第11話 立ち往生

文字数 3,085文字

本間「はいどおぞ。」





本間が温子に煎茶の入った客人用の蓋付きお湯呑み茶碗をだす




温子「ありがとうございます」





柳林「この2023年に そんなことを信じられる人がいると思うのかい?」







温子はやっぱりそう言われるよなって思い、小さなため息をついた。




温子「でも 本当なんです。部活の帰り道、一緒にいちょうの並木通りを歩いていて、その出口ら辺で、輪羽君が 私の目の前から 消えたんです。サッカーボールだけが残って、これです。」


温子はサッカーボールを大事そうに抱えていて、柳林と本間に見せます。





本間「富永さん、ありがとう。この事件は目撃情報が本当に少なくて、だからどんな情報でも 助かります。」


本間が優しく温子に話しかける。





柳林「最近の輪羽君の様子で、何か変化や 何か変だなと思ったことはありましたか?」



温子「いえ、特に何も。 いつも通りでした。」




消える前に 私が輪羽君に告白したなんて話は、事件とは関係ない話だからする必要はないよねと心の中で思っていました。





告白の返事も聞けず、消えてしまった。





でも付き合えないって言われてから消えるのも どうだったんだろう。悲しさが増し増しだったかも。だからあのタイミングで消えたのは、良かったという言い方は、おかしいが、良かったと。
今となっては、付き合えても、付き合えなくても、輪羽君が無事であることがまず第一だと温子は 考えていました。






本間「来てくれて、ありがとうございました、またなにか新しい情報があったら、連絡ください」



温子「はい、刑事さん、輪羽君を見つけ出してください。 お願いします。 失礼します」



温子は深く一礼をすると、柳林と本間がいる会議室を出た
本間が一階の警察署の出入口まで、温子を見送りに 温子の後、会議室を出た。



柳林が、会議室でひとりになった。






柳林が 、椅子の背もたれに 寝るように背中を反らせつけ、タバコを取り出し 深く吸い込み、天井を見上げて上に吹かした。



煙が目的の場所を探すかのように、もくもくと 空気中を漂う





柳林「.......神様よぉ こんな不思議なことって世の中にあんのかい....?




にっちもさっちもいかねぇ 気持ちは動きたいのに体が動けず、もどかしい、、くやしい、、K.O寸前のボクサーは きっとこんな気持ちなのかもしれない」






柳林は 顔を天井に仰ぎ、遠く一点を見つめた。

















───────────────


柳林の携帯が鳴る
•*¨*•.¸¸♬︎(テレサ・テン 時の流れに身をまかせ)



柳林「はい、柳林だ。」



沙織「あっ パパ? 」


柳林「....おっ 沙織、どした?」


沙織「たまには、外で一緒にご飯でもどうかなぁって思って」


柳林は一人娘の沙織が 可愛くて仕方ない



柳林「おぉ.. いいぞ。 今日は早く帰れるから、、」



沙織「よし、それじゃぁ、いつものレストランね。七時で予約しとくね」


柳林「あぃ、わかったよ。」




───────────────


柳林が帰ろうとしたところ、頼まれ事が舞い込んできて、到着が10分ほど遅れた。大体仕事とは、帰ろうとすると、なにかしらのやらなければならない事がでてきたりするものである。



店の入口に立つと、スーツ姿の案内係が声をかけてきた


「いらっしゃいませ」


柳林「えー、、予約した柳林です。先に、、娘が、、着いてると思うんですが、、 遅れてしまって、、」


「はい、いらっしゃいますよ、ご案内致しますね」


沙織「パパ~」

沙織が小さく手を振る


柳林「すまん、ちょっと遅れた。仕事頼まれて。。」


沙織「大丈夫だよ。お疲れ様、パパ。」



ウェイターが2人のそばにやってくる
柳林におしぼりと水を提供する


柳林「ありがとう」

沙織「それじゃ、お願いします」

ウェイター「かしこまりました」



沙織「パパ、今日は児童失踪事件のなにか進展あった?」

沙織が小声で話す。


柳林「それがなぁ、、輪羽敬一君が、目の前で消えたって言う同級生が、署を訪ねてきたんだ、、信じられん」


沙織「そうなんだ、、ほんとなのかな、、寂しい子供は、人の気を引かせたくて嘘をつくってこともあるからね、、 信じてあげたいんだけど。そんなこと、起こったりするのかな、、。」




