第28話 別世界
文字数 1,251文字
行方不明の妹をさがしに、ボスに連れられて
ボクは土手から川をじっと眺めた。
太陽の日射しを受けて輝きを散らす川面は、遠目にも眩しいくらいだ。
はわわっ! どうしようっ!?
舗装された道の片側を匂ってみたものの、さっぱり見当もつかないよ~!
だって道には周囲に生えた草花だとか、小動物のオシッコだとか、いろいろなニオイが混ざりすぎているんだもん……!
ボスは道に座ったまま鼻をスンスン鳴らして息を吸いこむ。
ボスが話していると、そのすぐそばで何かがピョンと跳ねた。
ボスの言うとおり、よく見るとそれは小さな虫だった。
名前もわからない一匹の虫が草地の上を右へ左へジャンプして、のんきに遊んでいるみたいだ。
ぴょん!
ぴょんぴょん!
見ているだけで、ものすごく衝動が突き動かされてくる。
なんて刺激的な動きをする生き物なんだろう!
でも、いまは遊んでいる場合じゃない。妹さがしの真っ最中だ。
こうしてるあいだにも、妹はきっとどこかで寂しい思いをしているはず……!
い、いけない……!
我慢しなくちゃ……!
やっぱ無理~~~~~っっっ!
衝動を抑えきれず、ボクは前足をバッと正面へ突き出した。
バッタは慌ただしげに飛び跳ねてかわす。
――すばやい!
ボクの手中に収まることなく、逃げていってしまう。
や、やってしまった……。
捨て猫になってからまだ数日。外の世界は猫の狩猟本能をゆさぶるような刺激にあふれていて、つい気を取られてしまう。
ボクはもう遠くにいるバッタという生き物から目を逸らし、前足を引っこめようとした。
そのときだった。まるで想定していない事態に見舞われる。
ボクの前足を何かがピシャリと抑えこんだ。
ひと回り大きな手。分厚くて硬い肉球。
こ、この手は、ボクと同じ猫――!
急激に高まる警戒心。
シッポがボワッと膨らみを増す。
驚愕してる間に、相手が茂みをガサガサさせて顔をのぞかせてきた。
その猫に向かってボスが警戒のまなざしを向ける。
無造作に伸びた草の中から現れたのは、ボクよりずっと大きな体つきの猫だった。
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