第7話 人類の独裁者

文字数 2,697文字

「時空を人類の手に!!」

 三百伊東アイ委員会・シャンバラからの独立!
 遂にその瞬間が訪れた。何十億年前からこの星に存在し、数億年の人類の歴史を支配した伊東アイ。今、彼女の手から人類の手に時空を取り戻し、そして、人類は自らの手で自らの運命を選択していかなくてはいけない。
 宝生晶は、「三百伊東アイ委員会」から独立するにあたり、国防省から切り離す為、組織名称を、「国防省東京時空研究所」から、日本列島を示すグリッド時空コードの「デクセリュオン」へと変更した。日本政府からも独立した超法規的独立機関、デクセリュオンの誕生宣言だ。
 そして初代デクセリュオン司令官・宝生晶は、全時空機関に通達した。
「わたしは、三百伊東アイ委員会からのデクセリュオンの独立を宣言する。デクセリュオン、クローサー、マーベラル、ロンフー、アキナス。世界の五つの時空は、伊東アイから人類が借用しているのではなく、今後、完全に人類の独立時空とする。人類を代表して、伊東アイに伝える。人間の生存権は、人間自身の手で守ることを選択する事を。もう、アイの干渉は受けない。伊東アイの存在、アイの目的が一体何なのか、私たちにはまだ分からないことが沢山ある。それは事実。でも、人類は三百伊東アイ委員会の目的のために存在しているわけじゃない。私たちは伊東アイの益獣ではない。今こそ自分たちのために。幼年期は終わりを迎えた」
 続けて晶は、白羊市における先の戦闘の理由、アイこそが人類の真の敵だったという宣言、ブルータイプの意味を語るのだった。
「さっそく、人馬市の国防省からの祝電よ」
 晶の演説の途中に怜が報告した。
「繋げて」
 晶は大スクリーンを見上げる。伊達統次がスクリーンに現れた。
「この愚か者が! お前の委員会に対する数々の反乱行為を、我々は地球と人類に対する重大な脅威と挑戦と受け止めた。お前は、たった今全世界の敵となったのだぞ。もはや、我々を敵に回したのだ。覚悟しろ! 今より人馬軍は白羊基地を強制制圧する」
 晶が見たくない顔が怒鳴っていた。
「ここはもう国防省下ではない。独立した超法規機関、デクセリュオンよ。だから、あなたに対する反乱なんかじゃない。今後、あなたの干渉は一切受け付けません。もし攻撃するというのなら、こちらは不当な侵略行為と受け止め、反撃するわよ」
「晶よ、我を張るな。地球を自分の手に入れたつもりか? お前は歴史上、かつてないほどの愚かな人間による独裁の道を歩んでいるのだ。人類の独裁者の道をだ」
 晶は、伊達統次をスクリーン越しに睨み付けて、言った。
「---------人類の独裁者で結構よ。伊達統次。構わない。あなたに何と言われようが。真の独裁者である伊東アイから、地球を独立させる事で、人類が自由を手にする為に、私は解放者になってみせる。私が手に入れるものは、この地球の非常事態ゆえの一時のもの--------。ただそれだけのこと。危機が去れば、私の役割は終わる。それまでの間、つかの間権力を行使するだけよ! 新しい世界では、血による差別は、許さない。この星に生きるモノ、ブルータイプも、レッドタイプもない。『ヒト』という種族への、愛の想いのゆえに」
 晶はこれまで自身が打倒すべき独裁者と考えていた伊達統次から、人類の独裁者呼ばわりされても、あえて否定はしなかった。その言葉を、晶は人類に対する重い責任と受け止めたのだ。
「これで判明したな。宝生晶、お前が、ブルータイプの進化した姿であることが。お前の成す行為は、帝国の侵略に他ならない。そのことがな! 我々と四つの時空機関は、人類の独裁者を阻止する為に、一致団結して立ち上がるだろう。そして直ちに作戦を開始する。もはや猶予を与えぬ。覚悟しておけ!」
 伊達の鋭いカミソリのような怒号が、ホール内に響き渡る。
「もし、私たちに手を出せば、あなたの所にミカ・ヴァルキリーを派遣します。伊東アイは、私の代わりにあなたを使おうとするでしょうね。でも、そうはさせない。私たちは、これから委員会の本国シャンバラを制圧するのだから。それじゃ------」
「それがお前の精一杯の返答か!」
「あなたはせいぜい、ピラミッドの頂上で、好物の青物でも食べながら、高みの見物して成り行きを眺めるがいい」
「……何を言っている? それはお前の事だろう。昔からベジタリアンを気取って、食卓に並んだ動物性たんぱくに、まともに箸をつけようとはしなかった。ずいぶん一緒に食事をとっていないが、お前は忘れたのか。ずっと以前から私が、ディナーに和牛を食べていたことを」
「……」
 なぜこんな事を伊達統次は急にムキになって言い出したのか分からなかったが、晶はこれ以上不毛な対話をする気もなく、一方的に通信を切った。
 たとえ人類の独裁者と呼ばれようと魔女と呼ばれようと、罵られようとも、信念を貫き通す。統次と晶の、ブルータイプに対する考えは全く正反対だった。
 そして伊達以上の超越支配者、伊東アイを倒す。ディモン、というよりブルータイプだけではなく、人類にとってみれば、支配者である伊東アイだって得体のしれない、正体不明の存在だと言えるだろう。シャンバラのハイアラーキーから地球を支配している彼女こそ、人類が抱えている問題の、本当の黒幕なのだ。
 四つの時空機関からは、何ら返答が返って来なかった。四つの機関が果してシャンバラにつくか自分達デクセリュオンに着くか、それは晶の賭だった。
「ロンフーが臨戦体制に入ったわ」
 怜が報告する。それがロンフーの返答の代わりだった。やはりロンフーは、シャンバラを守るつもりなのだろう。
 だがマーベラル、クローサー、アキナスは動かない。
「どうやら、様子を見るつもりね。ロンフー以外は」
 晶はニヤリとする。彼らは、両者が戦い、どちらが勝つかじっくり様子を見て判断するつもりなのだ。したたかな連中だった。ならば時間が稼げる。
 幸いにも、国防省はヴァルキリーという脅しが効いたのか、それ以上何も言ってこなかった。そして動く様子もなかった。
「人馬市も静観するつもりか……。やつらの動きは、鮎川那月の事件の時と同じく、そう単純じゃないのか。あんなにはっきり制圧するって言ってたのに」
「やれやれ冷や汗もんね。正直なところ、隣の市の人馬が電撃作戦で動いたらどうなるか分からないからねェ。それに人馬のヤツらは、得体の知れない新兵器を続々開発してるって噂だし……。晶、これは単なるラッキーよ。ま、これからどうなるか分からないけど」
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