ホシミカミの誘惑(後編)

文字数 994文字

 しーん、とした空気が一帯を支配する。きょとんとするヨダカとホシミカミをよそに、ミリフィエールは必死に、『夜の鳥かご』をヨダカに(かか)げて呪文を繰りかえす。
あら……?? 眠れ、眠れ……っ!!
……何をしているんだ、貴方は?
そうだよ、一体どうしたのミリフィ? いきなり『ヤミシドリ』封印の()なんて……
だって! ホシミカミ様にひどいことをおっしゃるなんて、悪の精霊の所業(しょぎょう)としか思えません!! ホシミカミ様、わたくしには感じとれないけれど、ヨダカ様には『ヤミシドリ』が()いているのですよね!?
 まともな状態でホシミカミに悪意を向ける存在がいるなどありえない、と信じて疑わない様子のミリフィエールに、ホシミカミは愛しさのあまり、震えだす。
か……っ、かわいいでしょ少年、ぼくの嫁♡♡

私の嫁だ!!

()って捨てるぞ!!

ひとしきり(もだ)えた後、ホシミカミはふたりから少し距離をとる。
……ま、今日はかわいいミリフィにいっぱい()れられたし。一旦退()こうかな
ホシミカミ様……っ!
逃げるのか、変態男神(へんたいおがみ)
変態ライフって、結構楽しいものだよ、少年♪そして……ね、ミリフィ、考えておいて。駆け落ちのこと♡
 そう言うと、ホシミカミはスッとふたりの前から姿を消した。
行って……しまわれました……
(駆け落ちが、ホシミカミ様にとっての『幸せ』……? でも、世のひとびと多くが望む『幸せ』は……?)
 うつむき、深く考えこんだ様子のミリフィエールに、ヨダカは辛抱(しんぼう)ならない、といった面持ちでミリフィエールに向きなおった。
……ミリフィエール!
はっ、はい!?
あの倒錯男神(とうさくおがみ)が姿を消したということは、貴方はこれからも『ヤミシドリ』とやらを封じつづけなければならないんだろう!?
えっ……ええ、そうなるかと……
……私も同行する!!
え……っ、えええぇ!?
危険なオオカミ男から、妻の(みさお)を守るのは、将来の夫の務め! べっ、別に、旅を通してかっこいい私をアッピールして、貴方をメロメロのキュンキュンにしてみせるなどとは考えていないんだからな!!
ええっと、あの……!?
さあ、ゆくぞミリフィエール! 一体どちらに進めばいい!?
 怒濤(どとう)の展開についてゆけず、とりあえず、これからの道中(どうちゅう)が心配で仕方のないミリフィエールなのであった。
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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