第93話 勝利のニオイ
文字数 1,786文字
ワイの接近を恐れるようにジリジリと後退する副ボス。
ワイは出せる限りの力を尽くして、手を突き出す。
せやけど、やっぱり副ボスはごっつい。
ワイの
一番の目的は、攻撃を当てることやない。
突き出した手を副ボスの鼻に近づけることや!
ワイの手から瞬時に顔を背け、副ボスは叫びだした。
たまったもんやないというふうに不平を鳴らして、鼻を何度もこする。
内心、副ボスはちょっと不満なのかもしれへん。
そりゃメス猫の香りにほだされとるほうが心地ええやろなぁ。
まぁなにはともあれ、もうその顔に邪悪な影はあらへんし、悪しき誘惑が打ち消されたと見て間違いなさそうや。
副ボスの目が
ワイはニコやかに言い切る。
べつに確たる勝算があるわけやないけど、ここでグズグズ言うてても話が先に進まへん。
その直後――
草地をゆっくりと踏みしめて、悪しき香りの元凶が近づいてきた。
ワイは地面を蹴ってピョーンと跳んだ。
副ボスを追おうとするヤミミンの進行方向に狙いを定め、思いどおりの場所にシュタッと着地する。
ヤミミンは、前足を口元に寄せてひと噛みする。
副ボスが猛ダッシュで野原を駆けていく。
並の猫なら振り切れそうなスピードやから、仮にヤミミンが走っても追いつかれることはないやろう。
ワイの反論にムッとした様子もなく、ヤミミンは艶やかな瞳をこっちへ向ける。
ワイの拒否を無視して、ヤミミンは自分の前足にフゥーと息を吹きかけた。
抜け毛が舞い上がるとともに、妖しい香りが漂ってくる。
ワイは勝利を宣言するように高々と言い放った。
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