――tenma:この俺の臣民管理システムを用意し、すべての臣民に強制的にナンバーを割り振っているところだ。ようやくこの俺の帝国の姿が明らかとなりつつある。
――半蔵:明らかじゃなかったのかよおwwwwwwwwwwwww
――tenma:我が帝国の規模は明らかではなかった。日本のように戸籍が用意されている国家とは違うのだ。しかし真っ新なところから完璧なシステムを作り上げることができるため、瞬く間に日本ごとき小国よりも充実した国家体制となるだろう。
――半蔵:だからどのくらいの規模なんだっつーのww
――tenma:ひとまず6274人が初期の我が帝国民だ。この数は、瞬く間に拡大していくはずだ。
――リヴ:やたら具体的だけどうちの大学より少ないよ、数がwww
――IORI:過疎化で帝国滅亡このやろうwwwwwww
――tenma:全帝国臣民を徴兵しても、第一線で使える兵力は1000といった数に留まりそうだ。我が首都の周辺だけで軍事行動をするならこれで問題なかろうが、遠方に兵を出すことになれば、ロジスティクスを担う兵隊も必要になってくる。となれば、本当に最前線に投入できる兵力は500~700が限度と見ていいだろう。
――Danz:どうやってアメリカ軍に勝つんすかwwwwwww
――半蔵:妙にこじんまりしてきやがってwww世界征服はどこいったんだよおおおwww
――tenma:新時代の戦いは数で決まるわけじゃない。これからの戦いは、個人の能力と総合的なシステムのシームレスな連結がキーポイントとなろう。その点において、数は数多あるパーツの一つにすぎなくなる。総兵力1000でも、優れたシステムと、この俺のような神さえいれば、アメリカ軍を相手にしようとも勝つことは可能だ。そのことを、これからこの俺が、あまねく世界に見せつけてやる。
――Danz:tennma神なんで今日は長文語りしてるんすかwww内容はアレだけどwwwww
――リヴ:なんかtenmaの話、徐々に具体的になっていってるような気がするよww気のせいなのかなww
――tenma:国家体制の整備が終われば、いよいよ帝国軍は首都に侵攻し、政府軍を追い詰めるだろう。その最大の障害はアメリカ軍になる。駐屯しているアメリカ軍は小兵力といえど、我が帝国兵が蹂躙・殲滅させようものなら、アメリカ本国からの増援部隊もあるやもしれん。外交上の布石を打っておく必要があろう。ロシアカードを使うべきか、中国とも秘密裏に外交ルートを開いておくべきか……今後の俺の決断は、地球の命運を決することになるに違いない。
――IORI:tenmaの決断ごときで決せられる地球このやろうwwwwwwwwww
そんなやり取りをしていたところ、天馬の背後からガチャリと扉が開く音が聞こえた。
天馬は振り向きもしなかったが、誰かはわかっていた。
エリカが呆れた声で入ってきて、リクライニングチェアの横から天馬を眺めおろしてきた。
――tenma:うるさい副官が来た。ノックもせずに入ってくる無礼な女だから、いつか俺の着替え中を覗かれることになるに違いない。
――IORI:ノックせずに入ってきて着替えを覗かれる何そのラノベ設定このやろうwwwwwwwwww
――Danz:副官設定の美人女将軍ですねわかりますwwwwwwぼくは美人くノ一がいいですwwwwwwwww
――tenma:美人であるのは認めるが、女らしさを感じる局面はまるでない。実物と接すれば理解できることだ。女と認識するには、雰囲気や話しやすさも必要条件の一つということなのだろう。
――IORI:実物という名のフィギアこのやろうwwwwwwwwww
――Danz:気が強すぎる副官美人女将軍ますます気になりますwwwwwwwwww
天馬がキーを打とうとすると、ふいにエリカの腕が伸びてくる。
天馬は慌てて押しとどめようとしたが、エリカにマウスを奪われ、いきなりログアウトされてしまった。
天馬の着替え姿なんて覗いても何にも感じないわ。私たちにとって監視対象者は無機物みたいなものだから。
今日はこれからディアボロス戦に行く予定だったのだぞ?
俺がいなくてはギルドは成り立たん。なにせディアボロスと対抗できるスキルや武器を所有しているのは俺だけなのだからな。そして戦術的にも、俺なしでは戦えない。
ディアボロスだか何だか知らないけれど、一人だけいつまで遊び惚けてるのよ。
国家管理システムの整備は順調なはずだ。
次は中央銀行、アスタリア金融システムの準備だが、磁気カードやICチップが大量に届かないと用意ができん。それまで神の休息だ。
一人一人にナンバーを渡したり、ネットでの自分の情報の管理の仕方を教えたり……そんな雑務を仕切っているのは誰かしら? なんで私がパソコン教室の先生みたいなことをしなくちゃならないのよ!
実際に手足となって動く人間を雇えと言ったはずだ。それにアスタリア人も若い連中は皆PCもスマホも持っている。指導が必要なのは長老のような老人に対してだけだろう。
雇用した相手にだって懇切丁寧に指導しなくちゃならないでしょう?
