要家の事件(2)
文字数 1,985文字
「もう一点、我々には分からないことがあるのです。君が部屋に残したメモ……、あ、失礼、君のお姉さんの許可を得て、君の部屋も調べさせて貰っているのです。君のメモには、高幡不動の文字から始まって、店の名前、小学校、そして曜子ちゃんの苗字と名前、住所が書かれていました……。そして学校の住所、これは昨日そこに行くためのものでしょう。で、君は少女の名前に当たりをつけている『曜子』、『耀子』、いずれもヨウコという名前です。そして苗字に至っては最初から要と云うかなり珍しい苗字で検索を行っています。我々は、君が彼女を知っていると思いました。しかし、それでは彼女のお友達の証言と一致しない。で、君が知っていたのは、もしかすると少女自身ではなく、少女の名前だけだったのではないのか……? そう我々は考えました。そして、もっと不思議なのが、君は曜子ちゃんのご両親、要夫妻のお名前も検索している。これはとても不思議なことなのです。君は最初から『要慎之介』『要照子』を検索していた。仮にもし君が、曜子ちゃんの生徒名簿を手に入れたと仮定して、そこに保護者の名前が載っていたのだとしても、普通、ご両親のお名前が両方載っていることはありません。では、何故、君はご両親のお名前を知っていたのでしょう……?
君はもしかすると、曜子ちゃんを知っていたのではなく、要夫妻の方を御存じだったのではありませんか? そして彼ら、あるいは、その片方からヨウコちゃんの名前を、聞いたことがあったのではありませんか?」
「僕が検索した内容まで分かっちゃうんですね。まぁ、その位でないと治安上問題がありますからね……。ネットというやつは……」
「君のその寛容な態度から、少し失礼な想像をさせて貰いますけど、怒らないでくれると嬉しいのですがね……」
「どうぞ」
「君は先程、自分は年上好みだと言っていましたよね……。君は、要照子さんと以前から知り合いだったのではないのですか……? それも、かなり親密な関係の……」
「随分と大胆なご想像ですね。僕が彼女と、そういう関係にあったって云うのですか?」
純一少年は、少し
「あくまで可能性ですよ、可能性。君は今回の様に、時々基地から抜け出しているようですし、そう云うことも、君なら可能かなと思いましてね……」
「確かに、可能性はあるかも知れませんね。ママ活とか云うのもあるそうですから……。
でも、そんなことと今度のことが、どう関係するのですか……? 女の子が行方不明になったって言うじゃないですか? そちらを急いで調べるべきではないですか?」
「そうですね。失礼しました……」
「それについて、率直に言って僕を疑ってらっしゃるのでしょう?」
「いや、別にあなたを疑うなんて……。少女を最後に目撃した大人があなただったので、情報を集めようとしているだけです……」
思い出したように武隈刑事が言葉を加えた。しかし、脇の刑事は平然と続ける。
「そうですよ、疑っています。だって君は、見ず知らずの少女を校門でずっと待っていた不審人物ですからね。それに、妙な事前調査を要家の家庭に行っている。
そして、これは推測の域を出ませんが、君は要照子さんを以前から知っていた……」
「最後の推測以外は間違っていないと思いますけどね……。
一応、容疑は否認して置きます。まず、僕は高幡不動まで電車で移動しています。彼女を仮に下校時誘拐するとしたら、車に乗せて誘拐するのが普通ですよね。僕は車を運転していません。そして、高幡不動から帰った時も電車です。その時の目撃者もいると思いますよ。僕は一人で帰宅しています。
それに……、誘拐したとして、僕は少女を何処に隠すのですか? 僕は基地に姉と二人暮らしをしているのですよ。姉に見つからずに少女を拉致できる筈ないじゃないですか」
「もし、共犯者がいれば可能ですよね。例えば母親の照子さん。普通考えて、友達と別れてから自宅までの短い距離、顔見知りが車に乗せると言っても普通は遠慮します。彼女なら自宅近くだとしても、自分の娘に車に乗るように指示すれば、少女も従うのではないでしょうか?」
脇に立っていた刑事が、大胆な推論を語った直後、別の刑事が取調室に入ってきて彼に耳打ちをして去って行った。
彼は、にこやかな表情で純一少年にその伝言を伝えた。
「おや、君のお姉さんが、君の身元引受人として迎えに来てくれたようです。もうそろそろ、お引き取り頂いて結構ですよ」
「小山さん!」
武隈、君島両刑事は、この小山刑事の判断には不服そうだ。しかし小山刑事は両手を広げて仕方ないといった表情を示し、こう言い訳をした。
「でも、任意同行ですからね。いつまでも好意に甘えてお時間を取らす訳にもいかないでしょう?」