第63話 恥辱にまみれる

文字数 1,811文字




 〝心の傷の根本的な原因を当てる〟と言われて、モブニャンは息を詰めたように顔をこわばらせている。



い、いったい……、

心の傷の根本的な原因って、なんなのですニャ?



そう緊張しなくてもいいにゃ


それとも真実を突きつけられるのが怖いのかにゃ~? 

にゅふふふふ……



いや……悪巧みしてそうな、その笑いが怖いっす



ウチの微笑みは女神の微笑みにゃも



……そうっすね……



声が小さいけど、まぁいいにゃ


それじゃ話を戻して――


原因は幾つかあるにゃ。

まずは原因・其の壱から始めようかにゃあ



えっ!?

その壱ってことは、其の二もあるんですニャ!?



そうにゃよ


それとも遠回しに指摘するより、すべての元凶は自分自身にあるってダメ出しをされたほうがいいにゃ?



いえ、それはそれでキツイですニャ……




 しょぼんと(うつむ)くモブニャン。



 さびれた建物を背景にガックリとうなだれて、滑稽こっけいなほど哀愁が漂ってるにゃ。



 ウチはそれをツタの這う塀の上から見下ろしつつ、相手が理解しやすいようゆっくりと語った。



さきほどモブニャンは、トウとリャクのふたりにこう言ったにゃね


「ヤミミンをあっしのところへ返してくださいニャ!」って



はい……



ヤミミンていうのは、つまりモブニャンの彼女にゃよね?



そうですニャ



じゃあ、単刀直入に言うにゃ


その彼女、トウとリャクに寝取られたにゃね?



にゃあああああ!

なぜそれを~~~~~!?



なぜって、さっきの話の流れを聞いてたらなんとなくわかるにゃよ



ふにゃあああああ~~~っ!


誰にもバレないようにしてたのに~~~っっっ!




 つつかれたら相当イタイ話だったようにゃ。



 精神ダメージが大きすぎるようで、瞳孔がありえにゃいくらいに飛んでいる。



あんまり声を荒げると廃工場の猫たちに聞き取られるにゃよ



ふにゃ……!




 か細い声で鳴いて、小刻みに揺れつつ身を縮めるモブニャン。



 まるでストレスに震えるウサギみたいにゃ。



シンドイのはわかるけどにゃ。

あのワルどもの言ってたことをよ~く考えてみるといいにゃも


ウチらは猫なのにゃよ? 

猫が猫を監禁するにゃんて無理な話にゃ。手錠やロープで縛れるわけでもにゃし


にもかかわらず、あのトウとリャクのところに入り浸ってるってことは……


冗談抜きで心変わりしたってことにゃ



ふにゅうぅぅぅ……!


で、ですが、脅されてやむなくってことも考えられますニャ!



そう考えたくなる気持ちもわからにゃいでもないけどにゃ~


猫の交わりは〝メス猫に主導権がある〟ことくらいわかってるにゃよね? 



ハッ……!

そうでした……!



猫社会では、メス側にその気がない限り、にゃんにゃん♡プレイはできないのが常にゃ


無理やりっていっても、嫌がるメス猫がおしりを下につけて座った時点で、オス猫は途方に暮れるしかにゃいも


まぁ、まったく例外がないとは言わにゃいけどにゃ


トウとリャクといたほうが楽しいってことは、ヤツらの発言どおり彼女がみずから心変わりしたと考えるのが自然にゃよ



ぐにゅううう……!

アイツらめ……!



つまりあのワル猫どもは、モブニャンの彼女の心まで盗んで、自分らのほうになびかせたってわけにゃ


にゃはー! 

まさにドロボー猫にふさわしい所業にゃね!



うまくまとめて言われても、あっしには辛いだけですニャ



にゅふふ! そうだろうにゃそうだろうにゃ。

そんなことはわかってるにゃよ


このマウティスを誰だと思っているのにゃ



え……、

ジロリ組のナンバー2じゃ……?



面白みのない答えにゃねー。

それは単なる肩書きにゃ


このマウティスをより正確に称するなら、

『偉大なる無情な知恵者』にゃ



無情すなわち、慈悲を求めても無駄ってことにゃ



ニャんとっ……!




 モブニャンは恐れをなしたように後退(あとずさ)った。










どもー! 

i○ad片手に猫のマメ知識をお伝えする、アイ・キャットでーす!


作中でマウティスの語ったように、猫社会では恋愛はメス猫が主導権を握っています


もちろん人間が謎多き猫事情のすべてを把握しているわけではありませんが、おおよそのことは明らかになっていて……


猫同士の恋愛では

〝メスの好みが優先される〟という説が定着しています


以上のことから、失恋を経験するのは大抵オス猫のようですね


作中でマウティスの語ったように、猫社会では恋愛はメス猫が主導権を握っています


筆者はひそかに、猫に生まれ変わったらオス猫ライフを送ってみたいと思っているのですが……


一度や二度ならまだしも、毎回メス猫さんの気を引くのは難しそうですねぇ~……


























ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色