第１４話 三位一体のエネルギー ソルナテラ
文字数 2,851文字
ミカは絶句したまま、部屋に映し出されたゆっくりと回転する三つの天体を見ていた。一体この空間は何なのか。そしてこの部屋でアイ１は何をしているのだろう。
「ここに映し出されている太陽、月、地球の像は本物と繋がっている」
アイはミカの心の動きを察したように言った。
「繋がっているですって？」
「ここから太陽でも月でも行ける。この部屋は、アストラル・エレベータのポータル。この像を通ってね。太陽の時空へ行きたければ、私は太陽の像を通って、太陽へ行く。月の時空へ行く時は、月の像を通っていくわ。そして地球の像は、地球の中心、ヱルダイヤモンドへと繋がっている」
光シャンバラは、この部屋で三つの世界と繋がっていた。メタルコンピュータ・ヱルメタルと、地球のソウル・ヱルダイヤモンド、そして伊東アイその人の秘密はリンクしているのだ。
「まさか……もしかしてあの時、ヱルダイヤモンドを--------、地球を召還させていたのって、あなたなの？」
ミカは世界を再生させる時、自分の居た地球に向かって再生を祈り続けた。その結果、地球はミカの願いを聞き届けてくれた。……そう思っていた。
「ええ、そうよ。あなたの呼び掛けに答えたのは、私。私はヱルダイヤモンドの形である、惑星グリッドをコントロールするメタルマスターよ。各ヱルメタルは、グリッドのサポーターという訳。あの時、あなたは私に約束してくれた。今度こそ、必ず進化するとね。だから、私はそれを信じて、あの時、ここから私はダイヤモンドの核へと行って、地球のソウルにお願いした。そして、破滅の時間座標を次の宇宙へとずらした」
あの時、出現したヱルダイヤモンドは、シャンバラのアイ１が出現させていたものに他ならない。
「-------あんた一体、何者なのよ」
ミカは怪訝な顔で質問する。
「前に答えたわ。私は三つの星を司る創造者。太陽と月と地球は、三位一体の働きで小宇宙世界を形成している。ここは『三位一体の間』。それを管轄するのが私の役割。この部屋は、三つの世界が一つになって、地球の生命の進化が始めてなされる、という世界の秘密を示しているの。どれが欠けても、地球の生命は進化できない」
ミカは、青白く輝く満月の像に目をやった。
「フン、よく言うわよ。なら一つ聞くけど、あなたは、月を、牢獄にしているんでしょ？ 時輪ひとみから聞いたわ。あなたはこの箱庭世界で、何が存在し、何が存在してはいけないかを決定してる-------。それが伊東アイという支配者よ。だから、亮のお母さん、原田カグヤさんもこの世に存在しないんだわ。時輪ひとみも、存在を許されないで月に閉じ込められている。気に入らないヤツは、皆抹殺する。それがあなたなのよ！」
まだまだ自分が優位に立っている、そうミカは思いたかった。
「この現在の宇宙は、仮の姿。今の月は、本当の月ではない。私が最初の計画、セレン計画で何をやろうとしていたか、教えましょう。遥か太古の昔、今とは違う月が浮かんでいた。それが真の月。真の月の女王の名がセレネー。この時空に、ダークフィールドのゲートになる現在の月が現れた時、真の月は姿を隠してしまった。現在の月は偽の月。帝国がこの時空に設置した超巨大ディモン兵器。それ以来、太陽、月、地球の本来三位一体の世界で、真の月だけが欠けたまま、ブルータイプとレッドタイプの戦いが始まった。次第にこの世界は、ダークフィールドが形成されやすくなっていった。その結果、現在の太陽、偽の月、地球の時空の構造が出来上がった。以来、私はブルータイプ達を月の世界に閉じ込めている」
月の像が、ミカに向かって大きく迫ってきた。
「現在の月が闇の世界でも、時折そこに真の月の時空が見え隠れしている。それが太極図の闇の中の光の一点。セレン計画は、原田カグヤのセレネーを召還する力によって、真の月を、再びこの時空に取り戻す計画だった。真の月のエネルギーは、地上を進化させるエネルギー。私が太陽からシャンバラに乗って地球へ来て、衝突した時にできた月の本来の役割よ。真の月のエネルギーが戻った時、始めて宝生晶が言った事が現実化するでしょうね。セレネーのエネルギーは、ブルータイプとレッドタイプの対立を融和させ、一つにするから」
晶が言ったことには、一片の真理が含まれていたらしい。しかしセレネーの力を求めたところで、晶も原田カグヤではない。
「その時、三つの世界のエネルギーは宇宙の中で正しく循環し、回転を始める。循環するライトフィールドは、争いを経ずに二つの種族を螺旋に乗せて調和し、次元進化させる。それは、月の女王・セレネーがなければ、決してなし得ない。太陽と月と地球の三位一体のエネルギー循環だけが、全てを統合し、中和する、癒しのエネルギーだからよ。その時、太陽と月と地球は本来の三位一体の世界を取り戻す。真の救済計画は、どれか一つが欠けても成立しない……。セレン計画の時、それは果たせなかったけど、私は諦めてはいないわ。私はいつか必ず、この宇宙のかつての姿を取り戻そうと思っている。でも今は、起こってしまった問題を先に解決しなくてはいけない」
アイ１と太陽の像が重なった。アイは太陽に背に立ち、後光のようにその輪郭が光っている。
「太陽は、私がもともと来た世界、そこがライトフィールドの根源」
アイは太陽から来た太陽人。どおりで太陽を直視しても平気な訳だ、とミカは思った。
「そう。私はここ以外でも、地上に居る時、時おり太陽を見る事で太陽の時空と交流する。太陽から直接活動エネルギーと、情報を得るためにね」
ミカはアイ１に再び心を読まれ、ビクンとする。アイはアストラル通信を使えるのだ。
「地球は、ライトフォールドとダークフィールドが交叉している世界よ。光と闇の世界。そして今の月は、ダークフィールドの世界で私は封印している……。地球は永い事、太陽からのライトフィールドと、月からのダークフィールドの影響を受けて来た。そのどちらのフィールドが地球で強まるかで、地球はこれからどこへ向かうのかが決定された。地球が、この三つの世界の運命を握っている。もっとも、闇の世界である月も、完全に闇ではない。太極図のようにかつての光を送っている。那月さんが言った事もまた真実。私は、このヒエラルキーがいずれ解消される時を信じている。そして三位一体の宇宙が、取り戻されなければならない。でもそれは今すぐではないわ。そう簡単ではない……。この世界の進化計画は、あなた達人類には推し量り難い遠大なものなの」
アイ１の背後に月の像が重なった。アイの口から、月が生命の進化の源であることを告げられた。やはり鮎川那月の言ったことは正しく、また那月自身も完全な悪ではない。それは正しかった。けれども、失敗したのだ。その純粋さ故に。
