第80話 待ち受けるもの③

文字数 2,305文字





 細い配管(パイプ)が床代わりの足場は、歩きやすいとは言えねぇ。



 古びたパイプはザラついてるが、地面に比べりゃ絶望的に(すべ)りやすい。



 それでも狭き道を越えて先へ進もうとしたものの――



 仲間のことが気になり、俺は立ち止まって振り返る。



ミミ、ヨウ。

ふたりはここで待ってろ


俺が先に行って、様子を見てくる



足なら平気よぉ。

歩けないほどのケガじゃないし



ヘタに動き回るより、ジッとしてたほうがいいだろ


それにヨウは毛が長いからこういう場所は不向きだしよ



ソウデスネ。

肉球の毛が伸びっぱなしで、滑りやすいのデス








んなわけで、無駄に歩き回るのは得策じゃねぇ


どこかに潜んでいる紅の存在が明らかになるまで、ミミがヨウのそばについていてやってくれ



わかったわ



ボス。

私はお供してもよろしいですか?



ああ。

一緒に来てくれ




 というわけで――



 先に周辺の様子を探るため、足を負傷したミミと、あまり狭い場所での移動が得意じゃないヨウを残し、俺は狭き道を前進していく。



 真後ろにはインテリがいて、俺と同じ歩調を刻みながらトコトコ歩いている。



ボス。

どこからか、猫の息遣いが聴こえます



近くに隠れてるようだな




 骨組みの四隅には、人間でも通れそうな格子状の網板がかかっている。



 猫ならば何体も寝ころべそうなくらい広い。



 そのうちの一か所に色せた箱が2つ並んでいる。



あの箱が怪しいぞ



何かが潜んでいてもおかしくありませんね




 俺たちが接近すると、得体の知れない気配が膨れあがった。



 敵はかなり緊張しているようだ。



 俺たちの存在はもうねこねこファイアー組のヤツらに知られているだろうが、会話を聴き取られないよう声を落としてインテリに話しかける。



敵はおそらく〝複数〟だな



なるほど。

どのように対処しますか?



もしいきなり跳びかかってきたら、猫パンチで張り倒せばいい




 ヒソヒソ密談しながら歩いていると、分岐する道にぶつかった。



 パイプが左右に分かれていて、Y字のようになっている。



ちょうどいい。

挟み撃ちにするか



御意




 先にインテリが枝分かれした右の道を進んでいく。



 俺は反対に左側の細い管を直進する。



 どちらのパイプも金属板の連結した広場へとつながっている。



 箱が置いてあるのは、その広場の奥の壁際だ。



間違いねぇ。

敵はあの箱に隠れてやがるな




 俺はササッと移動を済ませると、金属板に前足をかけた。



 数メートル離れた右手側にいるインテリへ顔を動かし、合図を兼ねてうなずく。



いくぞ!



ハッ!




 俺が動くと、インテリも走り出した。



 すると――



 相手側にも動きアリ!



 黒い影がダッと躍り出る。



ついに出てきたな!




 跳び出してきたのは予想どおり、複数の猫だ。



 どうやら箱の裏側に身を隠していたらしい。



 (すす)けた箱から右へ左へ、2体の猫が宙に跳びあがる。



ヤァーーーッ!


タァーーーッ!




 猫たちは箱の裏から跳び出すと、いきなり全力疾走しだした。



 ろくに戦ってもいねぇのに、必死で俺たちから(のが)れようとする。



ヤァァァァッ!


タァァァァッ!



そう簡単に逃がすかよ!



私たちから逃れるにはスピードが足りないぞ!




 右へ左へ、猫たちはそれぞれ真逆の方向に向かって一目散に駆けていく。



 俺とインテリは相手の行動を読んで先回りし、その進行方向に立ちはだかった。



くっ……!


追いつかれた、ニャウ……!




 あっという間に回り込まれて、赤毛の猫たちは悔しそうに歯を噛みしめる。



 そして必死に足を動かしていた甲斐もなく、その場に立ち止まってしまった。



あっ、オメェら……?




 この猫ども……



 よく見ると、顔立ちが幼い。



 片方の少年猫は顔が丸いが、全長がオトナ猫に達しているかというとそうでもない。



どーりで体が小せぇと思ったら、オメェらガキかっ!?



子どもが出てくるとは……驚きですね



 

 子どもたちはビビッているのか、成長不足の体に猫らしい条件反射で毛を少し立たせている。


 

ヤバめ……


ピンチ、ニャウ……




 似た顔同士が張りつめた表情でぼやく。



 どっちが上かはわからねぇが、たぶん姉弟だろう。

 声も色柄もソックリだ。



ハァー……、

オメェら、ただのガキだろ?


ここはオトナが戦う場だ。

それなのにガキがこんなところで何してやがる?



……ガキって表現は、よくないと思いますけど


蔑称べっしょう、ニャウ



生意気だな。

ガキって呼ばれたくなかったら、まずはその態度を改めろよ



ヤダー、高圧的ぃ


乱暴、ニャウ



うるせー!

ガタガタ文句言うなっ


ってか、こんなガキどもまで使うなんて、ねこねこファイアー組のヤツらは恥も外聞(がいぶん)もねぇのかよ



子どもを出してくるとは……、

参りましたね




 ……正直やりづらい。



 猫界隈かいわいにもルールがあって、子ども相手に大人がムキになったり、本気でやり合うのはよろしくないのだ。



オメェらが下にアルミパイプを転がしたり、ガラス瓶を落として割ったりしたのかよ



それは……




 少女猫のほうが口ごもると、もうひとりの少年猫のほうが俺を警戒しながら(ささや)く。



都合の悪いことは無視する、ニャウ


そーだね! 無視無視っ!



ふたりそろって――


沈黙スキル発動、ニャウ!



…………………………………

…………………………………


…………………………………

…………………………………



おい、黙ってねぇでなんとか言えよ



…………………………………

…………………………………

…………………………………


…………………………………

…………………………………

…………………………………



無視すんな!

質問に答えろっ








チッ!

とことんシカトする気だな




 俺がしゃべるよう促しても、子どもたちはちっとも応じずに、ふてくされたような表情かおで黙りつづけている……。























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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