神の防戦
文字数 2,803文字
市庁舎の会議室、テーブルを囲んだ面々――天馬、エリカ、長老、イヴァの4名は、地図上に視線を落としながら話し込んでいた。
周囲の村々まで根こそぎ召集をかけている。明日までには600人になるじゃろう。それがアスタリアの総兵力じゃ。もちろん老人や子供、戦闘で負傷した男たちにまで参戦者を募れば、もっと数は増えるじゃろうがな。それは非常事態じゃ。
俺には無数の戦闘経験がある。かつて『プロジェクトX2』という伝説の戦闘ネトゲがあったが、あのゲームは俺の支配下にあった。あまりに俺が無双しすぎたせいで他のプレイヤーが逃げ出し、サービスが終了したのだがな。毎日を戦場に身を置いていたことは間違いない。ただ実践経験がないだけだ。
軍のトラックが進行可能なルートはこの一本道じゃ。しかしザリスの監視台を明け渡した今、補給物資はザリスに集めておけばいい。ここから軍を動かせば、政府軍にとっては複数の侵攻ルートが確保できる。どこかに守備兵を結集するような作戦は取れんよ。考えうる侵攻ルートは――
話しながら、長老がいくつかのルートを指で指示していく。長老はすべてのルートを、そこを通るメリットデメリットについて解説を加えながら語った。
長老の説明が一通り終わると、エリカは口にする。
それまで、押し黙って会議に参加していたイヴァが、地図を指でなぞりながら、おそるおそるといった風に口をはさんでくる。
政府軍を率いてくるのは隣のアルザリ人出身の軍大佐です。とすれば、この地域の地理にも詳しいということです。政府軍の立場になってみれば、危険な谷を通らなくてはならないここやここから侵攻してくる可能性はないと思います……。
ここしかないと断言しているわりに自信なさげな声音だったが、天馬にとっては有用な情報だった。そしてイヴァの指摘は、地図上で照らし合わせた限り、天馬には的確なものに思えていた。イヴァは引っ込み思案なだけで、その内奥には十分な知性を持っているに違いない。
天馬はそう言い切り、指示を飛ばしていく。
まず、イヴァが指摘した2か所の谷の付近に、それぞれ150ずつの兵員を配置しよう。イヴァの読み通り、ここを通らないとしたら無駄な兵になる。あくまで万が一、政府軍がここを通るようなことがあれば、150でも優勢に戦闘を展開することができよう。
もっとも大事なことは、政府軍の進行ルートを一つに見定めることだ。この2か所に150ずつを配備すれば、政府軍がここを抜けようとするのをシャットダウンできる。だからこちらは、イヴァが示したルートに布石のすべてを注ぎ込むことができるということなのだ。
エリカはそこで言葉を止めた。ひとまず天馬の戦術を確認しようと考えてのことだろう。
天馬は地図上をなぞっていく。
ひとしきり笑った天馬は、素早く命令を下す。
天馬が促すと、伏し目がちのイヴァがおずおずと口にする。
案ずるな、スマホは借りるだけだ。壊れるものもあるに違いないが、大半はそのまま返せるだろう。そして大量のロープや紐、それからモーターでもなんでもいい、引っ張る力のあるものを用意しろ。街のエンジニアも全員、俺の下に呼び寄せてもらう。
これだけの車やバイクがあるのだから、修理工はそれなりにいるはずだ。いや、修理工にこだわる必要もないかもしれない。天馬の指導通りに組み上げれば、立派な新兵器の完成である。
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