第65話 危険な戦い

文字数 1,878文字





 ねこねこファイアー組のボス・紅の出現に、狼狽ろうばいするモブニャン。



ヒェェェェェッ!

(くれない)様ぁぁぁ……!




 驚くのも無理はないにゃ。



 さすが組の頂点に君臨するだけあって、たいした隠密ステルススキルにゃも。



物音を立てないだけじゃなく、このマウティスに気配すら感じさせないとはにゃあ




 大げさに言えば、赤外線センサーを搭載してないと気づかないレベルにゃよ。



フッ。

その驚きようから察するに、おれの気配を感知しきれなかったものとみえる



にゃはは! 

それは認めるにゃ


けれどこっそり近づいておきながらわざわざ話しかけてくるにゃんて、このマウティスを仕留める絶好の機会をのがしたにゃね



隙を突いて不意を打つのはたやすいこと


だが貴様らのような小物相手に唐突な攻撃を仕掛けては、ボスの名がすたると思ってな



ふにゃんぬ!

モブニャンはともかく、このマウティスまで小物扱いするとは見る目がないにゃね!



なら試してみるか。

小細工は通用せんぞ



望むところにゃ。

ただし条件があるにゃも!



条件だと?



モブニャンを攻撃対象から省いてにゃ!



えっ!?


ホントにそれでいいんですニャ!?




 モブニャンは恐怖で地面に張りついたまま、ちょっと意外そうに目を白黒させている。



構わにゃいよ。

そのほうが戦い易いしにゃ



なかなか滑稽こっけいな話だな


ねこねこファイアー組のスパイがジロリ組に鞍替えしたわけか



いえいえ、そういう提案があっただけですニャ!


あっしはまだマウティス姐さんのしもべになるとは言ってニャいですけど……



つべこべ言わずに、さっさと逃げてにゃも。

待ち合わせ場所は、あの池にゃよ



池!?

それって、あの魚を獲っていた池のことですニャ?



そうにゃも。

早く行って、ウチが到着するまでにおサカナたんまり取っておいてにゃ~



わかりましたニャー!


って……、

ホントに行っちゃってもいいんですニャ?



おれに聞くなっ!



いいにゃよ。

早くしないとケガするにゃよ




 モブニャンは、ウチと紅の顔を交互に見比べながら、じりじりと後退する。



それじゃあ、またですニャー!




 震えるような声を絞って、モブニャンは廃工場を囲う野原へ駆け出していった。



裏切者めっ




 去っていく元・組員を遠巻きに見ながら、不満そうに吐き捨てるボス猫。



 ウチはその目線がこちらへ向く前に、前足をやや突き出して臨戦態勢に入る。



さて、それじゃ――




 「始めるとするかにゃ」



 なーんて、悠長なことは言ってられにゃいも~。



 言葉より先に駆け出す。



 さもこれから戦う的な雰囲気を作っておきながら、一目散にトンズラ作戦遂行にゃ!



 塀からぴょーんと飛び降りて、ダダダーッと野原を疾走、疾走、疾走にゃー!



にゃははー!

逃げるが勝ちにゃも~♪








 ちゃんと先に逃げたモブニャンに配慮して、進行方向は真逆の方角にしておいたけどにゃ。



そもそも、あのボス猫と真っ向から勝負して勝てるわけにゃいも




 猫界隈では、勝敗の行方の握るのは体格差と相場が決まっている。



 自分が相手より小柄なら、パワー押しの一手だけじゃ不利な戦況に追いこまれやすい。



やはりここはスピードを生かして有利な地へと誘い込み、隙を突いた戦闘を展開するに限るにゃね




 と、余裕だったのも(つか)の間――



速いが、追いつけないスピードではない



にゃにぃ!?




 振り返れば、ウチの背後に紅の姿が――!



逃がさん!




 紅の体がふわりと宙に舞う。



 大きな体が、このマウティスの頭上を軽々と飛翔する。



 まるで炎がこの身を覆いつくすかのような勢いで跳びかかってきた。



()けられるものなら避けてみろっ!



