ホシミカミとミリフィエール

文字数 1,514文字

 その、左右異なる色の愛らしい瞳をうっすらと潤ませたミリフィエールは、手に、(よこしま)なる精霊を封じこめるための魔術具・『夜の鳥かご』をにぎりしめ、美しい面差しの青年を見あげた。かつて、敬愛し仕えていた神・ホシミカミだ。
なぜですか、ホシミカミ様……っ! なぜ、この世界をお守りくださっていたあなたが、ひとびとの心を狂わす『ヤミシドリ』を……!!?
ミリフィ……鬼ごっこのはじまりだ
全てのはじまりは、さかのぼること、ひと月前。
ミリフィエールはホシミカミの神殿で、上機嫌に籐製のバスケットを広げた。
ホシミカミ様、本日の供物……もといお食事は、わたくし特製の、お砂糖たっぷり紅茶スコーンです!
いつもありがとう、ミリフィ。……うん、今日も絶品!

あまたの星を司り、この世界の平安をお守りくださるホシミカミ様にお仕えするのが、我が『星仕え(ほしづかえ)』の一族・トワナ家の使命ですから。……ホシミカミ様って、意外と甘党さん、ですよね

星々を統べるには、膨大なエネルギーが要るんだよ。神様が甘いものすきだとおかしい?
そっ、そんなつもりは……! すごくおかわいらしいな、って……!
かわいいって……ぼく、一応男なんだけど
あああ、すみませんすみません!!

ねえ、ミリフィ。きみこそ、そのふわふわの赤毛も、きれいなオッドアイも……とってもかわいいよ?

ぐっと、ミリフィエールに迫るホシミカミ。
か、顔が近いです、ホシミカミ様……っ
神様が、『星仕え』に欲情しちゃだめ?
もう……っ、ダメに……っ、決まってます~っ!!
ミリフィエール、パニックになり、腰のベルトにさしていた銃を乱射する。
わっ!! ごめん、ごめんってば!
うう、ぅうう~(涙目)!!
悪かったよ、ミリフィ
しばらく真っ赤な顔でふるふると震えていたが、何とか落ち着きを取りもどし、銃をおさめるミリフィエール。
長い沈黙が続き、ミリフィエールはその気まずい雰囲気に、あわてて話題を変える。
そっ、それにしても、ホシミカミ様とお会いできるのは、今日で最後、なんですよね
……見合い、やっぱり受けるの?
わたくしも、こう見えてもう、22です。男のひとは苦手だけれど、一族のためにも婚姻を結び、子をなさねば、なりませんから……
相手は16の子どもなのに?
この国では15歳から結婚できます。お相手のヨダカ様はお家柄もよく……
……愛してるの?
……まだ、お会いしたばかりなので……。でも、愛さ、ないと……いけません、ので……
……ミリフィ。きみに何か、『自由になれる理由』ができればいいんだね?
意を決したように瞳を閉じたホシミカミの周りに、黒い光がうずまきはじめる。
星々の邪なる魂、我が声に応えよ。汝なんじ、漆黒しっこくの魔鳥まちょうに姿を変え、この世に災いをもたらせ。いでよ、『ヤミシドリ』!!
ホシミカミ様!? このまがまがしい気配は一体……何をなさったのです!?

ぼくを追っておいで、ミリフィ。この精霊・『ヤミシドリ』は、ひとびとの心に巣くい、次々と悪へ変貌させるだろう……ぼくは、それを生みだしつづける

どうして……! あなたは……わたくしの知るあなたは、お優しくて、朗らかなおかたで……!!
きみの家に伝わる『夜の鳥かご』に封じて、浄化するしか道はないよ。きみのためなら、ぼくは……
(闇に染まろうと構わない)
さあ、ミリフィ。鬼ごっこのはじまりだ
そう言うとホシミカミは、ふわりと姿を消してしまった。
ホシミカミ様……!!
そして、ミリフィエールの旅立ちのときは、訪れたのだった。
(わたくしは、ホシミカミ様を止めてみせる。……かけがえのないあのおかたのお心に、もう一度、触れてみせる……!)
お父様、お母様、行ってまいります!!
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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