第105話 遭遇

文字数 1,488文字


 



 じぃ~……。



……



……




 得体の知れないヒモを隅々まで眺める。



 ヒモにあまり動きはねぇ。



 けれどもシャッターと壁の隙間から先端をはみ出させたまま、時折ちょこちょこと落ち着きがない。



辺りが暗くてわかりづれぇが、よく見ると細長いヒモの表面に人工っぽい(つや)があるな



言われてみれば、ソウデスネ



どうやら触れるとシャリシャリ音がする、ビニール製のようだ



ナルホド!



ビニールといえば、昔――

俺の仲間がうっかり飲んじまって死にかけたことがあってよ



それはヒドイデスネ



人間の食い物はビニールに包まれてることが多いから、気をつけねぇと飲んじまうんだよな



危ないデスネ。

ワタシも気をつけマス



ああ、そのほうがいい


って、んなこと思い出したら腹が減ってきちまったぜ


このヒモの向こう側に食い物でも(くく)りつけられてるなら、いくらでも引っ張るんだがなぁ……




 愚痴をこぼして、ふぅーと大きなため息をつく。


 

 無意味なやり取りに見えるが、これはあくまで俺の作戦だ。


 

 ヒモが逃げないよう、何食わぬ素振りで近づく。



 相手の動きが完全になくなったところで――チャンスだ!



 シュッとすばやく片手を突き出す。




 



 ピシッ!



 油断して静止状態だったヒモは、(またた)く間に俺の手の下に収まった。



Wow(ワオ)

一瞬で捕まえマシタネ!



必殺の早打ちがキマッたぜ!



イキナリ攻撃するとは思ってもミマセンデシタ!



気のないフリをして相手の油断を誘い、隙が生じたところをすばやく突く。

猫の知能と俊敏さを生かしたフェイント攻撃だぜ!




 猫を飼っている人間も、このフェイント攻撃に一本取られるヤツは後を絶たないという。



ボス、さすがデス!



へへっ♪



それにしても、このヒモ妙デスネ。

何かに引っかかってるみたいに、ピンと張ってマス



明らかに誰かが反対側から押さえてやがるな




 視線をヒモの奥のほうやって、気配を探る。



 シャッターに阻まれていても問題はねぇ。



 俺の耳にかすかな動物の息遣いが聴こえてきた。



やっぱり、何かいるな




 俺は独自のヒソヒソトーク法の〝超サイレントニャー〟を駆使してヨウに話しかける。


おい、ヨウ




 向かい側のヤツらに聞き取られる可能性はあるが、上にいる紅たちに聞かれることはまずない。



俺はこのシャッターを跳び越えて、内側に入る。

オメェは俺の代わりにヒモを押さえていてくれ



ラジャー




 ヨウは俺の手のそばに、そっと自分の手を添えた。



 ヒモに気を取られているあいだに俺が小部屋に侵入する。



 俺はそっと付近のガラクタに跳び乗ると、シャッターを見上げて狙いを定めた。



視界を覆うほどシャッターはデカいが、上側はガッツリ欠けている。

猫が出入りできる隙間としては申し分ねぇ


んじゃ、行くぜっ!




 弾みをつけて、いざジャンプ!



 優れた筋力がバネとなり、2メートル先だろうが跳び越える。



 個体差はあるが、猫ってやつは極めて運動神経万能な生き物だ。



 壊れたシャッターの断面を難なく通過し、薄暗い小部屋の中へと突っ込んでゆくと――



あっ! オメェら!




 

 ――中に入った途端、おもいがけないモノが目に入った。



 床に着地と同時に、そいつらを凝視する。



 壁際に身を寄せているのは、例の姉弟猫だった。







あ~厄介なのが釣れちゃったぁ


大物、ニャウ




 ふたりの手元には例のヒモがある。



 それを手で動かして、ヨウの興味を引いていたのは間違いなさそうだ。



ったく、懲りずにちょっかいかけてきやがって




 この猫たちに嫌がらせを食らうのは、これでもう二度目だ――。



おいガキども、いい加減にしろよ!



……!


……!




 俺が(すご)むと、猫たちはやっちまったという表情をして固まった。
























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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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