第79話 待ち受けるもの②

文字数 1,628文字



 廃工場内に入るや否や、ねこねこファイアー組の罠が発動した。



 落下物はよけたが、ミミの様子がおかしい。



ミミ!

どうしたっ!?



足がチクッてするのよぉ




 ミミは片足を上げ、その裏側を俺に見せる。



 ピンク色の肉球から、血が糸を引くようにだらりと垂れていた。



切っちまったか!




 なぜケガをしたのかすぐにはわからなかったが、ミミに近づくと原因はすぐに判明した。



 ミミの足元には、彼女の足を傷つけたと思われる物体がいくつも転がっている。



この透明な石ころみてぇなやつは……


まさか――!?




 ハッと息を吞み、辺りを見回した。



 薄闇にまぎれて、床のところどころに無数の破片が散らばっていた。



なんだよこれ!?

よく見ると破片だらけじゃねぇかっ!



ボス! 

これはガラスの破片です!


ガラス片には近づかないようご注意ください!



工場内が薄暗いせいで気づかなかったぜ



Oh……!

危険物、オソロシイデス




 ガラス片は砂粒のように細かいものもあれば、(こぶし)サイズのでかい(かたまり)もある。



 仮に長毛種ちょうもうしゅのように足裏が毛で(おお)われた猫であっても、破片に気づかずその上を疾走すれば、負傷を避けては通れないだろう。



ねこねこファイアー組のヤツらがこの罠を仕掛けるために、上からガラスを落として割ったのか?



おそらく……。

ガラス瓶のようなものを転がし、落下させたのでしょう




 俺は天井を見上げた。



 屋根は欠けて、見るからにズタボロだ。



 その屋根の手前に無数の骨組みがある。鉄骨の横幅は狭いが、建物の端から端まで繋がるほどの長さだ。



 さらに金属製の足場もあって、猫が何体か寝転んでも充分なスペースが確保されている。



なるほど……


俺たちをめるために、あそこからガラスを落として罠を仕掛けたのか。

とんでもねぇな



ホント、レディーのもてなし方がなってないわね。

頭きちゃう!




 出血した傷口を舐めつつ、ミミはイラ立たしげに吐き捨てる。







ミミ、傷の状態はどうだ?

痛むか?



ちょっとね。でも平気よ。

失恋に痛みに比べたらどうってことないわ



どんだけ失恋の痛みは重いんだよ



いいから、そこはつつかないでちょうだいっ



お、おう……




 ミミは負傷したとはいえ、いつキレてもおかしくねぇほど元気がありあまってそうだ。



 幸い傷は深くないようで、足元のガラス片を注視つつピョコピョコよけながら、俺たちのほうへ寄ってくる。



さて――。

道の正面はガラス片地獄


このまま直進するのは無謀だ。

いっそ上に登っちまうか?




 上は2階というより骨組みだらけの天井だ。



 無数のパイプが張り巡らされたカオス空間だが、ねこねこファイアー組のヤツらがそこに潜んでいるのは間違いない。



そうですね。

足場は不安定でも、ガラス片よりはいいと思います



ラジャー



賛成よ。

これ以上アタシの麗しい足を傷つけたくないもの




 意見がまとまったところで、ガラクタや棚に跳び乗り上へ登っていく。



 足場はちょっと悪いが、俺たち猫にとっちゃ造作もない。



 障害物をひょいと跳び越えて、骨組みだらけの天井付近まで来ると、



シャアアアアアアアッ!




 金属パイプの上にいた見張りらしき猫がさっそく襲いかかってきた。



うるせー! 

んなもんでビビるかっ!


声でかくして威嚇しても、無駄なんだよ!




 俺は片腕を振り上げ、向かってくるモブネコに猫パンチを浴びせる。







ギャアッ!




 顔面に直撃を喰らって、相手はもうフラフラだ。



弱えーぞ!

その程度かっ!




 俺の猫パンチは高速で、並みの猫をゆうに(しの)ぐ。威力もケタ違いだと恐れられている。



 その攻撃を並みの猫がよけきれるわけがない。



 モブネコは自分の体を支えきれず、足をすべらせ真っ逆さまに落下していった。



へへ、墓穴を掘ったな!

特別仕様の床は痛いぜ~



死にはしないでしょうが、負傷は(まぬが)れませんね



それでも向かってくるなら容赦はしねぇ!


俺の仲間を傷つけた痛みは、きっちり味わってもらうからな!




 周囲に潜む見えない敵たちに宣言し、俺は一歩前へ歩み出した。































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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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