第35話 恋の暴走

文字数 2,171文字




ウッホホ~ゥ!



うわわっ!

すごい勢いで副ボスが接近してくる……!



申し訳ございません! 

これ以上抑えが効かなかったのであります!




 副ボスに続いて茂みから出てきた偵察猫(レコねこ)が早口に告げた。



テンダ! オメェはバカかっ!

サカッてんじゃねぇよ!




 ボスはすばやく体勢を転じ、突き出した拳で副ボスの体をベシッと払いのける。



ウッホーーーゥ!




 地面をころりんと転がる副ボス。



 攻撃をうまくいなしてるようで、ダメージを受けた感じはない。



す、すごい……!


ボスにはじき飛ばされたにもかかわらず、お、起き上がるなんて……!



だっは~っ!

愛が止まらねぇっす~!




 副ボスは両腕を広げ、もう一度ヨツバちゃんのほうに跳び込んでいく。



ま、まだ懲りないんだ……!



オレの恋心を受けて止めてくれ~~~!



ヨツバちゃん!



ニャアアアアアッ!?



な、なんとかしなきゃ……!




 けど、ボクはパニくったまま身動きもできない。



 副ボスがヨツバちゃんに迫る瞬間――



 ボスが雷みたいな速さで突進した。



 ボスは瞬時に副ボスの前に立ちはだかると、さきほどよりも勢いをつけて拳をふるう。







 バシッ――!




 ボスの(てのひら)が副ボスの体を打った。



ぬはぁ!




 今度こそ副ボスはふっ飛ばされて、地面に突っ伏した。



手加減したからな!

これ以上調子に乗るなよっ



う……うぃーっす!



あれで手加減て……。

ボ、ボクならきっと大泣きしてる……!




 一方ヨツバちゃんは後ろに下がり副ボスから距離をとると、迷惑そうに感情をはき出した。



お、おどかさないでくださいっ



おどろかす? 

いやいや、そんなつもりはなかったよ


まさかこんなに迷惑がられるとは予想外っつーか……、

キミ、発情してるわりにつれねえっすねー




 起き上がりつつ前足で顔を洗いながら、副ボスは戸惑い気味にこぼす。



発情期だからって、みんながにゃん♡にゃんしたがってると一括ひとくくりにしないでください!



んん? 違うの?



違いますっ! 

メス猫の誰もがクネクネ・ウニャウニャしてるわけじゃありません!


それぞれ地味にですけど、個体差だってあるんですっ!



ほぅ、たとえばどんなだ?



たとえば……、

そこまでひどく鳴かないとか、スリスリはしてもおしりを上げるほどの行為はしないとか



お、おしりを上げる……!




 ちょっと思い浮かべてしまいそうになったけど、やめた。



 なんとなく想像したらいけない気がする……。



も、もちろんあたしだって大声で鳴きたくなるときもあります。だけど、変なオス猫に襲われるのはイヤだし……


子育て環境のことを考えたら、いまは子づくりに励んでいる場合じゃないのかなって


そういう細々こまごましたことを考えて、エサに不自由しながら野道を歩いていると、クネクネする気にもなれないっていうか……



はっはっはっ。

そりゃスマンかった


けど、エサの心配ならいらんよ。オレの彼女になってくれたら、メシなんてたんまり食わしてやっから



オメェは図太いヤツだなー。

こんだけ拒否られてんのに、まだ口説くのかよ



そりゃそうっすよ。

目をつけた女のコに一度や二度フラれたくらいで挫けるのは、しょうに合わねえっす



あたしに目をつけてた……?



そーそー。

偵察猫レコまで付けて、キミが現れるのを待ってたんだ



知らなかった……。

あの、こちらの方は?



名はテンダ。

ウチの組の副ボスだ



副ボス!?




 女のコの瞳に興味ありげなきらめきが光る。



オメェいま、それもアリかなって思っただろ?



い、いえ……まさか



俺とそいつと、天秤にかけてんじゃねぇよ



ボス! 

い、言いがかりをつけるのは、よ、よくないです……!


ヨツバちゃんは、も、もっと清らかな心の持ち主です……!



うるせー! 

のぼせ上がってんじゃねぇ!



ヒィッ……!




 ボスに叱られて、ボクは身をすくめた。



 小柄なボクが身を縮めると、女のコのヨツバちゃんより小さく見えてしまいそうだ。



ゴメンね、コウくん。

ボスの言うとおりだよ


ちょっとはアリかなって思っちゃった



あ……そうなんだ




 や、やっぱり女のコは、ボスとか副ボスとか、強そうで地位のあるほうが好きなのかな……。



あたしにとって一番大事なのは、お母さんや兄弟なんだ


だから……

みんなが虐げられている状況を助けてくれるなら、相手が誰であれ、この身を捧げます



オホッ!



ヨツバちゃん……




 ヨツバちゃんはいますごく困っていて、助けを求めているんだ。




 どうにかしてあげたい。



 力になってあげたい。




 だけど……



ヨ、ヨツバちゃんに協力してあげたい……けど……


ボ、ボクには、妹をさがさなきゃならない責務もあって……



妹をさがさなきゃならない……?



ボクの妹が、行方不明なんだ……



そうだったんだ……



俺はコイツの妹さがしを手伝ってるんだが、このへんで幼いメス猫を見かけなかったか? 


特徴はキジ白の緑目で、シッポの長い小柄な猫なんだが



たぶん見かけてないと思います……



そうか



……はぁ……。

ミネのヤツ、一体どこにいるんだろう……?




 ボクは溜息をつきながら空を見上げた。



 そのときだった。

 一羽の鳥が上空を滑空しながら近づいてきた。



あっ、鳥が……!




 白くて小さめの鳥が青空を切るような鋭さで翔けている。



 何の目的があるのか知らないけれど、鳥はボクらのほうへ一直線に向かってきた。



ボス!

空から鳥が急接近してくるのでありますっ!



案ずるな。

そいつはきっとインテリの使い鳥だ



えええええっ!? 

とっ、鳥を使いに!?



























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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