第28話 別世界

文字数 1,251文字







 行方不明の妹をさがしに、ボスに連れられて土手(どて)という場所にやって来た。



わぁ!

み、水がいっぱい流れてる~



あれが川だ。

生で見るのは初めてか?



はい……!




 ボクは土手から川をじっと眺めた。



 太陽の日射しを受けて輝きを散らす川面は、遠目にも眩しいくらいだ。



クンクン



どうだ? 

妹のニオイはするか?



え……、えっと……




 はわわっ! どうしようっ!?



 舗装された道の片側を匂ってみたものの、さっぱり見当もつかないよ~!



 だって道には周囲に生えた草花だとか、小動物のオシッコだとか、いろいろなニオイが混ざりすぎているんだもん……!



このあたりはデカイ水場もあるし、さまざまな小動物が集まりやすいからよ、オメェの妹がウロついててもおかしくねぇと思ったんだが……




 ボスは道に座ったまま鼻をスンスン鳴らして息を吸いこむ。



たしかに手ごたえを感じねぇな



で、ですよね……



この土手なら、オメェの妹のいたっていう竹藪からもさほど離れてねぇんだけどなー




 ボスが話していると、そのすぐそばで何かがピョンと跳ねた。



ななな、なんかいるっ!



あ?

ただの虫だろ




 ボスの言うとおり、よく見るとそれは小さな虫だった。



 名前もわからない一匹の虫が草地の上を右へ左へジャンプして、のんきに遊んでいるみたいだ。



 

 ぴょん!



 

 ぴょんぴょん!




 見ているだけで、ものすごく衝動が突き動かされてくる。



じゃ、じゃれたい……! 



落ち着け。

バッタが跳んでるだけじゃねぇか



あ、あの虫、バッタっていうんですね……っ




 なんて刺激的な動きをする生き物なんだろう!



 でも、いまは遊んでいる場合じゃない。妹さがしの真っ最中だ。



 こうしてるあいだにも、妹はきっとどこかで寂しい思いをしているはず……!



ハァハァ……!


ハァ……ハァ……




 い、いけない……!



 我慢しなくちゃ……!



ハァァァアアアア~!




 やっぱ無理~~~~~っっっ!







 衝動を抑えきれず、ボクは前足をバッと正面へ突き出した。



 バッタは慌ただしげに飛び跳ねてかわす。



 ――すばやい!



 ボクの手中に収まることなく、逃げていってしまう。



おいコラ!

なに話してる最中にバッタにジャレてんだよっ



はわわわわっ!

すっ、すみません!

 



 や、やってしまった……。




 捨て猫になってからまだ数日。外の世界は猫の狩猟本能をゆさぶるような刺激にあふれていて、つい気を取られてしまう。



 ボクはもう遠くにいるバッタという生き物から目を逸らし、前足を引っこめようとした。



 そのときだった。まるで想定していない事態に見舞われる。



エッ!?




 ボクの前足を何かがピシャリと抑えこんだ。



 ひと回り大きな手。分厚くて硬い肉球。



 こ、この手は、ボクと同じ猫――!



ギョオオオォォォッ!?




 急激に高まる警戒心。



 シッポがボワッと膨らみを増す。



なんだ、動作は鈍いくせにビビりなヤツだな




 驚愕してる間に、相手が茂みをガサガサさせて顔をのぞかせてきた。



ムッ?




 その猫に向かってボスが警戒のまなざしを向ける。



 無造作に伸びた草の中から現れたのは、ボクよりずっと大きな体つきの猫だった。























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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