透明人間

文字数 479文字

ドーナツ店の片隅で
珈琲を飲む
明るすぎる店内
リアルってまぶしいんだ

饒舌な女たち
寡黙な男たち
女たちは口から 
男たちは口無しの花から 
それぞれ生まれてきた

隣のテーブル席に
無造作に置かれたお皿
ドーナツの穴だけ残して
あとは空っぽの人生
所作のない満杯の長いジュース
楔を打ち損ねたストロー
不存在の存在感を残し
斜に構えた椅子 まるで
無重力を支えるかのように

無名の隣の君は何処へ行ったか
光りに攫われたのか
探す術を探す
リアルからバーチャルへ
都合よく逃げたんだ
ならば僕もバーチャルへ

ぽっぽっぽっと
バーチャルって蝋燭の炎なんだ
眼に映らない糸筋のけむり
僕にも伝染する
陽炎みたいに感染する
僕は忍びの者のように印を結び
透明人間になるまで・・・
消えた 消えたよ

やって来た店員
「珈琲のおかわりどうですか」
あっ 見えていたんだ
首の皮一枚で繋がって
救われたかのような僕
「半分下さい」と言って
また透明人間になっていく

隣の席の誰もいないジュース
いつのまにか半分になっている
僕は人生の断片を拾うように
もう一人の君を見る

ウインドウ越しに
なおも大きな光ゆれて
色のないゆらめきのように
君の居場所は戻ってこない
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