この俺とて、収集した情報の分析くらいはしている。尤も、俺なら5分ですべての情報を処理できるのだがな。
いずれ国家管理システムが完成すれば、我が帝国臣民には俺が直接指導することになろう。それまでの間、エリカが一時的に役目を担うだけだ。
従順な仔羊に教え聞かすのと違うのよ? 反抗的な人間だっているわ。
天馬が導入したいろんな仕組みを拒否したり、反対する活動に取り組む相手だっている。これから兵役や税金を課したりしようって話で、誰が喜ぶものですか。
この俺の国家改造に反逆する者はシベリア送りにしていい。我が帝国には、思想矯正を行う施設も必要らしいな。
アスタリアやオーレスのどこにシベリアがあるっていうの。強硬に反対する人たちが複数出てきてる。イヴァが頑張って説得しているけれど、無理っぽいわ。
無理なら帝国追放だ。
処刑したいところだが、まだ恐怖政治を敷くような時間じゃない。臣民どもに、この俺の優しさも見せつけてやらねばな。
武器を取って反対するとまで言ってるのよ。このままじゃ、まともに統治する前にクーデターが起こりかねないわね。
しかも反対派にはリーダーがいてね、かなりの人望の持ち主みたいよ。
ほう……?
まさかこの俺に匹敵するほどのカリスマを……?
そのとき誰かが廊下を走ってきたようだった。すぐに開けっ放しだったドアからイヴァが顔をのぞかせる。
イヴァは息を切らせていた。狭い部屋に入ってくるなり、天馬とエリカにまくしたてる。
落ち着けイヴァ。
大統領執務室では、どれほど極まった事態でも冷静に振る舞うべきだぞ。周囲の者たちの焦りが、大統領の核ボタンを押す決断に影響を与えないとも限らないのだからな。
ゴメンなさい、天馬さん……。
でも大変なんです。プラトさんが、どうしても天馬さんの急な改革を受け入れられないって、反乱を……!
まさかも何もないでしょ。そりゃネトゲ三昧に明け暮れてる自称大統領には反乱だって起こしたくなるわ。事態はますます悪化中ってことね。
反乱を先導しているプラトさんという方は、お父さんの副官まで務めた人です。常に最前線で戦う人で、アスタリア人のなかでも一番人望を集めています。何とか改革に協力して欲しいってお願いしていたんですが、もう我慢ならないって……!
我慢ならないのは俺のほうだ。アスタリアを超大国にしようと奮闘している俺に対し、反乱などあっていいはずがない。
プラトさんは反対グループを率いて街はずれのモスクに立てこもってしまいました!
お爺ちゃんが説得に向かったんですが……。
やむを得ん……神の出番か……。
大規模反乱軍の場所を捕捉しているだけでも良しとしよう。
大規模ってわけじゃないですけど、プラトさんに同調する10人が武装をして……。
車に乗るのは数日ぶりだった。いや、コンビニがないここでは、外に出る機会すらなくなっていた。政府軍との戦闘が終結して以来、天馬は引きこもっているようなものだった。それゆえ街の情報はエリカやイヴァを頼りにするしかったのである。
言いながら、天馬は『ファウストオンライン』を立ち上げ、ログインボタンをクリックした。ロード画面に切り替わったとき、エリカが素っ頓狂な声を上げる。
これから反乱を鎮圧に向かおうってときに、何でネトゲ!?
さっきも伝えたはずだ。このあと俺はもともとギルメンとディアボロス狩りに向かうスケジュールを組んでいた。だが急な用事が入ったため、ディアボロスとのアポはキャンセルだ。ギルメンどもにも、戦いはお預けだと伝えねばならん。俺の律儀さは並じゃない。
初めて感覚がわかった……。天馬にとっては、ネトゲ内の出来事も、この世界の出来事も、同じ次元のなかの話なのね……。
――tenma:いや、さっき話した俺の副官がマウスを奪い、無理やりシャットダウンしてしまったのだ。自分の話を聞けとな。
――IORI:なにその青春の1ページなシチュエーションこのやろうwwwwwww
――tenma:ディアボロス戦は中止だ。急な用事が入ったからな。大統領として、ここは出向かねばならん。
――半蔵:女将軍との脳内デートかよおwww
ちくしょおおおおおおwwwww
――tenma:いや、我が帝国内で不穏分子が大規模反乱を起こしたのだ。
――Danz:コーヒー吹いたwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
――リヴ:wwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww
――半蔵:どこで大反乱なんて巻き起こってんだよおwww
テレビつけたけど何も始まってねえwwwwwwww
イヴァ、こんなの放っておいて行きましょう。
長老にも状況を確認しなくちゃならないでしょ。
あっ、はい……。
じゃあ天馬さん、車で、待ってますね……。
イヴァは優しく言い、エリカに続いて大統領執務室を後にした。
――tenma:この俺が自ら帝国軍を率いて反乱鎮圧へと向かわねばならない。これは、ディアボロス戦より優先しなくてはならない事項だ。
――IORI:ついさっきはアメリカとの対決とか、着替えを覗かれるとか言ってたばかりじゃねえかwwwwwそして反乱www次から次このやろうwwwwwww
――Danz:ストーリーテラー神の称号をtenmaに進呈www
――tenma:俺の縦横無尽な活躍は伊達じゃないということだな。これ以上待たせると副官がキレる。俺は行くぞ。
――半蔵:帝国軍を率いて大反乱の鎮圧に向かう40歳ニートぱねえwwwwwwwwww
天馬は挨拶もそこそこにログアウトした。
そしてリクライニングチェアから立ち上がり、エリカとイヴァが待つ車へと足を向ける。大統領の、久方ぶりの外出だった。