早打ちの男(6)
文字数 2,550文字
そして、その熱は、命中した敵の内部で水分を気化させ、膨張させることで内部爆発を起こさせる……。
光線は丁度、純一少年の首の上あたりに命中し、次の瞬間、彼の頭部はパンと云う小さな音を立てて破裂した。
「全く、たわいもない……」
純一少年の頭の部分が吹き飛ばされ、床に彼が倒れ伏しているのを、宇宙人は満足気に確かめる。
「さて、仕方ないから一旦退散するか……。原住民とのいざこざによる損失であれば、保険も適用されるだろうしね……」
フラナリヤ人はそう言うと、明かりの見えているドアの方へと向きを変え、そちらに数歩、歩き始めた……。だが……。
「どうして帰れると思っているんです? 僕が本気であなたを狙っているのに……」
声のする方に、フラナリヤ人が驚いて振り返ると、そこには首から上を吹き飛ばされた
筈の
男が立っていた。そして、その首のない筈の
男の肩からは、なんと、新たな首が生えているではないか……。「そんな馬鹿な……! お前の脳は頭に無いと言うのか?!」
「まさか! 僕の脳はちゃんと頭骸骨の中にありますよ!!」
勿論、いくら大悪魔とは云え、脳を破壊されたら復活は難しい。仮に命を取り留めたとしても、後遺症が残らないことは稀であり、記憶にも影響が出てくる。
しかし、純一少年は脳を撃たれてはいなかった。宇宙人が不死身を矢鱈自慢するので、彼は、このフラナリヤ人を少し揶揄ってやろうと考えたのだ。
純一少年は自らの肩の皮を変形させ、自分の顔に見せかけた。そして相手に気付かれないようにして、自分の頭の位置を見えない様にずらしていたのだ。つまり、宇宙人が撃ち抜いたのは、彼の肩の皮に過ぎない。
確かに良く見ると、髪の毛がないとか、のっぺらっぼうだとか、気が付かないこともないのだが、暗い部屋ではやはり、宇宙人も区別が付かなかったのに違いない。
だが、この悪戯についても、後で彼は反省することになる。少しだけ……、肩に負った火傷が痛かったのだ……。
さて……。ところで、純一少年はどうしてフラナリア人の武器が光線銃だと事前に気付けたかであるが、それは彼の妹の能力『危険察知』に由るものであった。
純一少年は、何人もの大悪魔の能力を身に着けている。それは譲り受けたものもあれば、相手を倒し、敵の大悪魔から奪い取ったものもある。
その、幾つかある能力の中でも、妹、耀子のオリジナル能力は、取り分け群を抜いている……。そう彼は考えている。
純一少年のオリジナル能力は『皮膚硬化』だ。鉛の弾や鋼鉄の弾程度であれば、恐らく彼の体を貫くことはない。しかし、今回の様な光線砲であった場合、彼の『皮膚硬化』では、それを防ぐことが出来ないのだ。
もし、耀子の能力が無ければ、純一少年は、相手の武器が光線銃だと気付けず、無防備に頭に受けてしまったに違いない。だが、彼は『危険察知』に由って、そのままでは防ぎ切れないことを事前に検知でき、対策を取ることが出来たのである。
耀子の能力を持ってすれば、リスクを比較し、常に最善の一手を選ぶことが出来る。
もし、仮に作戦に気付かれ、本当の頭の方を狙われたとしても、彼は敵の攻撃の危険度を検知できるので、強い脅威を感じた時点で、作戦を変更し、何らかの対抗策を取ったに違いない……。
これを考えると、重力を操る能力や、未来を予知できる能力より、『危険察知』は、遥かに実用性があると言えるだろう……。
純一少年は、改めて、妹の能力を恐ろしい大悪魔能力だと思った。
フラナリヤ人は、恐怖に駆られ光線銃を乱射しようとする。それをされると、純一少年と云えども、流れ弾に当たる危険があった。
純一少年は、フラナリア人が数発発射した所で、硬化させた皮膚を手裏剣の様に飛ばし、敵の銃を撃ち落とす。そして、今度は走って逃げようとする異星人を、彼の重力操作で足止めした。
宇宙人はもう振り向くことも出来ず、目線だけを後ろに回し、最後の強がりを純一少年に言った。
「お前は確かに化け物だ。しかし俺は不死身なんだ……。俺は不死身なんだぞ!」
しかし、それは虚しい負け犬の遠吠えに過ぎない。
純一少年は、胸の鎖に架けた一本のミニチュアの剣を抜き払い、頭上に高々と掲げ上げる。すると、ミニチュアの剣が天井に届く程の巨大な剣に変わった。
それこそが、彼の最大の武器である、神剣、
それは、悪魔の命と能力を奪い取る、琰という法具を内蔵したお守り刀であると同時に、彼の意志により、大きさと重さを自在に変化させることの出来る、直刀の霊剣でもあった。
そして今、頭上に翳した
左右に分けられてしまっては、もう宇宙人も脳のミラーリングは出来ない。そして、遺体から二体に分離再生したりしないように、純一少年は、それぞれのフラナリヤ人の体にある脳を、一つずつ
純一少年は、フラナリヤ人の死を確かめ、それを確認し終えると、『危険察知』を使ってホテルの状況を検知してみる……。宿泊客や従業員はとうに非難していて、もうホテルの建物には誰もいない。
彼は最後の仕上げに入った……。
純一少年は宇宙人の基地内を走って、基地にある爆発物を探し出し、それに自らの拳を向け、最大出力の光線砲を撃ち込む。
それが、敵の基地の破壊する、一番簡単な方法だった……。
フラナリア人の計画したモンスターランは、こうして純一少年もろとも大爆発を起こし、粉々に崩れ去ったのである……。
その翌日……。
鵜の木隊員と純一少年は、流石に次の日も休暇日と云う訳にはいかない。鵜の木隊員は、いつもの様に、パトロール等の作業を熟なしていき、純一少年はいつもの様に何となく作戦室に座っていた。
そんな純一少年と鵜の木隊員に、手の空いた矢口隊員が話し掛けにやって来る。
「大変だったね~。折角の休日だったのに、休めなかったね~」
「いや、そうでもないぜ。結構楽しかったよ。な、純一?」
「ええ、とても面白かったです!」