第10話 十二神将

文字数 5,421文字

 渓谷から、十個の光の輝きが現れた。どんどん嵐が酷くなってゆく。
 ヱルゴールドのナビゲートによると、ヤルンツァンポ大渓谷の何処かにシャンバラへの入口、アルカナゲートがあるはずだったが、その地下のゲートが開いていた。しかし、ゲートから十機のメタルドライバーが出現すると、すぐにゲートは閉じてしまい、結局場所は特定できなかったらしい。
 ミカ・ヴァルキリーは追跡を一端中断し、応戦しなければならなくなった。人類側に立つヱルゴールドから、続々相手の情報が送られてきた。彼らもまた、シャンバラのウォリアー、ケルビムだ。時輪経に旧支配者と記されている「十二神将」、すなわちビカラ・ショウトラ・シンダラ・マクラ・バヤラ・インダラ・シュウランラ・マニラ・アンダラ・ミコラ・ワキラ・コンピラの十二機。そのうち、ビカラことセレン・ドライバーと、シュウトラことルビー・ドライバーはミカ・ヴァルキリーが撃破した。
 残るは、パール・ドライバー、アメジスト・ドライバー、エメラルド・ドライバー、シルバー・ドライバー、コッパー・ドライバー、サファイア・ドライバー、ガーネット・ドライバー、プラチナ・ドライバー、ビスマス・ドライバー、そしてリーダーのコンピラこと、ゴールド・ドライバーである。
 神将ことドライバー達はもともと十二体、十二のヱルと相応する十二の石で組成されているらしい。一機一機の形状は微妙に異なり、その形状は十二神将の仏像でもあり、戦国武将の甲冑のようでもあったが、全てが百パーセントの純粋な鉱物で出来ていた。所有するアンテナランスもそれぞれ少しずつ形が違い、先端が独鈷や三鈷、五鈷など、多種多様な密教法具の形状やその他の槍のバリエーションを有していた。
 ミカはルビースピアーを構えて、上空から様子を伺った。アストラル・シールドが嵐を避けていた。
 奇しくも、ヱルゴールドと同じ金属であるリーダー、ゴールド・ドライバーが、ミカ・ヴァルキリーに叫んだ。
「破壊は自らを破壊するのと同じ事!」
 ドライバー軍団は蓄光の輝きを放ち、中でもゴールド・ドライバーは別格な輝きを放っていた。
「アスラよ、汝も、この星を失って住む場所などないはず。生命(いのち)の根源であり拠り所である星を滅ぼし、自らが生きる道などない-------」
「誰も滅ぼすなんて、言ってないじゃん! 伊東アイのでくの坊軍団が! 地球の代理みたいな事言ってんじゃないわよ」
「いかにも-----、我らはこの星の代理なり」
 ミカは宇宙創成の際に出現した十二個のクリスタルを思い出し、ハッとした。
「我らメタルドライバーとヱルは、始まりの時に星より誕生した。三十六億年前の太古に、伊東アイによって地球創成の世界建設のために産み出された---------。我らは戦士として、ヱルは頭脳として。太古の地球環境は荒々しく、我らが武装された身体はそのためのもの。その後、我らは月と戦い、数々の変遷を経て、封印された。だが今こそこの星とともに、この星を守るために我らはある! 自らを滅ぼすその愚かさに気づかぬ汝に対し、我らは立ちはだかり、破滅を阻止する者なり」
 全身を遂げで覆われた黄金の仏像といったゴールド・ドライバーは、ドシンドシンとアンテナランスを大地に打ちつけ、大時代的な演説をしている。古武士然としたその印象。
「ダークフェンリルは今、地下への他のゲートを求めて地球中をさまよっている。もはや我らに残された時間はない。地球にも、残された時間はない!」
「ダークフェンリルなら、あたしが倒すから問題ないって言ってんじゃん!」
「うるぼれるな! ガーネット、サファイア、征け! 我らはこれよりダークフェンリルを追う」
 そう言い残し、ゴールド・ドライバー達はプラズマ力で浮上した。
 ガーネット・ドライバーと、サファイア・ドライバーが浮上し。ミカ・ヴァルキリーに迫った。
「金閣寺ッ! 燃える音楽頂戴!!」
 ミカがヱルゴールドに命じると、ロッシーニの「ウィリアム・テル序曲」が全世界のヱルに流れた。今度のヱルゴールドの選曲は、なんと運動会のテーマ曲だ。
 光輝く二機は、ミカの周囲を高速で飛び回りながら、その美しく鋭い槍の先端をミカ・ヴァルキリーの身体に突き立てた。
 二機のウォリアーとドッグファイトしながら、ミカは相手の動きを、アストラル波の流れで感じ取っている。頭から流れ出る黄金のツインテールがアンテナのような役割を果たしていた。ドライバーは高速で嵐の雲間に隠れながら、ランスから発射したプラズマ弾を撃ってきた。そして時折ミカに急襲しては、ランスで斬りかかるのだった。
 ミカは雲隠れする二機と、空中で激しく撃ち合った。二つの槍が衝突する衝撃音と振動波が、周囲の雪山を振動させた。
 純金のツインテールのアンテナは、二機を同時に捉えた。
 音楽に乗って、まるで火の弾丸のようなスピードで両機の間を切り抜け、「おーりゃぁー!!」と雄たけびを上げながら、ミカは二機を次々とバラバラに粉砕した。

