第109話 真摯な気持ち

文字数 1,015文字





 壊れたシャッターの隙間から跳び込んできた紅。



子どもたちに何かしたら許さんぞーっ!




 紅はなりふり構わず、空中から床に佇む俺のもとに降ってくる。


マジかよっ


って、相手の気迫に呑まれてる場合じゃねぇな




 まずは後ろへ跳んで、紅の体当たりを回避する。



 対して紅は、俺のほぼ目の前に着地し、床に四つ足をつけた。

 


ッシャー!

チャンスだぜっ!




 着地直後の紅は臨戦態勢にない。そのうえ捨て身の覚悟で挑んできている。



 どれだけ反射神経に優れていても、俺のくり出す高速パンチをかわすのはほぼ不可能だ。



 俺は振り上げた拳を斜めに下ろす。



 空気を切り裂くように、すばやく――。




 ガシッ!



手ごたえありだぜ!








こんな傷、取るに足らんわっ!



Wow!

引っ掻かれたら痛いデスヨ



痛みなど気にしていられるかっ!



自分が傷つくことを諸共しねぇってか




 紅はまるで覚えたての狩りに(いそし)しむような無鉄砲さで、俺の(ふところ)に跳び込んでくる。 



そうイキリ立つなよ。

つーか、テメェと戦っていたはずのテンダはどうした?



俺の力でねじ伏せてやったわっ


それより早く、そこを退けぇぇぇっ!



うぐっ!




 紅は突進して俺の腹部に頭をぶつけると、強引に壁際へ押しやろうとする。



 猛牛並みとは言わないが、かなりの力だ。



子どもたちから離れろっ!




 気迫のこもった鋭い眼差し。



 ただ俺を倒したくてギラついてるだけかと思ったが、どうやら事情が違うらしい。



 血のにじんだ顔に、一途な感情が垣間見える。

 


あ~、そういうことか


どうりで生意気なガキだと思ったら、オメェの子どもだったのか




 俺の立っている場所はシャッター側に近い。



 左手側には、例の姉弟猫たちがいる。


 

 自分の子どもの身が心配な紅は、俺を部屋の隅へ追いやりたいのだろう。



だまれーーーっ!




 紅は猛々しく叫んで、より強い力で俺の体を押してくる。



ボス! 助太刀シマス!




 状況を見ていたヨウがこっちへ跳んできた。



 横から紅にパンチを浴びせようとする。



ヨウ! 

俺は大丈夫だから、オメェは下がってろ!



で、でも……




 ヨウは困ったように立ち往生する。



 一瞬、目の前にいる紅に怯んだような素振りを見せたが――



ワタシもジロリ組の一員デス!

いつものんびりしてますけど、ボスやみんなの役に立ちたいって思っているのデス!



ヨウ……!



ワタシの真摯(しんし)な気持ちのこもった拳を――

受けてクダサイ!





 ヨウは拳を突き出した。



 長い毛に覆われた手が、紅の身に迫っていく。



























ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色