第143話 ボス vs ボス

文字数 1,260文字





 視界を(さえぎ)る、(くれない)のシッポ。



 俺の指先が、(あざ)やかな尾を捕らえる。




 パシッ!

 






 シッポを掴んだと思ったら、爪に絡んだのはただの毛だった……。



なんだ、抜け毛かよ



フハハハハハ!

貴様にもっと毛の手入れを手伝わせてやろう!



ふざけんな!




 非難した直後、紅が俺の顔にシッポをぶつけてくる。



 かわそうとしたが間に合わない……!



 長いシッポが顔の下半分に直撃する。



フガッ!




 そのとき勢いに乗って、抜け毛の一部が俺の口の中に入りこんできた。



ホゲェ~!




 長い毛が舌に絡み、さらに喉の奥にもまとわりつく。



ゲホッゲホッ!


妙なところに入ったせいで、何度かムセちまったじゃねぇか



フッ、我が必殺のテールアタックを思い知ったか!



こんなの反則だろっ



言ったはずだ!

戦いに正道も邪道もないと!




 紅は俺の構えが解けているところを突いて、脇腹に数発浴びせてくる。



隙だらけだぞ!



くうっ!




 耐えられねぇほどじゃねぇが、地味に痛てぇ……。



 慌てて後ろに退くと、紅が勝ち誇った顔で言う。



もう一度、至高(しこう)の毛を味わわせてやろう



至高? ふざけんなっ!

不幸の毛だろっ!




 反論するや否や、紅がシッポをぶつけてくる。



チッ、うっとうしいっ!




 俺がそれを振り払おうとすると――



 紅は不意を突いて、噛みつき攻撃を仕掛けてきた。



トドメだ!



させるかよ!


喰らえ! この野郎!




 拳をふるい、紅の頬を打つ。




 バシッ!




 たしかな手応えはあった。



 だが、紅は(ひる)まない。



ぬるいっ! ぬるすぎるぞ!

マタタビで興奮状態のおれに、そんな攻撃が通用すると思ったかっ!



たいしたダメージじゃねぇとはいえ、俺の拳を一発喰らっても向かってくるとはな


だったら乱れ打ちでボコボコにしてやるぜ!




 俺は片腕を振り上げ、拳をくり出す。



ウオォォォォォォォォォォォォォッ!




 気合いの咆哮(ほうこう)とともに、連続猫パンチを放った。



ガァァァァァァァァァァァァァァッ!




 紅も負けじと応戦してくる。



 互いの拳が激しく衝突し、牽制(けんせい)し合う。



 柔らかな肉球が衝撃を最小限に抑えるも、熱いダメージが手のひらからじわじわと()みてくる。



マタタビが効いているとはいえ、ここまでやるとは驚きだ……!




 しかし紅は疲れたのか、拳の動きが鈍りはじめた。



チャンスか!?




 俺は警戒しつつも、一歩前へ踏み出す。



 すると紅は、赤毛模様の冴えわたる体をあざやかに旋回させた。



愚か者め! かかったな!




 ふわりと舞う尾の毛が、俺の視界を奪う。







またかよっ!




 俺が後ろへ下がろうとすると、紅は姿勢を転じ、首を伸ばして接近してきた。



終わりだっ!



やべえっ! 噛まれる……!




 とっさに前足を浮かせて、後方に背を反らす。



 二本足で立つと、上体への攻撃はよけやすい。



 けれども前足による支えを失って、体が不安定になる。



 運悪く足場は途切れて、後ろを支えるものは何もない――



ゲエェェェェェッ!

やっちまったぜ……!





 最悪……!



 自業自得の自滅フラグだ……!




 俺はバランスを崩して、金属板から落下した。





















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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