――!?







 眼前に迫る鋭いの牙。



 紅が仕掛けようとしているのは噛みつき攻撃にゃも。



 噛みつき攻撃は、猫の繰り出す技の中で最も強烈で威力が高いのにゃ。



なかなか見事な技にゃね!


でも、このマウティスを(あなど)らないでもらいたいにゃ!

冷静に対処すれば、避けられない攻撃じゃにゃいも!


 


 自分自身へめいを下し、横に飛び退いてかわす。



 相手の牙をむいた顔がわずかに遠ざかる。



フゥ……危なかったにゃ




 間一髪、難を避け危機を脱したかに思えたにゃ。



 しかし紅は百戦錬磨で有名にゃ。



 攻撃をかわされたと知って、すでに次の一手を繰り出している。



ハアッ!




 地に着地するとほぼ同時に、前足を振り上げていた。



 憎たらしいほど無駄のない動きにゃ。



 間を置かずに攻めかかるなんて、相当戦い慣れした動きにゃも。



今度は猫パンチを仕掛けるつもりにゃね!



その身に我が爪痕を刻むがいい!




 白い毛の内に隠された爪が露出し、ギラリと悪魔的な光を放つ。




 さらなる危険がウチの身に迫っていた……!





















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登場人物紹介

ボス ♂

野良猫。先代の跡を継いでジロリ町のボスの座についたが、自身は平和主義でもあり自由を求めているのであまり乗り気ではない。非常にケンカが強く、疾風の猫パンチを見切れるものはいないという。

(本名:プルート 通称:ボス、親分、リーダー、カシラなど)

マウティス ♀

ボスファミリーの一員。野良だが先代ボスの子。

「にゃも」など、しゃべり方に独特の趣がある。とてもしたたかな性格で賢いが、食い気には勝てず、好物のニャオ☆チュールを手に入れるためなら平気で他者を利用する。

インテリ ♂

ボスファミリーの一員。飼い主の老夫婦が死亡したことにより野良となる。猫にしては博学で語学も堪能。トリ語も解する。その冴え渡る知能を活かし、組織の交渉役として縄張りの維持に努めてきた。

(本名:あずきちゃん、肉球があずきに似ていることから命名されたが彼は気に入っておらず、しばしば違う名を名乗る)

キンメ ♂

飼い猫。多頭飼育崩壊から生き残り、ボランティアらによって関東在住の住人のもとへ譲渡され、ジロリ町に移住する。当時の名残が残っているせいか、口調は大阪弁。明るいキャラでよくしゃべる。

(本名:なし、名前がなかった。名づけられたのは譲渡先に行ってから。目が金色なのでキンメとなる)

ミミ ♀

飼い猫。耳の形に特徴がある。麗しの三毛猫を自称しているが、発情期に誰も寄ってこなかったという悲しい黒歴史を持つ。ヒカリモノに目がなく、自身の首にもキラキラネックレスを身につけているが、あちこちに引っかけて壊すので飼い主に呆れられている。随時彼氏募集とのこと。

ヨウ ♂

飼い猫&洋猫。飼い主の目を盗んでしばしば脱走する。自慢の毛を維持するためいつも毛づくろいしてばかりいる。海外ブリーダーのもとで育てられたため、日本語がやや片言。生まれたばかりの兄弟が多数いるが、引き合わせてもらえないのであまり仲良くはない。

??? ♂ 

ちょっと汗かきすぎな新入り猫。どうも様子がおかしい……。


ちなみに猫は肉球からしか汗をかかない。顔グラではわかりやすさを重視して強調している。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

モブニャン

ネコの集会に参加する猫たち。集会への参加期間の浅い猫は下っ端になる。モ〇ニャンという某キャットフードに名前が酷似しているが関係性はない。

アイ・キャット

i〇adを所有する謎の猫。その便利グッズで猫に関する豆知識や雑学を解説してくれる。

ストーリー上には登場しない。

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