第88話 豹変
文字数 1,824文字
耳をさらさら撫でるような、川のせせらぎ。
体をしっとり包みこむような、穏やかな夜風。
ワイの
あとは一面の野原や。
川のほとりで水に手足を突っ込み、ジャブジャブやって汚れを落とす。
付着した猫の糞をあらかた取り除いたところで、手足をブンブン振って水気を飛ばした。
後ろを向いて辺りを見渡すが、草地ばかりで猫の姿はどこにも見当たらへん。
川べりから離れ、野原をうろつきながら副ボスをさがす。
周囲の草花の背丈は短めやから、猫がおればひと目で発見できるはずなんやけど……
ワイは広大な原っぱに向かって叫んでみる。
大声で呼びかけても、返事ひとつ聴こえてけえへん。
擬音でいうところの「し~ん……」てやつや。
空気にすらも裏切られたみたいに、めっちゃ虚しい気分になる。
ぽつんと建っとる小屋のほうにおるかと思い、忍び足でそっと近づいてみた。
すると――
急にぞわりと体に悪寒が走る。
野性のカンてやつやろな。
ワイの脳内指令が警戒するよう
鋭い動物的感覚が危険を察して用心しとけ言うとるときに、悠長に構えとる場合やない。
まずは歩みを止めて、辺りの様子をじぃっと
鼻は利かへんから、耳の働きに意識を集中させると……
スサッ……スサッ……スサッ……
肉球が草地を踏むような、かすかな音が聴こえてきた。
恐怖心に
突然建物の陰から、ハチワレ柄の猫がぬっと顔をのぞかせてきた。
副ボスがゆっくりこっちに歩み寄ってくる。
見るからにアブなそうな感じや。
月明かりの照らすその姿は明らかに副ボスやけど、呼吸は荒く、目はやけに殺気立っとる。
正直、寄って来んでええです……。
だってこんなん知り合いやなかったら、とっくにズラかっとるレベルやろ。
なんやいきなり覚悟って!?
……って、ビックリしとる場合やないわ。
大急ぎで身をひるがえし駆け出す。
ワイはテンダ兄さんに背を向けて、一目散に逃げだした。
せやけど相手の動きが速すぎて、とても逃げきれたもんやない。
ギュッと目を閉じ、背後に迫る恐ろしい存在にフタをしかけたそのとき――
つるんっ!
ワイが足を滑らせたことで、体が前にすてーんと倒れた。
標的のワイがいきなり視界から消えたことで、副ボスの噛みつき攻撃が空振りに終わる。
おかげで奇跡的に急襲から
などと冗談めいたことを言ってる場合ちゃうわ。
ピンチフラグはまだ消滅してへん。
ワイは体を起き上がらせ、逃げ走ろうとするが――
またしても副ボスが、鋭い牙攻撃を仕掛けてきよった。
ピンチに
まさに絶体絶命やないか――!
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