止まっていた時計(5)
文字数 2,016文字
鉄男は自らの遺体を滑走路に置き、正信への憑依を琰を使って解くと、自分の身体へと再び憑依し直して蘇る。
一方、耀子の方は、自分の身体を担いだままで、ここでは
ま、特に深い意味はない。
単に、次のベヘモット封印の際、
十数分後、そんな彼ら四人、正確には三人と1つの遺体を、AIDSべレン基地に到着したガルラは機内へと回収した……。
機内では見慣れない二人を、純一少年が蒲田隊長以下三隊員に紹介する。
「僕の横にいるのが、狐正信こと紺野正信。以前、僕たちが参加していた組織、ラクトバチルスの多摩支部長です」
「皆さん、宜しくお願いします。わたくしは妖狐、あ、耀子さんではなく、妖怪キツネの妖狐……。妖狐、紺野正信と申します」
「私が、AIDS航空迎撃隊長の蒲田です。妖怪キツネですか? 随分と変わったニックネームですね」
美菜隊員も彼に声を掛ける。
「その節は、お世話になりました」
「おや、以前お会いしたことがございましたか? これは失敬、気が付きませんでした」
純一少年は、続けて
「こっちは……、中身は僕の妹の耀子なのですが、体は白瀬
「あら? 妖狐じゃないわよ。確か神仏の使いになった筈だから、霊狐シラヌイよ……」
憑依していた耀子が、
「え、ええ? どうして突然耀子ちゃん、私に替わるの?」
耀子は、顔を真っ赤にしてモジモジし出した。急に身体の制御権を、耀子が
そんな
「新田美菜です。宜しく。確か、以前、純一とお付き合いされていたとか……」
純一少年は『よく覚えているなぁ』と思ったが、まさか口には出来ない。
「は、はぁ、すみません。でも、あの……」
「冗談です。本当に素敵なお嬢さんだわ」
「ありがとうございます。あの……、要君のこと、宜しくお願いします。お幸せになれるよう、心からお祈りしています」
「ええ。あなたの大切な鉄男君のことは、あたしが必ず幸せにしてみせます。ありがとう、
「え?」
ガルラを操縦しているのは鵜の木隊員だ。
その彼の操作により、蒲田隊長機は機首を下げ、そのままアマゾン中央のベヘモットの背中へと降下して行く。
ベヘモットの姿は近付くにつれドンドン大きくなり、熱帯雨林に浮かぶ小さな島から、巨大な大陸へと変わって行った。
「隊長、そろそろ第2の目的地の上に着陸します。耀子さん、純一、頼んだぜ。こつちの怪獣も!」
二人は、その言葉に黙って頷く。
「そう言えば……、耀子さんの身体は、そのままソファに寝かしたままの常温で、本当に大丈夫なのか? 痛んだりしないのか?」
「大丈夫ですよ、鵜の木隊員。こいつの身体なんか、ネズミどころか、
そう言った純一少年の首に、
「止めろよな耀子!
そう言って、純一少年が指先を細いサーベル状の黒い刃に変えて、首に巻き付いたロープを切ろうとする。しかし、その前に耀子が手首を返してロープを巻き取った。
「失礼なこと言うからよ! でも、この体いいわね。
操縦管を握りながら、鵜の木隊員が耀子に反対する。
「そんな……。俺は前の耀子さんの方が、ずっと素敵だと思いますよぉ」
「あら、本当に和志さんって、お世辞がお上手。もう私、夫と子供を棄てて、この世界に残っちゃおうかしら……」
呆れた純一少年が、妹を揶揄した。
「はいはい……。直ぐに着陸だよ、
「ん? それじゃ、パンダのお兄ちゃん。2匹目行きましょうか?」
その台詞を聞いて、正信と美菜隊員はもう噴き出している。蒲田隊長も顔を歪ませて、必死に笑いを堪えていた。