 アストラル通信で、ヱルゴールドがミカの見ている情景を映像に視覚化し、時空戦略ホールの晶達はミカとドライバーの格闘を見ている。
「あんたの革命は、ミカの戦闘力を予想してたの?」
 怜はぽかんとした顔をして、背の高いボブブカットの女に訊く。
「こんなこと、私は予想もしなかった。圧倒的にミカ・ヴァルキリーが強いわ。……人類に、これほどの力が眠っていたなんて」
 大スクリーンで見つめる宝生晶の目にも、驚嘆の色が宿っていた。全てが晶の賭だった。現在のところ、ミカ・ヴァルキリーの方が、メタルドライバーに戦闘能力で勝っているが、その賭に勝利するかどうかは、まだ分からない。
 ヱルゴールドが流していた音楽は終わった。

 仲間を破壊された事を察知し、ゴールド・ドライバーと計八機のメタルドライバーが、捜索を打ち切り、続々引き返してきた。ミカにシャンバラのゲートに侵入される恐れが迫ったためらしかった。彼らはまだ、ダークフェンリルを発見していないようだ。
 真紅のアストラル・シールドをなびかせたミカ・ヴァルキリーは、ルビースピアーを構え、神将たちの急襲を待ち構える。
 最初にエメラルド・ドライバーがミカに襲い掛かった。ミカは、相手の腕を掴むと雪山に投げ飛ばす。エメラルド・ドライバーは吹っ飛ばされ、山肌を突き抜けて大穴を開け、さらにかなたに向かって飛んでいった。
 ミカのルビースピアーは、背後に接近したパール・ドライバーの胸を突き破る。
 一瞬、白い輝きが当り一帯を眩く照らし、純白の兜蟹のような鎧に覆われた巨人は空中爆発した。
 赤い槍が、次の獲物を捉えた。ミカは前方のコッパー・ドライバーを袈裟切りに叩き斬り、その身体を真っ二つに引き裂いた。
 山脈を破壊して投げ飛ばされたエメラルド・ドライバーが旋回して戻ってきた。空から、猛烈な勢いで蹴り込んでくる。ミカ・ヴァルキリーは辛くも避けた。だが、エメラルド・ドライバーの鍵爪がミカの首を掴んだ。激烈な苦しみに、ミカはもがいた。
 ミカはエメラルド・ドライバーの両肩を掴むと、ヘディングした。転倒したエメラルド・ドライバーの頭を右手でグッと掴んで持ち上げる。そのまま地上に叩き落とし、自らも地上に降り立った。エメラルド・ドライバーに馬乗りになり、ルビースピアーを両手で持って胸に突き降ろす。エメラルド・ドライバーは身動きもできない内に爆発した。
 純金のツインテールを回転させてミカ・ヴァルキリーは立ち上がる。アメジスト・ドライバーとビスマス・ドライバーが大槍を車輪のように振り回し、ミカを襲った。ルビースピアーが大槍の攻撃をカットしていく。
 敵の動きを読みながら、ミカは後退する。アメジスト・ドライバーがミカにタックルを仕掛ける。ミカはフッ飛んで地面に突っ込んだ。残る五機は、編隊を組んで飛び上がる。
 ミカ・ヴァルキリーは再度雪を舞い上げて起き上がり、大声を上げて山腹を拳で殴りつけた。
 雪崩が起こり、低空飛行のドライバー軍団の上に落下していった。が、すぐに雪の中からドライバー軍団が飛び上がって来た。ミカは上昇し、敵の大槍を避けた。
 プラチナ・ドライバーの巨大な尾が、ミカの真紅のボディーをムチ打つ。プラチナ・ドライバーの尾はミカを振り飛ばした。ミカは再び山に激突した。
 ミカの頭上で雪崩が起こる。ミカは雪を払って再び飛び上がった。
 上空に、シルバー・ドライバーが待ち受けていた。ミカは後ろから羽交い締めにされた。前方から、ゴールド・ドライバーの槍が襲い掛かった。ミカはバック転する要領で、迫るゴールド・ドライバーの顎をキックで蹴り飛ばし、後ろに居るシルバー・ドライバーのバックを取った。さらに、その首にエルボーを喰らわした。シルバー・ドライバーは木の葉のように回転しながら落下していった。
 ミカは地面に降り立った。地面に激突しつつも立ち上がったシルバー・ドライバーの首をすっ飛ばす。シルバー・ドライバーは後ろに仰け反って倒れ、爆発した。
 メタルドライバー軍団が、真言を唱えている。大気に念を込めている。ヒマラヤは風が吹き荒れ、上空にハリケーンが形成された。
 数百本の竜巻が出現した。
 炎をまとった、巨大な雹が天から降って来る。辺りは、たちまち火の山と化した。真っ黒な煙が辺り一帯を包み込む。ミカ・ヴァルキリーは、アストラル・シールドを張って避ける。メタルドライバーは、天候、自然を自由自在に操るのだ。
 空中でミカに蹴飛ばされたゴールド・ドライバーが体制を立て直し、槍を伸ばして斬り掛かった。ミカもルビースピアーを伸ばした。二つの、長く伸びた槍が空中で激しくぶつかり合う。
 そこへビスマス・ドライバーとプラチナ・ドライバーがミカ・ヴァルキリーに迫る。片手で槍を支え、もう一方の手で、ミカは念動力を込めた。山が崩れ、巨大な瓦礫が宙に浮かぶ。岩山の群れが空のビスマスとプラチナに向かって次々飛んでいく。ビスマス・ドライバーは不意打ちを喰らって、落下した。
 ミカと槍を交えるゴールド・ドライバーは、槍を短くすると、ミカに対抗して、真言を唱え念動力で岩山を動かす。
 対してミカは「ンあーッ」としか言えないが、負けじと念を集中した。岩山は両者の間で宙に浮いたまま、動かなかった。
 メタルドライバー軍団の槍から、続々と青白い稲妻が走った。稲妻は、ミカ・ヴァルキリーを襲撃した。この嵐と稲妻の真っただ中、メタルドライバーは平気らしいが、ミカは次第に体力を消耗し、アストラル・シールドが弱まっていたので、たまらない。
 ミカは黒雲が所々赤く燃え、そこに青い稲妻が走る空に向かって、ルビースピアーを振り上げた。上空の雲の天井に巨大な台風の目のような穴が開く。ミカは天の穴に向かって上昇した。
 雲の穴から抜けようとした時、メタルドライバー達の左手から、グレイプニールが飛び出した。グレイプニールはミカ・ヴァルキリーの肢体に食らいついた。四肢を拘束されたミカは空中に張り付けになった。もはや身動きが取れない。
「しまった!」
「一気に阿修羅、紅玉のヴァルキリーをくし刺しにセヨ!」
 眩いコンピラことゴールド・ドライバーが叫んだ。
メタルドライバー軍団のアンテナランスが一斉に、ミカ・ヴァルキリーに向かって襲いかかった。

