早打ちの男(5)
文字数 2,460文字
勿論、彼らが自称している訳ではなく、AIDS側の分類コードの上の名前なのだが、鵜の木隊員をはじめとするAIDSクルーには、かなり馴染みのある宇宙人だった。
彼らは軍事帝国国家を持っている訳ではなく、自由資本主義社会を形成する宇宙人で、侵略目的で地球に来ることは皆無であった。ただ、私利私欲で行動する為に、少なからず地球人とトラブルを起こしている。
彼らの生物学的な特徴は、その強力な再生能力であり、不死身とも言うべき体を持っている。脳は頭部に2つ収まっており、ミラーリングと云う事を一定時間ごとに行い、片方の脳に損傷を負った場合でも、他方からミラーリングされて、何事も無かったかの様に超速再生できるのだ。
つまり、彼らを倒すには、再生できない程粉々に切り刻むか、生命を司る2つの脳を同時に破壊して、ミラーリングを出来なくしてしまうかの、いずれかの方法しかなかったのである。
鵜の木隊員は、純一少年の知人である
あの
尾崎真久良と云う、黒ずくめの「あいつだったら、喜んでフラナリヤ人の2つの脳を同時に狙うんだろうな」
男は、純一少年と鵜の木隊員に向き直り、大声で抗議をし始めた。
「私は、この星を大金をはたいて買ったのだ。どうしてお前たち原住民に邪魔されなけれならないのだ?
私はこの星にモンスターランを作るのだ。
素晴らしいだろう? モンスターをペットにしている大金持ちたちが、自分の可愛い怪物君たちを、ここで放し飼いに出来るのだ。
餌となる人間も掃き捨てる程いる。モンスターはそれも食べ放題だ……。まさにモンスターの楽園……。
ここに来れば、誰にも文句を言われず、お大事の怪物君を自由にしてやれるのだ!」
それには鵜の木隊員が言い返す。
「誰がそんなこと許すものか!」
「私が買い取った星で、私が何をしようと自由だろう?」
フラナリヤ人はそう言うと、何か機械を操作し、奥の部屋へと走って逃げだした。鵜の木隊員は彼を追おうとしたが、足元が揺れた為、足が縺れバランスを崩してしまう。
「どうしたんだ?」
「どうやら、彼も、ペットを持って来ていた様ですね……。それを解き放ったようです」
純一少年の言ったことは、鵜の木隊員には確かめようもなかったが、状況からあり得ないことではない。鵜の木隊員は、純一少年の仮定に従うことにした。
「だとすると、一刻も早く原当麻基地に連絡しないと。箱根は原当麻の管轄だ」
「鵜の木隊員は車に戻って、基地に連絡してください。そして、ガルラで怪獣の迎撃をお願いします。怪獣を攻撃するには鵜の木隊員の射撃の腕が必要です。僕はあの宇宙人を倒し、この基地を破壊します」
「素手の君が? この銃を渡すにしたって、武器はこれしかないぜ?」
「銃は無くても大丈夫です。僕を信じて下さい! 僕だって、AIDSの隊員です!!」
「信じられない……。無理だね……」
鵜の木隊員は彼の言葉を聞いて、そう答えた。そして、それに続けて、こう言ってウインクをする。
「AIDSの隊員の純一なんて、全然、信用できないね……。でも、早打ちマックを一緒に戦った純一なら、俺は信用する。大切な戦友だからな……」
鵜の木隊員は、銃を自分の上着のポケットに戻すと、今来た通路を反対方向に走って行く。純一少年も、それを見てから、ニッコリと笑い、逃げた宇宙人を追って走り出した。
純一少年は、少し反省している。
認めたくは無かったが、真久良の言っていたのが正解だった。
無駄駒を打たなければ良かったのだ。もし『十の思い出』が使えたら、怪獣専門の月宮盈と云う超人に出て貰うことも出来たし、あんな宇宙人など、耀子か
純一少年は暗い部屋に入ると、走るのをそこで止める。向うに明るい部屋へと続く扉が開いていたのだが、その先に彼の用は無いようだった。
「僕には分かるんですよ……。そんな暗がりの隅に隠れていても」
純一少年は入ってきたドアの直ぐ左側の、暗くて良く見えないが、何もない壁の隅に声を掛けた。そこには闇しかなかったが……。
「しかし、先ほどの判断といい、ここでの勘の鋭さといい、君はこの星の住人ではないのかね? 恐ろしい能力だ!」
闇の中から、闇のような顔をした宇宙人が、そう言いながら、ゆっくりと正体を現してきた。
「君のお蔭で、私の『モンスターラン・プロジェクト』は台無しだよ。どうしてくれるんだね……。プロモーションビデオを作成する為につれてきた、ギガトカゲ君までも手放さなけりゃならなくなったじゃないか。後で賠償を請求するよ……」
「済みませんね……。僕、子供だからそう言うことには疎くって。でも、心配いりませんよ。あなたの損害なんて、結局、死んでしまえば関係ないでしょう? もし借金ができたとしても、ご家族は負の遺産を相続しなければ良いだけだし……」
「大層な自信だね。私が不死身だって云うことを、どうやら知らないらしい……。おまけに君は、武器も持っていないじゃないか? もし決闘だったら、私が武器を貸さなければならない所だよ……」
宇宙人は胸倉から銃を取り出して、純一少年の頭に銃口を定めた。
「だが、これは決闘では無いんでね、こうさせて貰うよ。私を恨まないでくれよ。寧ろ、自分の愚かさの方を恨んでくれたまえ」
「そんなもので、僕は倒せませんよ」
「フフフ……。君は私の様に不死身だと言うのかね? どんなに再生能力が高くても、脳を持たない簡単な構造の生命体ならいざ知らず、脳で思考を制御している知的生命体は、脳への攻撃に弱いものだ。私は遠慮なく、君の、その1つしかない脳を狙わせて貰うよ」
フラナリヤ人は、純一少年の頭部目掛け銃の引鉄を引いた。勿論、純一少年に拳銃の弾などは通用しない。だが、彼の手に持った銃から発射されたものは、弾丸ではなく、ある種の殺人光線をだったのである。