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 純一少年は妹に、作戦の詳細を説明する。

「最初の1体は、お前と僕でカプセルに納まり、奴の背中かどこかに、地面に潜っても外れないように括り付けて貰う。その状態で僕は(えん)を使ってベヘモットに憑依する。
 そして僕は、耀子と僕の死体を括り付けたまま地中に潜る。で、ベヘモットの僕が寝てしまったり合図をしたら、耀子が僕の(えん)を使ってベヘモットから僕を吸収し、僕は自分の死体に憑依し直して蘇る。
 蘇った僕は、カプセルの中で真久良を召喚し、耀子と地上に戻る。これでベヘモットが封印出来るのであれば、残りの2体は1人ずつ憑依すればいい。その時は、もうどちらも戻る必要はないだろう?
 もし、1体目の封印が駄目だった場合には、僕の持ち帰った情報を基に、新たに作戦を練り直す……」
「悪くない……。だが、最初の1体の憑依は私がやる。もし失敗して制御不能になったとしても、テツ1人で真久良を呼び出し、帰ることが出来るだろう?」
「いや、最初の憑依は僕がやる。僕を助けることなど考えるな。僕も美菜隊員も、もう覚悟は出来ている。その代わり、僕も、もう耀子を助けようとは思わない……。
 後、言い難いのだが……。
 この作戦だと、結局最後は、2人ともベヘモットという永遠の憑代(よりしろ)に、生き仏として封印されることになる。もう、憑依も転生も出来ない。済まないとは思うが、これも運命だと思って覚悟してくれ……」
「まあ、仕方ないだろうな……。テツが絡むと、本当、碌なことが無い……」
「悪いな、耀子……。兎に角2人、いや、ここにいる全員で、何とかあの怪獣3体を核攻撃される前に処理するんだ」

 下丸子隊員が意見を述べる。
「純一君。君たちは、ベヘモットを空から落とす作戦の時、別時空に逃げると云うことに言及していたよね。確かあの時は……」
「ええ。ベヘモットを空に浮かべる為、生気を使い果たすから、時空の裂け目に逃げるのは難しいと、確かに僕は言いましたね……」
「だが、今回は、純一君がベヘモットに憑依するだけだ……。生気の余力を残している耀子さんなら、時空の裂け目を作って、純一君を連れて、地上に脱出させることも可能なんじゃないのかい?」
「僕と妹は、時空の裂け目を使っての、時空間の移動は比較的得意なんですけど、三次元的な場所の移動は苦手なんですよ……。ですから、脱出は出来ると思いますが。この時空の地上に戻るのは、正直、自信がありません。岩の中にでも戻ったら、直ぐには次のベヘモットに移れませんからね……」
 耀子も言葉を添える。
「私たちは、逃げることより、ベヘモットを封じることを優先します。兄の作戦なら、最初のベヘモットを封じた後、敵2体を同時に倒せます。ここで脱出を考えて、その隙に、また核爆弾を落とされたりしたら、もう堪りませんからね……」

 沼部隊員も間に入って意見を述べる。
「分かったよ、純一君。俺からも言わせてくれ。2人が地中にいる間、俺たちが残りの2匹を命に代えても核攻撃から守る。場合によってはミサイルも撃ち落とすし、爆撃機も迎撃する! 例え、諸外国の敵になっても構わない!!」
 沼部隊員は前に進み、蒲田隊長の方へと向き直ると、鵜の木隊員と並んで隊長に許可を求めた。
「と云うことで……。隊長、俺と鵜の木の我儘を許してください!」
「駄目だ……。お前たち2人だけに行かせる訳にはいかん! 当然、私も行く」
「沼部隊員、あたしが純一の為に闘わなくてどうするの? 当然、あたしも行くわよ」
 美菜隊員も、蒲田隊長の前に出る。
「そう言われたら、僕たちも行かない訳に行かないでしょうね……」
「仕方ないね~」
 下丸子隊員と矢口隊員も、笑って出撃に参加を申し出る。結局のところ、全員が核攻撃を防ぐ為、ガルラに搭乗することになってしまった。

 蒲田隊長が作戦を改めて指示する。
「では作戦は、上空より敵を落とすものから、純一君が提案したものへと変更する。参謀には私から連絡して置こう。
 ま、また、怒られそうだがな……。
 但し、私からも追加提案がある。
 カプセルは、ジズの緊急脱出用の物を使用。2匹目以降は、それに発信機を取り付け、その(えん)とやらをカプセルに同梱、あとで我々が2人を回収、救出する可能性を残すものとする。
 現在は、地中にある発信機を探査し、位置を特定するだけで、2人を回収するだけの地底潜行用の道具(ツール)はないが、今後開発できないと決まった訳ではない。
 いや……、10年掛かろうとも、20年掛かろうとも、必ず地底探査機を開発し、2人を救出するんだ!
 純一君、耀子さん。カプセルに2人が閉じ込められたとしても、いつの日か必ず、私たちが2人を救い出します。それまで、待っていてください!!」
 その言葉に、航空迎撃隊員全員が頷く。

「ありがとうございます。そうして頂ければ、私たちなら、ほんの少し、時が止まっただけで済みますわ……」
 耀子は、その言葉に感謝しつつも、実際、数10年後の救出などは、不可能だろうと考えている。
 地殻変動などもあるだろうし、いつまでも、同じ場所にカプセルがあるとは限らない。それに因り、万が一カプセルがマントルにでも飲み込まれたら、彼らは意識のないただの死体なのだ、転生も出来ず、黒焦げになってしまうだろう……。
 だが、それでも、そう言ってくれるだけで耀子は嬉しい。彼らは本気で自分たちを助けようとしてくれているのだ。

「では、何か質問は……?」
「隊長、作戦名は?」
「そうだな……。2人が地底世界から、地上へ脱出することを願って、黄泉の国……。ヨミノクニでいこう。
 AIDSエアフォース、オペレーションヨミノクニ、ミッション開始だ! 全員ガルラに搭乗! 出撃だ!!」
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

要曜子


高幡不動町にある六天磨央小学校に通う小学生。

小山、武隈、君島刑事


警視庁捜査一課の刑事さんたち。

要照子


要曜子ちゃんのお母さん。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。但し『十の思い出』の習得はまだ出来ていない。

白瀬沼藺(霊狐シラヌイ)


『紫陽花灯籠』などの妖狐の力と『雷霆』などの雷獣の力を使う妖狐界のプリンセス。鉄男や耀子の高校時代のクラスメートであり、(ひとり合点ではあったが)鉄男の婚約者でもあった。一説には、要鉄男が失踪したのは、彼女が鉄男に愛想を尽かし、実家に帰ってしまったのが原因だと言われている。

紺野正信(狐正信)


妖怪内の自警組織『ラクトバチルス』の元多摩支部長にして、剣技と『変化』の術を得意とする妖狐。耀子と鉄男を監視する為、菅原縫絵と2人、彼らの実家の隣に引っ越し住んでいた。因みに、本人も忘れているだろうが、彼の姿は及川雅史と云う青年の姿を模したものである。

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