第11話 ヱレメンツ・ヱクスプロージョン

文字数 2,111文字

 ヱルゴールドは、まだダークフェンリルが近くに存在することをミカに伝えてきた。メタルドライバーによると、シャンバラのゲートに侵入し、地球の核へと向かうはずだった。だが、その者はまだ地上に居たのである。
 同時に別のデータも伝えてきた。ゲートに、ゴールド・ドライバーのアストラル波がわずかながら計測された。ゴールド・ドライバーは、破片となる直前に、その生命を結界へと変化させ、ダークフェンリルの侵入を防いでいたのだ。他のドライバーたちも同様にメタモルフォーゼし、ゲートを守っていた。もう元の姿に戻る事はできないかもしれない。どうやら途中から身を呈して、ゲートを護る作戦に変更したようだった。
 ダークフェンリルは放たれた直後、怒りにまかせて地球を七周駆け廻り、あちこちに天変地異を巻き起こした。結局、他のシャンバラへのゲートも発見できなかったらしい。そうして再び、このヒマラヤに戻ってきたときには、さすがのミカ・ヴァルキリーもどうすればいいのか攻めあぐねる程の強大な存在になっていた。
 ダークフェンリルは半分モヤのようになりながら、さらに巨大化し、その中心点は、この時空ではなかった。特異点を形成し、ダークフェンリル全体でブラックホールとなっていた。その先には、絶望の未来図が描かれた、黙示録的な破壊というべきか、それとも暗黒の宇宙誕生とでもいうべきか、時空の断絶が待ち構えている。地球の核へは到達しなかったものの、これはメタルドライバー軍団も想定外の危険な状況であった。
 ミカは声を発して、ルビースピアーの湾曲光線を次々撃ち込んでいった。だが湾曲光線は靄に吸い込まれていくだけで、ダークフェンリルに変化はない。
「このままじゃ、勝てないか-------」
 ミカはじっと右手に握りしめたルビースピアーを見つめた。
 宇宙最強の兵器、そう守護天使は言った。その言葉に偽りはないはずだ。
 しかしミカはまだ、その意味するところを知らない。ルビースピアーの本当の力をミカはまだ体得していない。
「私の情熱の全てをぶつければ、不可能はないはず。槍と私が一体化する……。私の宇宙で唯一の個性がこのルビースピアー。-------誰のものでもない、その力を真に発揮する時、『究極』への道が開かれる、究極への道は誰しもが同じじゃない、私だけが知っている唯一の道-------そうか、分かったぞ。平行宇宙のマイクスタンド……これは『音』の増幅装置なんだ!」
 ミカは渾身の叫び声をあげて、ルビースピアーをダークフェンリルに向けた。ミカの背に、ヱルゴールドが身口意具足時輪曼荼羅を作り出した。
「グリッドの五つの炎よ灯れッッ!」
 ミカは右手に握ったルビースピアーで、五芒星を前方に向かって描いていった。
 突然、ヒマラヤのゲートを護るために、塵となって地面に散らばっていた各メタルドライバーの鉱物が吹きあがり、舞いあがった。色とりどりの粉じんが、キラキラと輝きを放ちながら、ダークフェンリルに向かって五芒星を浮かび上がらせてゆく。

 土よ! 大地を固めて金を生み出せ
 金よ! 大気を肌に集めて水を作り出せ
 水よ、種を木に育てよ!
 木よ、燃えて火を生み出せ!
 火よ、灰を土に戻せ!!
 五つの元素よ、駆け廻れ、駆け廻れ、駆け廻れ、
 ヱレメンツ・ヱクスプロージョン!

 ミカの声はリズムとなり、メロディとなっていった。
 五芒星の軌跡は、虹色の光の筋として形を維持しながら、膨張していく。ルビースピアーが振動する。かつて、ミカが三十万年前に使った技を思い出したのだった。虹に縁どられた赤いオーラとなって、周囲に発散していく。光は、ミカの声と連動していた。振動が増幅し、山という山で雪崩が起こっていった。

 ミカの声のエコーは、時空戦略ホールのヱルゴールドに異変を起こした。
「まずい、ヱルゴールドが壊れる!」
 ヱルゴールドに赤いオーラが出現したことが視覚で確認できた。怜は慌ててアストラル通信の出力を落とした。
「これは、ミカのアストラル体が生み出した音波の衝撃波、宇宙の旋律だわ!」
 怜はヱルゴールドのデータを見て驚いた。
「宇宙に音が?」
「宇宙は、アストラルレベルで音が満ちている。宇宙は本当の意味で真空じゃないし、決して無音じゃない。その音の無数の振動波が宇宙を維持している……。そして宇宙が破壊される時にも、やっぱり音が破壊を引き起こしているのよ。ミカは絶対音域を槍に共鳴させて、宇宙の破壊の旋律でドライバーを倒した。そして今度はそれ以上の事が起こっている……。五行のエネルギー循環は、宇宙創成のエネルギーだ。あのルビースピアーを使ってね」
 ミカとルビースピアーが完全に一致した時に起きる現象、それが、「絶対音域五芒星大爆発」である。

 膨張した五芒星はダークフェンリルを包囲し、真紅の大爆発を起こした。ダークフェンリルは断末魔をあげながら、収縮し始め、跡形もなく消え去った。
 荒れた天候は風と共に穏やかになり、元の晴れた空に戻っていった。大地も静まっている。
「伊東アイ、今からあんたの所へ行くわよ!」
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