柳林「普通の神経の人間だったら、そう思うよな。でもあの子の目、見て話したんだけど、嘘をついてはいないような目だったんだ」




沙織「そうだね、わざわざパパの所まで来て、言いたかったって、その気持ちは、受け止めてあげないとね。」




沙織「子供達、海外にいるってことはないかな?」


柳林「俺もそれは考えた。それで依子(よりこ)に調べてもらったんだ。5人の渡航歴。でも日本の外に出た記録がない」



依子は、柳林の妻だ。国際警察のスパイをしている。普段は、離れ離れの遠距離の夫婦だが、二人は愛し合っている。



沙織「そうなんだね、、。 ねぇ、ママ元気だった?」


柳林「依子さんは、いつも元気だ。沙織ちゃんは元気?正月に帰ってきたら、三人でご飯に行こうと言っていたよ。」


沙織が、嬉しそうな幼い子供に戻ったような顔をする。




沙織「うん。楽しみ。」


ウェイター「本日のアミューズ・ブーシュでございます」


沙織「食べよう♪」

柳林「いただこう」



少しすると次は前菜がでてきた



ウェイター「いきいき鶏の冷燻 七味のアクセント でございます」


沙織「美味しいねぇ、パパ美味しい物食べて、明日からまた二人とも頑張ろうね」



柳林「そうーだな」


ウェイター「パンはおかわりできますので おっしゃってください」



柳林「はーぃ、ありがとぉねぇ」



次はポワソン。
『伊豆産金目鯛のバブール 白ワインソース カプチーノ仕立て 三島野菜を添えて 』が出てきて、
ウェイターが丁寧に説明してくれる。



皿に綺麗にカットされたトマトやナスやズッキーニが、繊細に美しくまるで絵画のように皿に飾られ盛られている。






沙織が隣の席のカップルを、静かにバレないように見ている。




沙織「ねぇ、パパ。隣の男の人、トマト嫌いなのかなぁ。そっと女の人のお皿に移してる。女の人も何も言わないで そのトマト食べてる。 仲良しだね。」
沙織が小声で言う


柳林「あぁ。」


沙織「私もいつかパートナーがみつかって、あんな二人になれたらいいな」


柳林「なれるさ、いくらでも。沙織は、パパとママの子なんだよ。沙織ほど良い子はなかなかいないよ。へんな男が近寄ってきたら、パパがパンチパンチパンチだからな。」

沙織「笑 ありがとう、パパ」






ブルル ブルル


柳林の携帯のバイブが鳴る



柳林「食事中なのになぁ、、、悪いなぁ、、沙織」



沙織「いいよ、」






柳林「はい、柳林だ」


本間「 お疲れ様です! 本間です。 柳林さん、今、 月嶋君と米澤君が通う塾の近くのコンビニの店員から証言を得まして、、汗」



柳林「 本間、 それ急ぎか、、 いま沙織と食事中で、、 終わってからでも電話かけ直すが、それでもいいか、、?」



本間「 えっ?! えっ?! 沙織さんとお食事ですか?! 沙織さん、横にいるんですね! 汗」


沙織「 本間さん、お疲れ様~。」

柳林の携帯に向かって、本間に聞こえるように沙織が言う


本間「 あっ あっ汗、 沙織さんの声だ! いいっすねぇ~、 沙織さんと食事かぁ、、、いいなぁ~~~」


柳林「 本間君、、それで、その話急ぎじゃなくて大丈夫なのか?、、」


本間「 あっ、汗、はい! お食事終わってからでも、まったーーく、もんだいないっす!」


柳林「 わかった、食事終わり次第、すぐかけ直す。」



沙織「 本間さーん、またねー 」





本間「さおりさ~~ん、はーーい また会いましょうね~♡
近いうちに 必ず~ ✿.•¨•.¸¸.•¨•.¸」











つづく

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