神の無差別大量殺戮
文字数 2,175文字
クレムリンの大統領執務室では、側近らがプーチンを囲み、CNMの映像が流されていた。
ちょうど映像は現地の情勢のライブ映像からホワイトハウスに切り替わり、アメリカ大統領トランプが興奮した様子で声明を発表しているところだった。
【アメリカ大統領トランプ】
由々しき映像だ。アスタリアのテロ集団も、ロシアが創り上げてきたものだとすらいえる。アメリカがオーレス平定にてこずっているのも、すべてロシアのせいなのだ!
トランプが吠えていたが、すぐにまた映像は現地の戦闘の模様へと切り替わった。
プーチンらは意図せずして、自国の特殊部隊が着実に目的に接近していく様子をCNMを通して見守ることになった。
側近の一人が切迫した声で聞いてくる。
しかし、モスクワに向けて弾道ミサイルが発射されています。衛星からの観測によれば、ミサイルの数は100に及ぶかと。到達時刻にはまだ余裕がありますが、防空システムでどこまで撃ち落せるかどうか……。
プーチンは忌々しげに首を振った。
そのとき、テレビモニタの映像は激しく乱れた。画面は幾度も揺れ、大爆発の模様が映し出されたのだ。
CNM特派員が勇んだ面持ちで叫ぶ。
プーチンは耳を疑った。
ロシアのヘリ部隊から大量の爆弾……?
そんな可能性はありえない。いったい何が楽しくて無差別に殺戮を繰り広げるというのだ。単に街を破壊し尽くしてしまいたいだけなら、こちらもミサイルを飛ばせば済む話なのだ。
だが映像からは容赦なく、次々と家が爆破され、街に火柱が上がる様子が映し出されてきた。その音もすさまじく、CNM特派員の興奮しきった声が頻繁にかき消されてしまうほどだった。
CNM特派員の上げるロシアへの非難がどこか弾んで聞こえるのが憎々しい限りだ。
炎を噴いた爆弾は黒煙を上げ、それが幾つも折り重なってゆく。
側近の一人が代弁したような声を上げる。
アスタリア側は撤退を図りながら、自ら街を爆破しています! 予め家々のそこかしこに仕掛けられていた起爆装置を起動させており、我がほうが即席の陣地としていた場所を家ごと吹き飛ばしています! 我が特殊部隊に死傷者多数!
やがて目を開け、今度は視線を中空へと向ける。しばらく無言で壁の一点を見やっていたプーチンだったが、やがて静かに受話器を持ち上げた。
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