第109話 真摯な気持ち
文字数 1,015文字
壊れたシャッターの隙間から跳び込んできた紅。
紅はなりふり構わず、空中から床に佇む俺のもとに降ってくる。
まずは後ろへ跳んで、紅の体当たりを回避する。
対して紅は、俺のほぼ目の前に着地し、床に四つ足をつけた。
着地直後の紅は臨戦態勢にない。そのうえ捨て身の覚悟で挑んできている。
どれだけ反射神経に優れていても、俺のくり出す高速パンチをかわすのはほぼ不可能だ。
俺は振り上げた拳を斜めに下ろす。
空気を切り裂くように、すばやく――。
ガシッ!
紅はまるで覚えたての狩りに
紅は突進して俺の腹部に頭をぶつけると、強引に壁際へ押しやろうとする。
猛牛並みとは言わないが、かなりの力だ。
気迫のこもった鋭い眼差し。
ただ俺を倒したくてギラついてるだけかと思ったが、どうやら事情が違うらしい。
血のにじんだ顔に、一途な感情が垣間見える。
俺の立っている場所はシャッター側に近い。
左手側には、例の姉弟猫たちがいる。
自分の子どもの身が心配な紅は、俺を部屋の隅へ追いやりたいのだろう。
紅は猛々しく叫んで、より強い力で俺の体を押してくる。
状況を見ていたヨウがこっちへ跳んできた。
横から紅にパンチを浴びせようとする。
ヨウは困ったように立ち往生する。
一瞬、目の前にいる紅に怯んだような素振りを見せたが――
ヨウは拳を突き出した。
長い毛に覆われた手が、紅の身に迫っていく。
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