第88話 豹変

文字数 1,824文字








視点は変わって、ここからはキンメ編になります



うっひょ~!

このときを待っとったで~!


みんな、よろしゅう頼むわ!





 耳をさらさら撫でるような、川のせせらぎ。

 


 体をしっとり包みこむような、穏やかな夜風。



組同士でバトル中やなんて嘘みたいな情景やなー


って、なごんどる場合ちゃうか




 ワイの眼前(がんぜん)には川、その川沿いには()ちた小屋がある。



 あとは一面の野原や。



 (さえぎ)るもんはあらへんから、遠くの物音もよう聴こえてくる。



あ、また親分さんの威嚇する声が聴こえてきたで


いまごろ親分さんらは絵になる活躍しとるんやろなぁ


それに比べてワイは、こんなところで手洗いや。

はぁ、ホンマ格好つかへんわー




 川のほとりで水に手足を突っ込み、ジャブジャブやって汚れを落とす。



 付着した猫のババをあらかた取り除いたところで、手足をブンブン振って水気を飛ばした。



ん……? 


なんや、副ボスがおらんやんけ




 後ろを向いて辺りを見渡すが、草地ばかりで猫の姿はどこにも見当たらへん。



副ボス~!




 川べりから離れ、野原をうろつきながら副ボスをさがす。



 周囲の草花の背丈は短めやから、猫がおればひと目で発見できるはずなんやけど……



おっかしいなー。

なんぼさがしても見当たらへん


テンダ兄さんみたいにガタイのええ猫なら、すぐ見つかりそうなもんやけどなぁ




 ワイは広大な原っぱに向かって叫んでみる。



副ボス~!

テンダ兄さん~!




 大声で呼びかけても、返事ひとつ聴こえてけえへん。



 擬音でいうところの「し~ん……」てやつや。



 空気にすらも裏切られたみたいに、めっちゃ虚しい気分になる。



ハァ……わけわからんわ。

さっきまで近くにおったはずやのに、どこ行ってもうたんや?


物陰に隠れてババでもしとんのかいな




 ぽつんと建っとる小屋のほうにおるかと思い、忍び足でそっと近づいてみた。



 すると――



 急にぞわりと体に悪寒が走る。



なんや、この感じ。

ピカーンと頭ン中の危険センサーが灯ったみたいやわ




 野性のカンてやつやろな。



 ワイの脳内指令が警戒するよう(うなが)しとるんや。



 鋭い動物的感覚が危険を察して用心しとけ言うとるときに、悠長に構えとる場合やない。


 

……!




 まずは歩みを止めて、辺りの様子をじぃっと(うかが)う。



 鼻は利かへんから、耳の働きに意識を集中させると……



 

 スサッ……スサッ……スサッ……



 

 肉球が草地を踏むような、かすかな音が聴こえてきた。



こっちに音が近づいてきとる……!




 恐怖心に(あらが)うため、独り言を()らした直後のことやった。



 突然建物の陰から、ハチワレ柄の猫がぬっと顔をのぞかせてきた。


 







――副ボス!?



ヴヴッ……


キンメェ……!




 副ボスがゆっくりこっちに歩み寄ってくる。



 見るからにアブなそうな感じや。



 月明かりの照らすその姿は明らかに副ボスやけど、呼吸は荒く、目はやけに殺気立っとる。




 正直、寄って来んでええです……。




 だってこんなん知り合いやなかったら、とっくにズラかっとるレベルやろ。



どないしはったんですか?

エライ顔つきが凶悪でっせ



覚悟ォォォォォォッ!



ハヒャアアアアッ!?




 なんやいきなり覚悟って!?



 ……って、ビックリしとる場合やないわ。



ダッシュで逃げな……!




 大急ぎで身をひるがえし駆け出す。



ハニャアァーーーッ!




 ワイはテンダ兄さんに背を向けて、一目散に逃げだした。



 せやけど相手の動きが速すぎて、とても逃げきれたもんやない。



うへぇ!

めっちゃ迫ってきとる……!


アカン……! 

もう追いつかれる……ッ!




 ギュッと目を閉じ、背後に迫る恐ろしい存在にフタをしかけたそのとき――




 つるんっ!



アッ……!




 ワイが足を滑らせたことで、体が前にすてーんと倒れた。



――!?



 

 標的のワイがいきなり視界から消えたことで、副ボスの噛みつき攻撃が空振りに終わる。



 おかげで奇跡的に急襲から(のが)れることができた。



あぶなっ!

間一髪(かんいっぱつ)や!


これも日頃の行いの賜物(たまもの)ってやつやな




 などと冗談めいたことを言ってる場合ちゃうわ。



 ピンチフラグはまだ消滅してへん。



 ワイは体を起き上がらせ、逃げ走ろうとするが――



キシャァァァァァァッ!




 またしても副ボスが、鋭い牙攻撃を仕掛けてきよった。



攻撃はやっ!

逃げられへんやん!




 ピンチに(おちい)ったところで、そばに誰もおらへんし、なす(すべ)はあらへん。




 まさに絶体絶命やないか――!






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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