大舌戦の果てに

文字数 1,699文字

 あれからどれくらい()っただろうか。

 コロッセオの裏通路(うらつうろ)という地味な場所で、ミリフィエールとサバキノカミの壮絶(そうぜつ)な『舌戦(ぜっせん)』は(とど)まることなく続いていた。

〜〜ッ。だ〜か〜ら! 可愛(かわい)くない女子ね!

何度言ってもダメなものはダメ!! いい加減(かげん)引きなさいよね!

ホシミカミ様以外のかたに『可愛くない』と言われましても全く、なんっにも、ひとかけらも感じるものはございません! それに先ほどサバキノカミ様はちらりと、この処刑に思うところはあるとおっしゃいました!! そのようなふんわりしたお心持(こころも)ちで、ホシミカミ様という全世界垂涎(ぜんせかいすいぜん)の宝を亡きものにしようと!? ああ、あな恐ろしや! です!!

いやさすがに言いすぎよ!? あんな変態に涎垂(よだれた)らしているなんて、アンタだけでしょ!!

まあまあ!! もし(かり)にそうだとするならば、それはひとえに、ホシミカミ様の素晴らしい面を広めきれていないわたくしめの落ち度にございましょう! ホシミカミ様はそこまで変態さんでもありませんし!! 多分! 恐らく! きっと!!
変態疑惑(ぎわく)に対する自信のなさがすごすぎない?!
わたくし、(うそ)(この)みませんので!! しかし不肖(ふしょう)わたくし、調教(ちょうきょう)を得意としております! 万が一今後、ホシミカミ様の変質者的行動(へんしつしゃてきこうどう)察知(さっち)した(あかつき)には、心をこめて教育的指導も(いと)わない所存(しょぞん)です! どうです、()(はな)っても安心、一世(ひとよ)一柱(ひとはしら)、ホシミカミ様!!
なんのセールス!? ――って、(まった)くもお……!

 ミリフィエールに(するど)くツッコみかけたサバキノカミは、そこまで続けて、不意(ふい)破顔(はがん)した。

……あはは! ホシミカミったら、本当にアンタには『全て』を見せていたのね。加えてアンタが、あの面倒(めんどう)男神(オトコ)をまるっと受け()()みなのには正直(おどろ)いたわ
え……?

アタシ、なんだかわかんなくなっちゃったわよ。

アンタたちは馬鹿(ばか)みたいに、ただまっすぐ(おも)いあっているだけなのにね

サバキノカミ様……?
 笑った(さい)(にじ)んだ目尻(めじり)の涙を(ぬぐ)い、サバキノカミはミリフィエールへ、真剣(しんけん)眼差(まなざ)しを()けた。

……もうこの(けん)は、アタシの手を大きく(はな)れているわ。アンタがそこまで(いど)むのなら、連れていってあげようじゃない。

現時点(げんじてん)でホシミカミの()(すえ)(にぎ)っておられる世界最高神(せかいさいこうしん)――ヨウノカミ様の御許(みもと)

!!

 ()(あせ)が、ミリフィエールの背を(つた)う。

 (もと)よりミリフィエールは、ホシミカミ()側仕(そばづか)え。(ゆえ)信仰(しんこう)は人一倍(あつ)い。

 うまく(かく)しているが、そもそも今この瞬間(しゅんかん)も、彼女は(おそ)れおおさで(たお)れそうだった。なにせ、世界で二番目に(とうと)い神と対峙(たいじ)しているのだから。

(サバキノカミ様のみならず、わたくしが、ヨウノカミ様に……?)

 あまりの事態(じたい)に、からだが(かす)かに(ふる)えだす。

 しかし、これはサバキノカミが(あた)えてくれた、(おそ)らく最初で最後の好機(チャンス)――。


 彼女はぎゅ、と身にまとうドレスの胸元(むなもと)(つか)み、(ひとみ)に強い意志(いし)宿(やど)してをサバキノカミに(かえ)した。

ありがたきお(なさ)け、(つつし)んでお受けいたします。……(さく)はまだ、この手の(うち)にあるのです
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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