甘味処・ねこしぐれにて

文字数 1,803文字

  ふたりが入ったのは、『甘味処(かんみどころ)・ねこしぐれ』。


  野太(のぶと)眉毛(まゆげ)に見える模様(もよう)のある、ふくよかでダンディーな看板ねこ(※彼女持(かのじょも)ち)が出迎(でむか)えてくれ、ミリフィエールは興味津々(きょうみしんしん)でスケッチをとった(その仕上がりはなんというかなんとやらで、やっぱりヨダカは困惑(こんわく)した。)のちに、赤い唐傘(からかさ)が日除けとなった木の台へ腰を()ろす。


  注文をして少しすると、はんなりとした様子の女将(おかみ)さんが運んできたのは、湯呑(ゆの)みと呼ばれるカップに入ったほうじ茶と、二串(ふたくし)ずつのみたらし団子だ。


  上品に口へと運び、味わうと、ミリフィエールとヨダカは目を(みは)った。

わあ、なんてやわらかで優しい甘味(かんみ)……! こちら、確か『お醤油(しょうゆ)』という塩辛(しおから)い調味料が使われているのですよね?!
想像以上に、甘いものなのだな。レシピには砂糖もあるらしいとはいえ、相当な量を足さねば釣り合いが……
 検証モードへ入ったヨダカを横目に、ついと、ミリフィエールは口をつけていないもう一串(ひとくし)の団子を、片手を()えつつ空へ(かか)げる。
るーるーるー……
……? 何をしている、ミリフィエール?
あっ、申しわけありませんヨダカ様。こちらでホシミカミ様が()れてくださらないかなぁ、と
仮にも神をそんな手口(てぐち)で!?
この素敵なお(あじ)糖度(とうど)ならきっと、あのかたもご満足くださるはずです! 美味(おい)しいですっ、美味(おい)しいですよ~、ホシミカミ様……!
あのフリーダム男神(おがみ)が近くにいる保証(ほしょう)などないだろう

そうでしょうか? わたくしのお風呂付近に()りついているとおっしゃっていたので、今ももしかしたら……


最近はタオルを巻いて自衛(じえい)していますが……

……は?
はっ!
 ミリフィエールは慌てて、団子を持っていないほうの手で口を(おお)ったが、時すでに遅く、ヨダカは剣の(つか)に手をかけ、(するど)い目で対象(ターゲット)捕捉(ロックオン)しはじめてしまった。
出てこい淫靡(いんび)化身(けしん)……ッ、()(きざ)む!!!
あっ、ただ単にわたくしをからかっただけ! かな!!? って思います! いたずらっ子なので! 本当に! ほっ、ほらヨダカ様、お店の前ですし、せっかくのお茶が冷めてしまいます!
くっ。命拾(いのちびろ)いしたな、あの変質者……
 ヨダカが腰を下ろしかけた刹那(せつな)。ミリフィエールは、覚えのある『例の気配(けはい)』に、視線を(めぐ)らせる。
……! ヨダカ様!
! 『ヤミシドリ』か!
はい、少し離れたところに……っ、女将(おかみ)さん、お残ししてしまって申しわけありません、ご馳走様(ちそうさま)でした!!
(さわ)ぎたてたのもすまない、大変美味(びみ)だった!!

 非礼(ひれい)()びたのち、ふたりはしなやかに()ける(ちなみに女将(おかみ)は、“気にせんといて~、青い春のおふたりさ~ん♡”とにこやかに送りだしてくれ、二者間(にしゃかん)で『春って青いものだったか?』、『さあ……??』という()()りが(おこ)なわれた)。


 そして。

! この(かど)を曲がった先に……っ
 ずざっ、と(すさ)まじい(いきお)いで(かま)えをとったミリフィエールとヨダカは。
アキヒメ先生、どうか、どうか思いとどまってください!!
ハァーッハッハッハッ、放したまえよキリエくん! 私は新作をよりリア~ルにするために!! 馬車に()ね飛ばされなければならないのだからねぇええ!!
新作の前に鬼籍入(きせきい)りしちゃいますから!!
フゥ~ム、それもまた一興(いっきょう)! それにどちらかと言うと(かえ)ってこられそうな気がする! (かえ)ってみせるさ☆お土産話(みやげばなし)を楽しみにしていてくれたまえー!!
……え、ええと。なんだこの、コミカルな修羅場(しゅらば)は……??
あ、あの。にわかには信じがたいのですが、あちらのとっても楽しそうな女性に、()いています……『ヤミシドリ』……
 目を(てん)にしながらも、サクッと封印(ふういん)した。
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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