止まっていた時計(6)

文字数 1,859文字

 アマゾンのベヘモットについても、ハワイ島と同様に、耀子がカプセルで待機し、純一少年がベヘモットに憑依する。但し、今回の耀子は沼藺(ぬい)に憑依した状態だ。

 それが完了した後の予定だが、彼らと航空迎撃隊メンバーの合流地点は、最後のベヘモットのいるアフリカ自然動物公園に程近い、AIDS東アフリカ支部、ナイロビ基地と云うことに既に決まっていた。
 具体的には、ナイロビ基地のジズ発射スペース脇、第三滑走路に純一少年たちが瞬間移動し、沼部機と連絡を取り、同機で3匹目のベヘモットの背中まで移動するのである。

 とは言っても、まずは、アマゾンのベヘモットからだ……。

 純一少年と耀子は、作戦通りベヘモットの背中に取り付けたカプセルに収まっている。そして、先ほどと同様に、蒲田隊長機の離陸の数分後、怪獣は頭を下げて地下に潜る行動を開始し、密林の中へと姿を没した。
 このアマゾンのベヘモットが密林の中に見えなくなると同時に、蒲田隊長機もアフリカへと進路を定める。タイムテーブルでは、ガルラのナイロビ到着と純一少年たちの帰還は、ほぼ同時刻になる計算であった。

 さて、南アメリカ大陸からアフリカ大陸まで、音速飛行で約8時間、特に予定も無く、蒲田隊長をはじめ、鵜の木隊員、美菜隊員、そして紺野正信の四人は、ガルラを自動操縦にし、暫しの休憩を取っている。
 勿論、休息と言えども、彼らは遊んでいる訳ではなかった。睡眠、栄養補給など、次の任務に向けての準備がある。
 そんな中、沼部隊員たちの乗ったガルラから緊急通信連絡が入って来た……。

「はい、こちらガルラ1号機。沼部隊員、そちらの状況はどうです? え? 何それ? 分かったわ、1号機も約5時間後、そちらに到着します。それまでに詳細を確認して置いてください」
 蒲田隊長が、通信に出た美菜隊員に、沼部隊員からの連絡内容を尋ねた。
「それが隊長……、向うのベヘモットが水中に沈んでしまったそうです」
「水中? 何を言っているんだ? ベヘモットは、アフリカのサバンナのど真ん中だぞ。それが、どうして水中に沈むんだ?」
「それが突然、そこに巨大な湖が出現したそうで、ベヘモットはそれに飲み込まれてしまったそうです」
「どう云う事なんだ?」
「分かりません……。沼部隊員からは、それ以上の説明はありませんでした」
「3体目は、これで自然に片付いたと云うことか? 危機は去ったのか……?」

 その会話を小耳に挟んだ正信が、片目を開けて蒲田隊長に意見を述べる。
「そうではないでしょう。恐らく、新たな脅威が現れたのだと思いますよ」
「新たな脅威? それは何なんです?」
「それは私にも分りかねます。でも、私たちの世界の予言者とも云うべきお方が、態々、沼藺(ぬい)様までこちらに寄越したのです。発生するのは、簡単な状況ではない筈です」
「簡単な状況ではない?」
「ええ……。でも、私と沼藺(ぬい)様を寄越したと云うことは、言い換えると、私たちとあの兄妹、そして、あなた方全員で、充分に解決可能な問題だと云うことです」

 丁度その時、ガルラの機体の床に黒い穴が現れ、そこから沼藺(ぬい)の姿をした耀子が戻ってきた。『狐の向け穴』を目の当たりにして三隊員は息を飲み込んでいたが、正信は流石に驚きもしない。
「耀子ちゃん、どうなっているんだ? 一体何が起こっているんだ?」
 正信の質問に、耀子が息を切らせながら急いで答える。
「『危険察知』だけでは、正確には分からない……。ただ、別の脅威が現れて、向こうのベヘモットは封印されたかどうかして、どうやら、駆逐されてしまったらしい……」
「どういう事? それに、どうしてアフリカのサバンナに湖が現れるの?」
 美菜隊員も耀子に確認を入れた。だが、その質問は質問で返される。
「奴が消えた場所に、湖が現れたですって……? その湖ってのは、塩水湖なのですか?」
「分からないわ……。全く向こうの状況が掴めていない……」
「もし、もしそれが塩水湖、つまり海だとしたら、思い当たることがあります……」
「何なの? それは?」
「それは後で話します。長時間こちらに来ていると、兄の現在位置をロストして、カプセルに戻れなくなります。取り敢えず、私は兄の処に戻ります……」
 足元の床に、帰りの『狐の抜け穴』を作り、そこに飛び込んもうとしている耀子に向かい、正信が大声で確認を入れた。
「充分な確信なんか無くていい。疑念を一言で言え。それで、こちらも準備が出来るかも知れん!」
「レビアタンだ!」
 耀子はそう言い残すと、床に出来た黒い穴の中へと沈んで行ったのである。
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登場人物紹介

新田純一(要鉄男)


時空を放浪している大悪魔。偶然、訪れたこの時空で、対侵略的異星人防衛システムの一員として、異星人や襲来してくる大悪魔から仲間を護り続けていく。

新田美菜(多摩川美菜)


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属するエリート女性隊員。養父である新田武蔵作戦参謀の命に依り、新田純一の監視役兼生け贄として、彼と生活を共にする。

蒲田禄郎


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊隊長。本人は優柔不断な性格で隊長失格と思っているが、その実、部下からの信頼は意外と厚い。

沼部大吾


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する古参隊員。原当麻支部屈指の腕力の持主。

鵜の木和志


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。非常識な言動で周りを驚かせることもあるが、銃の腕と熱い心には皆も一目置いている。

下丸子健二


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する隊員。原当麻基地でも屈指の理論派。

矢口ナナ


対侵略的異星人防衛システム、原当麻基地航空迎撃部隊に所属する入隊一年目の若手女性隊員。明るく誰とでも仲良くなれる性格。

新田武蔵


対侵略的異星人防衛システム作戦参謀、新田美菜の義父であり、要鉄男を息子の純一と偽って、原当麻基地航空迎撃部隊に配属させる。

要曜子


高幡不動町にある六天磨央小学校に通う小学生。

小山、武隈、君島刑事


警視庁捜査一課の刑事さんたち。

要照子


要曜子ちゃんのお母さん。

藤沢耀子


新田純一と同じ悪魔能力を持つ彼の妹。但し『十の思い出』の習得はまだ出来ていない。

白瀬沼藺(霊狐シラヌイ)


『紫陽花灯籠』などの妖狐の力と『雷霆』などの雷獣の力を使う妖狐界のプリンセス。鉄男や耀子の高校時代のクラスメートであり、(ひとり合点ではあったが)鉄男の婚約者でもあった。一説には、要鉄男が失踪したのは、彼女が鉄男に愛想を尽かし、実家に帰ってしまったのが原因だと言われている。

紺野正信(狐正信)


妖怪内の自警組織『ラクトバチルス』の元多摩支部長にして、剣技と『変化』の術を得意とする妖狐。耀子と鉄男を監視する為、菅原縫絵と2人、彼らの実家の隣に引っ越し住んでいた。因みに、本人も忘れているだろうが、彼の姿は及川雅史と云う青年の姿を模したものである。

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