「ミカ……!」
 モニターを見上げる晶は、如何にミカ・ヴァルキリーが無敵でも、やはりドライバー全てを倒すのは不可能だと思うのだった。もしここでミカを失ったら、晶の反乱は終わりだ。いや、革命の成功以上に、来栖ミカを失いたくないという気持ちの方が強かった。だが、晶には基地でモニターを見ている他に、どうする事もできない。

 ミカは叫んでいる。
 その声は幾重の音を含む倍音であり、まるで歌うようにリズムを含んでいる。右手に握りしめられたルビースピアーが、ピジョンブラッドの輝きを増した。ルビースピアーの先端から真紅の光線が発せられた。
 真紅の光は、曲がる光線となってグニャグニャと空間を駆け巡り、一挙に前方の四機のメタルドライバー軍を貫いていく。ドライバー達は次から次へと胸を撃ち砕かれ、鉱石の破片となって飛び散った。
 仲間がすべて撃破されていく中、ゴールド・ドライバーは「愛する地球の敵」、ミカ・ヴァルキリーへと突撃していった。
「我らはシャンバラのゲートを護る最強の盾!」
 ミカもまた相手に向かって突進した。
「あたしのルビースピアーは最強の槍、あんたの最強の盾を打ち砕く……!」
 黄金の輝きと真紅の輝きの大爆発が起こった。最強の槍(矛)と最強の盾が衝突したらどうなるのか。これを「矛盾」という。
 結果、真紅のミカ・ヴァルキリーだけがチベット上空を飛んでいた。ゴールド・ドライバーは砕かれながら落下していった。

「勝ったわ。ミカ・ヴァルキリーが勝利した……」
 晶も怜も、信じられないという顔で戦闘天使を見ていた。
「ヱルゴールドがダークフェンリルのアストラル波を検知したわよ。こ、これは……」
 怜はその数値を見て気を失いそうになった。もうダークフェンリルは、姿を隠そうとはしていない。
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