第1話 ボス猫は語る

文字数 1,746文字






 猫の一日は忙しい。



 



 というのは、嘘だ。



 



 ヒマはある。たんまりある。





 なにせ俺たち猫は、眠るために生きているような生き物だ。

 毎日よく寝ているから、人に『寝子(ねこ)』と呼ばれるようになった、という説があるらしい。




 いつでも安眠ってわけにはいかねぇが、伸びてよし、丸まってよし、フリースタイルで24時間の半分近くを満喫し、合間にメシを食ったり、毛並みを整えたりする。





 そんな俺たちを見て、人間たちは呆れたようにぼやく。




気楽なモンだ




 だが、それは物事のほんの側面しか見ていないからいえることだ。




 飼い猫ならいざ知らず、野良猫ともなれば危険と隣り合わせの日々にまみれてる。



俺のいる町は都会じゃねぇが、道にゃ車がブンブン走ってやがるし、外敵にだって襲われる


カラス、タヌキ、ヘビ。

そのほか小さいヤツからでかい生き物まで、俺たちにとっちゃ命を脅かす害獣だ








 とはいえ最大の外敵は、やっぱりアイツらだろう。



 霊長類のトップに君臨してるからって、なんでも自分らの都合のいいようにやりやがる。




まぁこれ以上は言わないでおくか。

そいつらに世話になってる仲間もいるからな


そんなわけで、猫ってやつは気楽なようでそうでもねぇんだ。

とくに野良はな


だから縄張りに住む猫の平和を維持するために、俺みてぇな存在(ヤツ)が重宝されるってわけよ





 ――そう、ボス猫だ。







 ボス猫はリーダーにふさわしいヤツしかなれねぇ。




 統率力、武力、義侠心。

 能力カンストのハイスペほどボス向きだ。



 見掛け倒しなヤツにゃ用はねぇ。

 ケンカの強さですべてが決まる。




 いざってとき、外敵を退(しりぞ)ける力がねぇんじゃ仲間を守れねぇからな。




個体能力が低いってぇのは、野良猫社会じゃ命とりになる。

猫には爪も牙もあるが、みんなが強いわけじゃねぇんだ


猫それぞれいろんな性格のヤツがいるからな。弱気だったり、臆病だったり、戦うのが苦手なヤツもいるんだぜ




 とにかくボスである俺は縄張り内の仲間を守るため、平和維持に務めなきゃならん。



さーて。

んじゃ、今日もボスらしい活動をするか


俺の仕事はきわめて単純だ。

町を巡回して、異変はないか縄張りをチェック。

それでおしまい


なっ? 

至ってシンプルだろ?


おっと、大事なイベントを忘れていたぜ


 



 ――ネコの集会だ。





 なぜ、集会をひらくのかって?



 

 ネコの集会をひらくのには理由がある。




 定期的に集会で縄張りに住む猫たちを招集すりゃ、みんなの無事を確認できるからさ。



 猫たちの安寧のために務めるのが俺の役目だ。安否確認は(おこた)れねぇ。




 ほかにも集会のメリットは様々あるけどよ、反面決まり事ってやつも多いんだ。




ところで、(ちまた)じゃネコの集会は謎の多いイベントと思われているらしいな


そーゆうモンかね?


俺たちにしてみりゃ、家があるのにわざわざ道端とかコンビニだとかで何時間も立ち話する人間のほうが不思議でならねぇがな


ま、俺たち猫も人間も同じ哺乳類には変わりねぇ。結局は、お互い仲間と群れるのがキライじゃねぇってことだろうな




 ネコの集会には、俺の仲間や子分たちも来る。



 俺は去年、亡き先代から才能を見込まれて、この町のボスの座に君臨することになった。



 このあたりじゃ猫同士が〝組〟を結成し、縄張りの警戒にあたっている。


 

 組の名は、『ジロリ組』。



ジロリ組の縄張りは広くてよ、いろんな所に同じ組織のヤツらが散らばっているんだ


けど、各地にいる猫たちの様子を見るために、あちこちで集会をやるのはさすがに面倒だよな……




 とにかく細かいことは抜きにして、集会に来たいヤツが集まりゃいい。



ネコの集会があるからみんなが集まるわけじゃねぇ


みんなが集まるために、ネコの集会ってやつはあるんだぜ!




 みんなで集まりゃ外敵だってめったに寄ってこねぇ。




 だから猫たちは安心してのんびりできる。





 みんなの顔見て、世間話して、猫同士の交流を深める。





 友達づくりに恋愛相手募集。猫だってソロ活動だけじゃねぇからな。

 義兄弟の(ちぎ)りを結んだり、合コンだってしたりするんだぜ。




もちろん助けが必要なら手を貸す、それが俺の流儀だ!




 ネコの集会のあるところに、俺たち猫のドラマが生まれる。



さーて、んじゃ集会に行くか!
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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