第126話 試練の先へ
文字数 1,504文字
ボクはニオイを頼りに夜道をひたすら突き進み、ねこねこファイアー組のアジトへ向かっていた。
息が苦しい……。
ケガが影響して、全力で走りつづけるのは困難だ。
だけども力を尽くして、できるだけ急いで地を駆けていく。
必死に願いながら無我夢中で走った。
道はまっすぐの一本道だ。
ボスたちはこの土手道をまっすぐ進めば到着するって言ってたけれど、距離がどの程度かはわからない。
痛みに耐えながらの移動が苦しいせいか、どんどん目的地が遠ざかっていくように感じる。
カブリをやられた首根が燃えそうなくらいヒリヒリする。
わき目もふらずに走ってきたけれど、ついに集中が切れてペースが落ちていく。
だけど途中で足を止めるわけにはいかない。
ボスは、ボクを信じてくれた。
だからボクも、ボスの期待に応えたい――!
ふたたび速度を上げて走り出す。
ボクの移動を妨げるように、向かい風が吹きつける。
風は邪魔な空気を払ってくれるけれど、それでもやっぱり自分の首から血のニオイを感じる。
……生臭くて、不快なニオイだ。
川べりに倒れていたのは熊介さんだけだった。
ヨツバちゃんの姿は、どこにもなかった。
どうして彼女があの場にいなかったのか、理由はわからずじまいだ。
ヨツバちゃんはフェロモン臭を放っているから、近くにいたらわかりそうなものだけど……。
彼女のことを想うと、少し痛みが
そうして徒歩とダッシュを繰り返して移動しているうちに――
ようやく道の先に、黒々とした建物が見えてきた。
近づいて見ると、廃工場はボロボロの塀に囲まれていて、ボクの知ってるどんな家よりも荒れている不気味な様相だった。
ずっと嗅いでいると具合が悪くなりそうな、なんともいえない悪臭だ。
こんなところで誰か、オシッコとか……ウ○チとかしたのかな……?
工場の入り口付近をじっと観察しながら、視線を建物へ移す。
足元の草地から砂地へと進み、ねこねこファイアー組のアジトへ近づいた。
ふとそこで、妙な気配を感じる。
恐ろしくなって、ボクは条件反射的に壁の陰に隠れようとする。
けれども相手のほうが速かった。
地面をタタタッと蹴って、あっという間にボクとの距離を縮めてくる。
ボクはパニックに陥り、とっさにうつむいた。
相手は、ボクを襲った刺客かもしれない。
もし違ったとしても、相手の目をうっかり見て、ケンカを売ってると思われるのはとても危険だ。
肉球から
やばい、殺されるかも――!
そう思った瞬間、ボクは自分の想像が間違いだったことをさとった。
あ――!
聞き慣れた声に、ボクはハッとして顔を上げる。
(ログインが必要です)