第126話 試練の先へ

文字数 1,504文字





 ボクはニオイを頼りに夜道をひたすら突き進み、ねこねこファイアー組のアジトへ向かっていた。



ハァ……ハァ……!

い、急がなきゃ……!




 息が苦しい……。



 ケガが影響して、全力で走りつづけるのは困難だ。



 だけども力を尽くして、できるだけ急いで地を駆けていく。



は、早くみんなのもとに着け~!




 必死に願いながら無我夢中で走った。



 道はまっすぐの一本道だ。



 ボスたちはこの土手道をまっすぐ進めば到着するって言ってたけれど、距離がどの程度かはわからない。



 痛みに耐えながらの移動が苦しいせいか、どんどん目的地が遠ざかっていくように感じる。



ハァハァ……つ、疲れた……。

首が痛いよぅ……!




 カブリをやられた首根が燃えそうなくらいヒリヒリする。


 

や、やっぱり、こんな状態で動くのは……キ、キツイ……!




 わき目もふらずに走ってきたけれど、ついに集中が切れてペースが落ちていく。



 だけど途中で足を止めるわけにはいかない。


 

こ、これは試練なんだから、乗り越えなくちゃ……!




 ボスは、ボクを信じてくれた。



 だからボクも、ボスの期待に応えたい――!



負けるな、自分~!

絶対に試練に打ち克ってみせるぞ~~~!




 ふたたび速度を上げて走り出す。



 ボクの移動を妨げるように、向かい風が吹きつける。



 風は邪魔な空気を払ってくれるけれど、それでもやっぱり自分の首から血のニオイを感じる。



 ……生臭くて、不快なニオイだ。



あぁ、ヨツバちゃんの甘い香りを嗅ぎたいなぁ……


ヨツバちゃん、どこに行っちゃったんだろう……?




 川べりに倒れていたのは熊介さんだけだった。



 ヨツバちゃんの姿は、どこにもなかった。



 どうして彼女があの場にいなかったのか、理由はわからずじまいだ。



 ヨツバちゃんはフェロモン臭を放っているから、近くにいたらわかりそうなものだけど……。



せめてヨツバちゃんだけは、無事でいてほしいなぁ……




 彼女のことを想うと、少し痛みが(やわ)らいだ。



 そうして徒歩とダッシュを繰り返して移動しているうちに――



や、やった……! 

着いたぞ……!

たぶんあれが廃工場だ……!




 ようやく道の先に、黒々とした建物が見えてきた。



 近づいて見ると、廃工場はボロボロの塀に囲まれていて、ボクの知ってるどんな家よりも荒れている不気味な様相だった。



なんだか嫌なニオイがするなぁ……




 ずっと嗅いでいると具合が悪くなりそうな、なんともいえない悪臭だ。



 こんなところで誰か、オシッコとか……ウ○チとかしたのかな……?



 工場の入り口付近をじっと観察しながら、視線を建物へ移す。



こ、この先に、ジロリ組のみんながいるんだ……




 足元の草地から砂地へと進み、ねこねこファイアー組のアジトへ近づいた。



 ふとそこで、妙な気配を感じる。



エッ、なに!?

誰かいるの――!?




 ボクの呼びかけに答えるように、暗闇から何かが走ってきた。



ままままさか、敵ぃ!?




 恐ろしくなって、ボクは条件反射的に壁の陰に隠れようとする。



 けれども相手のほうが速かった。



 地面をタタタッと蹴って、あっという間にボクとの距離を縮めてくる。



はわわわわっ!

近寄ってこないで~~~っっっ!




 ボクはパニックに陥り、とっさにうつむいた。



 相手は、ボクを襲った刺客かもしれない。



 もし違ったとしても、相手の目をうっかり見て、ケンカを売ってると思われるのはとても危険だ。



こここここっ、怖いよぉ~~~っっっ!




 肉球から(にじ)む、汗、汗、汗――!





 

 やばい、殺されるかも――!



 そう思った瞬間、ボクは自分の想像が間違いだったことをさとった。




なんや、新入りやないか




 あ――!



 聞き慣れた声に、ボクはハッとして顔を上げる。



キッ――、

キンメさん!?

























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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