第148話 仲間のピンチ④

文字数 1,296文字





 電光石火(でんこうせっか)(くれない)



 追跡されるヨウは、金属板から足場の狭いパイプへと移動中だが……







 またたく間に、パイプの端へと追い詰められるヨウ。



 落下すれば、そこに待ち受けるのはガラスの破片地獄だ。



No、noノー、ノー! 

来ないでクダサイ!



フッ、愚かな!

そう言われて引き下がるバカがいるか




 紅は間合いを詰めて片手を振り上げた。



 すばやく拳を振り下ろし、ヨウの顔面にパンチを喰らわせる。



Ouchアウチ




 痛烈な一撃を浴びて、ヨウの体がふらりと(かたむ)く。



ヨウ! 

(かが)んで(こら)えろ!




 俺の指示を聞いて、ヨウは即座に姿勢を低くした。



 重心を下げて安定を保ち、なんとかその場に踏みとどまる。



タスカリマシ……




 礼を述べるヨウだったが、そんなゆとりはなかった。



 側面から、さらなる危機が迫る!



あぶねぇ! よけろっ!



(すき)あり!




 再び紅が攻撃を仕掛ける。



だめだ、間に合わねぇ――!




 紅は、ヨウの顔面を殴りつけた。



 いましがた猫パンチを浴びせた右(ほお)に、ガツンと容赦ない一撃を加える。



アウゥッ……!




 身を切るような衝撃。



 ヨウの長い毛が一部削がれ、ふわりと宙に散っていく。



Ahhh(アーーーー)

日頃の手入れが無駄に……っ



んなことはどーだっていい。

それより傷跡になっちまってるぞ!




 遠目には見えにくいが、攻撃を受けた箇所から血が(にじ)んでいるようだ。



大丈夫デス。

傷は痛いデスガ、耐えられないほどではアリマセン



耐えられないほどの傷をつけてやってもいいのだぞ



Nooo(ノーーー)



傷をつけられるのは嫌か。

ならばもう一度、破片の散らばる床に突き落としてやろう!



やめろっ! 

いますぐヨウから離れて、俺と戦え!



貴様を処理するのは一番最後だ!

どうしても戦ってほしいのなら、ここまで来るがいい!



ケッ!

ナメやがって!




 俺は吐き捨てるが、心の底では無力感がこみ上げるばかりだ。



 けれども手がマトモに動かせないんじゃ、ろくに歩けもしねぇ。



クソッ……こんなもん……!




 歯を食いしばって、前足にグッと力を込める。



 だがヘタに手を動かすと、体を支えきれずに落ちてしまいそうだ。



 それでも動かないわけにはいかねぇ……。



仲間を助けもせずに、諦めちまうわけにはいかねぇんだ……!








 渾身の力をふり絞り、どうにか一歩を踏み出す。



無駄な歩みだ。

それではいつまで経っても仲間を救えんぞ



くっ……!




 認めたくはねぇが、紅の言うとおりだ。



 インテリもミミも不意を突かれて窮地に立たされている。



 ヨウなんか、まさに絶体絶命と形容するにふさわしい状況だ。



 歩みの遅い俺が必死になって紅のもとへたどり着いても、そのときすでにヨウは地獄へ突き落とされているだろう――。



いや、考えるより行動だ!




 俺は闇雲に駆け出そうとした。




 すると――




そこまでにしときや!




 唐突に、下から声が響きわたる。



 ハッとして顔を向ければ、廃工場の出入り口付近に見慣れた姿があった。



キンメか!



遅れてすんまへん、親分さん!


代わりっちゃなんですが、〝ごっついモン〟ゲットしてきましたで!



〝ごっついモン〟……?












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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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