神の散歩
文字数 5,168文字
――tenma:
この俺は今、いよいよ世界征服に乗り出すための軍備拡張に乗り出した。我が大統領官邸の庭を即席の臨時工場とし、帝国内の自動車修理工や電気技師などを集め、大量の弾道ミサイル配備に乗り出している。
――リヴ:
世界征服カンタンすぎぃwwwwwwwwww
――半蔵:
自動車修理工がなんで弾道ミサイル作れるんだよwwwww
――tenma:
明後日くらいまでには100基の弾道ミサイルが完成するだろう。できれば核弾頭を搭載したいところだが、今回は他の弾頭で代用せねばならん。生物化学兵器もアリだが、小型ミサイルに搭載できる程度のものなら、実際には着弾時に大きく拡散してしまい打撃力は低い。アメリカから供与された爆発物のなかで、搭載できる重さの範囲内でもっとも威力のあるもので代用せねばならんな。無色透明の生物化学兵器より、爆発して辺りを破壊したほうが見た目も派手でいい。
――Danz:
tenmaの最近のストーリー、なんか完全に破綻してしまってますがwwwwww
――tenma:
帝国の軍事力強化はまだまだこんなものではない。1か月以内には1000基を超える弾道ミサイルと、それにふさわしい弾頭を取り揃えるつもりだ。また並行して無人攻撃ヘリの開発にも乗り出し、地域の制圧力を格段に高めていく方針だ。我が弾道ミサイル群や無人攻撃ヘリ部隊、いずれはAIを搭載した陸上兵器の数々……おお、なんということだ、あまりに俺がチート無双すぎる……。世界を支配してしまうのも仕方ない。
――今井:
内容は徐々に具体的にはなってきているような気がするんだけどねw
――IORI:
思わず具体化しすぎてストーリー破綻このやろうwww
――半蔵:
そういやこの前ホワイトハウスがどうたら言ってたハンターの女、なんだったんだ?
――Danz:
CIAまでtenma神の手下だったんですか?wwwwwwww
――リヴ:
どんだけtenmaが地球を支配してるの?wwwwwwwwwwwwwww
――半蔵:
政府軍と戦ってたんじゃねーのwww
――今井
あっさり不要になる政府軍カワイソス…
――IORI:
突っ込みどころ多すぎこのやろうwwwww
――リヴ:
tenmaの帝国軍が本格始動すれば世界征服はすぐなんだよね?www
私たちもtenmaに支配されるってこと?wwwww
――半蔵:
え゛!?
――今井:
100%じゃないのが逆に驚きだよねw
――リヴ:
tenmaなのに弱気すぎぃwwwwwwwwwww
――Danz:
何が始まるんです!?wwwwww
――半蔵:
もう即興の小説続かなくなったのか?www
――今井:
元々破綻してたんだし、tenma小説のエンディングなんて気にしなくていいよw
――リヴ:
即興小説の終わり方なんて世界征服達成しましたチャンチャンでいいじゃんwwwwwwwww
天馬が打ち込もうとした瞬間、コンコン、とノックが鳴った。どこか弱々しい、悲痛なノック音に感じたのは、自然と天馬がノック音で相手を見分けるようになったことも影響しているのだろう。
ギルメンたちがモニタの向こうで勝手に盛り上がっていたが、天馬は最後の言葉を打ち込む。
そして天馬はギルメンたちの挨拶も聞かずにログアウトした。
さらにもう一度、ノック。
動転するエリカを促し、天馬はリクライニングチェアから起き上がって、さっさと大統領執務室を出た。慌てたようにエリカが付いてくる。
天馬は言葉もかけずに玄関から外へと踏み出した。あたりはすでに薄暗くなっていたが、大統領官邸の1Fと2Fや玄関外の灯りは灯されたままだったので、真っ暗というわけでもない。ただ、本当に散歩へと歩き始めれば、懐中電灯か車のライトでもない限りは、なかなか周りを判別できなくなるだろう。
街を見下ろせる庭の端までやってきた天馬は、辺り一面を眺めやる。まだ暗くなって間もないため、消灯時間の家は多くなく、ささやかな灯りが各部屋から照らし出されている。アスタリア人の主要な電力は 近くの山の斜面を大量に占拠していた中国製のソーラーパネルだ。ひと昔前はプロパン、灯油、炭などが主流電力として活用されていたこともあったが、ソーラーパネルが流行になる遥か前から中国から捨て値で買いあさり、今では各家庭の基本的な電力は賄えるまでにはなっている。本格的な工場設備ともなれば賄えないものの、街に連なる数百の家庭に電力を供給する程度なら十分な状況だった。
天馬の答えは揺るがなかった。
静かにエリカは拳銃を取り出し、天馬へと向けてきた。銃口は、天馬の眉間にピタリとあてがわれた。なるべく苦しまないように天馬を送り出そうとするエリカの意思が感じられるようだった。
だが天馬は少しも動じず、鼻で笑う。
天馬は懐に手をやり、淡々と拳銃を取り出した。そしてゆっくりとエリカに銃口を向ける。その銃口も、エリカに倣って、エリカの眉間に突き付けられた。
これには、エリカはよほど驚愕したようだ。目を見開き、息をのむ。
互いに銃口を突き付け合い、互いを見つめ合い、動かないままの状態が続いた。エリカはすっかり言葉を失ってしまった様子だ。一方の天馬は飄々としており、いつもの通りに自信に満ちた表情で向き合っていた。
夜の静けさが増していくなかで、天馬とエリカは互いの眉間に銃口を突き付け合ったまま微動だにしなかった。
どのくらいの時間が経っただろうか。さも挑発するような口調で天馬が口にする。
言いながら、天馬は引き金を絞った。
エリカも、引き金に込める力を強めたようだった。
そう天馬が促した。
エリカはしばし逡巡した様子だったが、やがて決意をこめるように口にする。
次の瞬間、エリカはさらに引き金に力を込めた。
同時に天馬もエリカを鋭く見据え、ついに引き金を引き絞った。
カチリと天馬の銃から音が響き、あっ、とエリカの声なき声がこだまする。
その場でエリカはよろめき、たちまち意識が薄らいだ。
エリカが最後に見たものは、天上を埋め尽くすほど煌く星々の光景だった。
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