第24話 みんなでスメルチェック 後半

文字数 1,513文字





 新入りは尻をモゾモゾさせて、俺に肛門をさらけ出すのをためらっている。



早くしろよ。

妹をさがしてほしいんだろ?



そ、そうですけど……。

ボ、ボスにおしりを向けるだなんて、(おそ)れ多いとゆうか……



んなこと気にしてる場合じゃねぇだろ



けど、やっぱり……

はっ、恥ずかしい……!



いいからニオイを嗅がせろ!



ヒェッ!




 俺が声を荒げると新入りはその場に固まった。



 その隙に新入りの背後にすばやくまわり込み、尻に鼻を近づける。

 


 ニオイを正確に嗅ぎ取るため鼻を小刻みに動かし、何度も息を吸い込んだ。




 くんかくんか……。



 くんかくんか……。




ちょっ……ボス! 

そ、そんなにじっくり匂わないでください……っ



ウゲェ……! 

まじ臭ぇ……ッ!








ゲホッゲホッ……!



大丈夫ですか!? ボス



心配無用だ。

……かなりの刺激臭だが




 我ながらムセちまうとは情けねぇ。



 俺は新入りの尻から離れて深呼吸をし、汚染されかけた鼻のクリーン化に努めた。



どうにゃ? 

ちゃんとニオイを分析できたのにゃ? 



まあな。新入りの体から嗅ぎ取ったニオイを吟味し、有益な情報を得たぞ



と、おっしゃいますと?



新入りの体にしみついたニオイには、俺やオメェらにはない特徴がある


〝唯一の特徴〟がな



唯一の特徴?



What?

それは一体……?



複雑に絡み合ったニオイの中から、ほんのわずかだが〝ダンボールのニオイ〟がした


それも新品のダンボールじゃねぇ、古臭ぇ家のニオイのしみついたダンボールだ



あっ、もしかして――


そ、そのダンボールって、ボクらが捨てられたときに中に詰められた、あの箱ですか……!?



それ以外に考えられねぇ


古臭ぇ家のニオイは、おそらくオメェの住んでいた家のニオイだろう



す……すごい……!

そんなことまでわかるなんて……!



さすが親分さんや!



どんなときでも冷静に状況を見極める。

野良猫としての経験の差がモノをいうわね!



へへ、そうおだてるなって



ボス。

念のため私もチェックしてみましょうか? 


私の縄張り巡回ルートにあの下々家(ゲゲドウ)の家も入っていたので、お役に立てるかもしれません



そうだったな。

オメェも嗅いでみろ



御意




 インテリは新入りのそばに寄ると、その尻にそっと顔を近づけた。



…………ウッ!


……なるほど。

これは、なかなか……



嫌なニオイがするだろ?



ええ、たしかに。

虫唾(むしず)が走るような臭気(しゅうき)をかすかに感じます


おそらくゲゲドウ宅の家屋(かおく)のニオイでしょう



にゃるほどにゃ~


〝古くて臭い家のニオイのしみついたダンボール臭〟が新入り兄妹を結びつけるヒントってわけにゃね



ああ。

それをもとに捜索すれば、どこかで新入りの妹の痕跡を見つけられるはずだ


みんな、しっかりとニオイを覚えろよ



了解ですニャー!



おまかせくださいニャー!




 みんな新入りの尻に群がると、生真面目な顔を並べて鼻の穴をヒクヒクさせた。



恥ずかしい……




 新入りは羞恥心でいまにも逃げ出しそうなほどだが、それでもちゃんとスメルチェックしやすいよう尻を上げ気味にしている。



 なかなか協力的な姿勢だ。



 行方知れずの妹を見つけたい一心で恥辱に耐えているのだとしたら、まじで健気(けなげ)としかいいようがねぇ。



hmm(フーム)……。

言われてみれば薄っすらダンボールのニオイがしますネ



薄汚れた絨毯(じゅうたん)や座布団のニオイもするわ


さっきはキンメのオナラのせいでスメルチェックどころじゃなかったけど、いまならわかるわね



鼻詰まり気味のワイにはサッパリや



ホントかすかにだけど、いかにも手入れの悪い古びた家って感じのニオイがするにゃも


覚えたくにゃいけど、頭にインプットしたにゃよ



よし!

ニオイは覚えたみてぇだな


んじゃ捜索に乗り出すぞ!






















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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