第117話 エキサイト

文字数 1,787文字





 (くれない)との戦い以降、姿を見せなかったテンダが戦線復帰した。







死にぞこないがしゃしゃり出てくるとは



そういやオメェ、紅にやられたんじゃねぇのか?



はっはっはっ。やられてないっすよ。

休憩してただけっす


戦闘中、動き回ったら疲れちまって



オメェも俺のときのようにバテちまったわけか



わりと体力には自信あったんすけどね。

なにぶんここは戦いづらくて……




 俺たちのいる場所は骨組みだらけだ。



 足場の広めな場所もあるが、大半はパイプや鉄骨なので戦闘向きとはいいがたい。



ところで、見たところ外傷はねぇが、無事なのか?



問題ねぇっす



打たれ強いのがオメェのいいところだな



ういっす!



戦えば生傷が増えるだけだぞ。

このおれに挑むこと自体が無駄なのだからな!



無駄かどうかは戦ってみなけりゃわからんぜ




 テンダはさっそく身構えるが……



 俺としては、トウと戦うインテリが窮地に追い込まれねぇか気がかりだ。



おい、テンダ。

オメェはひとまずインテリに加勢してやってくれ



了解っす!




 そのとき――



 マタタビで狂暴化中のトウがインテリに噛みつこうとしていた。



薄汚い歯を近づけるなぁっ!



うっせー! コバエがぁ!




 トウはインテリに口を寄せ、首筋を貫こうとする。



 猫の噛む力は強く、死をも招く。



 尖った牙がインテリの皮膚に突き刺さる寸前――



おーーーっと、邪魔するぜ!




 場違いな陽気さで、テンダが後ろから割り込んだ。



テメェ! 

いつの間に――!?




 トウはやや取り乱す。



 トウが決定的なアクションを起こす前に、テンダはすでにその背後をとっていた。



はっはっはっ。

後ろがスカスカだぞ



邪魔するなぁ! 

このハエ野郎がーっ!




 (ののし)りながらも身をひるがえし、トウはテンダから離れようとする。



 が――



 テンダのほうが速かった。



ハエだなんて言うなよ。

オレたちは人も(うらや)むカワイイ猫なんだぜ




 テンダはからかうように言って、トウの動きを封じようと攻めかかる。







 横倒れるトウ。



 その上に覆いかぶさるテンダ。



うぐっ!

重い……っ!




 トウの動きが鈍くなったところを見計らって、テンダはすばやく攻撃にうつった。



やめろっ!

寄るな! クソッ!




 懸命にもがいて(あらが)うが――



はっはっはっ。暴れても無駄だ。

ガブッといくぜ!




 宣言どおり、テンダの太い牙がトウの首に突き立った。



ギャアッ!




 首をガブリとやられて、トウは反射的にのけ反る。



 が、やられっぱなしでは済まない。



うおおおおおおおおっ!

こんなもんはハエだっ! 


ブンブンうるせーハエみたいなもんだっ!



ハエと同じって……








 トウは両手をめちゃくちゃに振った。



 

 バシバシバシバシッ!




 そのうち数発がテンダの体にヒットする。



テンダ、離れろ!

そのままじゃ、おまえが危ねぇ!



ういっす!




 テンダはサッと起き上がり、激しい抵抗から身を遠ざける。



 トウもその場から立ち上がったが、



ぶっ殺してやるぅ~!




 怒りに火がついたか、まだ両手をバタバタさせてやがる。



おうおう、みなぎってるな~。

やり返す気満々ってか



一定の間合いに近づかせないよう、連続猫パンチで牽制(けんせい)


悪くない判断だが、背後がスキだらけだぞ!

 



 今度はインテリがトウの背後から攻めかかった。



 しかしトウは、インテリに攻撃する隙を与えない。

 すばやく反転し、手を突き出して威嚇する。



オマエらなんか、おれの敵じゃねぇ!

ボッコボッコに叩きのめしてやる~~~っ!


マジで猫ミンチにしてやるからな~~~っ!




 トウは異常な興奮の渦に呑まれて(わめ)きまくりだ。



……エキサイトしすぎだぜ



リャクと同様、トウもマタタビの刺激を受けている。

マタタビの効果が切れるまでは狂暴なままだろう



まさにアドレニャリン(・・・・・・・)の影響だな!



うっ……!

それはもう言うなっ



へへへ!

まだショックを引きずってるのかよ




 ニヤニヤする俺とは対照的に、紅は恥ずかしそうにうつむいた。



 一方戦闘はトウの牽制が続き、インテリとテンダは攻めあぐねて、足踏み状態になったかに見えた。



 すると――



 テンダがそろりと足を踏み出す。



ん? 

アイツ、どこへ行くつもりだ?




 テンダは、徐々にトウから離れていく。



メデアのいるほうに向かっているのか……?




 メデアは戦いに巻き込まれないよう、金属板の端に下がっている。



 チラリと目をやると、



……





 俺の視界に、戦況を見守る小さな子ども猫が映った。








































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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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