアから派遣されてきた男だ……。ロシアからの援助を受ける意思があるのなら、そうそう無下にもできん……。

【アスタリア兵】

ロシア人っぽくないぞ。しかもなんでこんなに偉そうなんだよ……。オーレス政府のスパイじゃないか?
俺か?

クックック、聞いて驚け。俺はアスタリアの大統領だ。世が世なら土下座平伏のうえ俺を前にするべきところだが、今は戦闘前。こうしてこの俺と対等にここに立つことを許してやる。

土下座平伏って日本人しか意味がわからないと思うけど。
 やや後ろに控えていたエリカがため息交じりに言った。
【アスタリア兵】

なんだコイツ……バカすぎる……。

 リーダーたちがざわつき始めると、エリカの隣にいたイヴァが皆の前に進み出て、健気に男たちを見回す。
……み、皆さん……。今は天馬さんの指示を受け入れてみて頂けませんか……? 天馬さんの作戦は、私たちでは編み出せない優れたものだと思いました……。
 イヴァも迷彩服に身を包んでいた。天馬が促したわけもないが、イヴァは当たり前のように戦闘に出るらしい。たとえ形式だけであっても、それが部族の長としての役割なのかもしれなかった。
【アスタリア兵】

コイツに本当に作戦なんかあるのか?

【アスタリア兵】

ただの頭悪そうな中年のオッサンって感じなんだけど。
数々の軍事戦略を立案してきたこの俺に言わせれば、これしきの戦闘などたやすい。ハンニバル、カエサル、べリサリウスなど歴史上の英雄たちすら物の数ではないということを思い知らせてやろう。

【アスタリア兵】

すさまじい痛々しさだな……。
これはゲリラ戦ではない。政府軍に鉄槌を下すための掃討戦だ。神に歯向かう哀れな仔羊どもを、この俺の大義の炎が焼き払うことだろう。

【アスタリア兵】

どうもテメーは戦いってヤツを舐めてるだろ?

人が死ぬ。こいつはマジだ。政府軍に死者が出るってことは、俺たちにも出る。政府軍兵士を200人殺しても、俺たちには100人の死者が出るかもしれねえ。そういうものなんだよ。

そういうものだと思い込んでいるのは貴様らの勝手だ。貴様らのスマホはすべてこの俺が借り受けている以上、もはや情報漏洩の危険はないと判断し、これより作戦を共有する。現代戦における優れた将は、可能な限り戦闘員たちと情報共有し戦いに臨むものだ――
 それから天馬はリーダーたちの前で、大筋の戦いの流れを語っていった。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

不動天馬(ふどうてんま)

40歳ニートだが、自分を神だと主張して憚らない。引きこもり歴は実に25年にも及ぶ。近所のコンビニがライフライン。

エリカ・マリシェヴァ

25歳。ロシア連邦保安庁(FSB)の情報工作担当官。日本人とロシア人のハーフで、日本語に精通していたため、東京より呼び戻される。

イヴァ・クリチコ

15歳。アスタリア人を率いる族長。しかし亡き父を継がざるをえなかっただけであり、祖父である長老が実質的に部族を仕切っている。

プルト・カシモフ

32歳。前族長の副官として部隊を率いていた。14歳で従軍して以来、アスタリアの全戦闘に従軍してきた歴戦の兵士。天馬に反旗を翻す。

ライザ・フローレンス

24歳。世界最大級のリベラル系メディアCNMの報道特派員。無名の天馬に狙いを定めて取材を申し入れてくるが……?

ロスティスラフ・プーチン

64歳。ロシア連邦大統領。元KGBのエージェント出身であり、国際政治に多大な影響力を持っている大政治家。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色