ホシミカミの誘惑(前編)

文字数 1,884文字

 ミリフィエールは、夢を見るような心地でその場に立ちつくしていた。あんなに会いたくて仕方のなかったホシミカミが今、目の前にいる。
ホシミカミ、様……。ホシミカミ様、ホシミカミ様……っ!! お会いしたかった……! 今まで、どちらにいらしたのですか!?
ずっとミリフィの(そば)にいたよ。気配を消してね
(そば)に……!? ……っ、どうして、わたくしから隠れる必要があったのです……!?
えっ? 気配丸出しだったら、着替えとかお風呂とか、ミリフィはぼくに堂々とのぞかせてくれた?

ホ……ホシミカミ様のえっち!?!

ずっと見られていたのですか!?

やっぱり、外の世界が初めてのミリフィが心配だったからさ、いつでも(まも)れるように。まあ、不可抗力(ふかこうりょく)不可抗力(ふかこうりょく)
……っ、そのことは後で調教……いえお説教するとして!

ミリフィってちょいちょいサディスティックだよね♡

ゾクゾクが止まらないなぁ♪

ちゃかしている場合ではありません! おわかりですよね、ホシミカミ様! このまま『ヤミシドリ』を生みだしつづければ、あなたは神の罪を精査(せいさ)するサバキノカミ様に捕らえられ、最高神であらせられるヨウノカミ様に……!
わかってる。それでも、いいと思ったんだ。……ねえ、少しでもぼくを思ってくれるんなら。このまま一緒に逃げちゃおうよ、ミリフィ? ぼくたち以外誰もいない、何のしがらみもないところへ
 ホシミカミは甘美(かんび)な声でそう語りかけると、不意にミリフィエールを抱きよせた。
ホシミ……っ!? お、お放しくださ……
 力強く腰を抱く手にあらがえず、ミリフィエールはパニック寸前だ。
もう、だめ、無理です……っ。ホシミカミ様、撃ちますよ……っ!?
 ミリフィエールは、慌てて銃に手をかけ威嚇(いかく)しようとするが、ホシミカミは一向(いっこう)にミリフィエールを放そうとしない。
……いいよ、撃っても。どうせ神は、物理的な衝撃では死ねないし
 それどころか、ホシミカミは更にからだを密着させ、ミリフィエールの耳元で、吐息まじりにささやく。
きみに負わされる傷なら、それもまた快感かもね……?
……っ……!!
 今までにないほど凄艶(せいえん)で官能的なその様子に、しびれたように動けなくなってしまうミリフィエール。
 そのとき森に、まだ幼さの残る少年の声が響いた。
その手を放せ、ホシミカミ!!
彼女は私の妻になるひとだぞ……!
 柔らかそうなブロンドを()らし、美しい青の瞳でふたりを見据えるその少年は、幼い顔立ちに似合わぬ険しい表情をにじませ、細身(ほそみ)の剣を(かま)える。
 そう、ミリフィエールには、その少年とただならぬ因縁(いんねん)があった。
ヨ……っ、ヨダカ様!!?
 ヨダカ・ウィルクランツ。武術に秀でた家系の大富豪であるウィルクランツ家の嫡男(ちゃくなん)で、ミリフィエールの婚約者だ。
……ふぅん、きみがミリフィのフィアンセ、ね……。ぼくのことも知ってるんだ?
そ、それは……。貴方は、我が許嫁(いいなずけ)(あるじ)だった男だからな! け、決して、以前からミリフィエールと仲睦(なかむつ)まじくしているのを、指をくわえて見ていたわけでは……!! ……って、いつまでミリフィエールのからだをなでまわしているつもりだ!? この淫猥男神(いんわいおがみ)!!
ふふっ、このくらいのスキンシップ、まだまだ序の口だし。例えば……そうだね、少年は眠っているミリフィの首すじに舌を()わせたことってある?

もう本当に、ホシミカミ様のえっち!!?!

わたくしが休んでいる間に、そのような変態行為を!?

……っ!! そんなのもっと過激なことをして帳消しにすればいいし!! ミリフィエール、ちょっとそこの物陰(ものかげ)まで付き合ってもらおうか!!

ゆ、ゆきませんよ!!?

何をのたまいだすのですか、ヨダカ様まで!?

 自分には到底(とうてい)敵わないオトナな余裕を見せるホシミカミに、ヨダカは真っ赤な顔で声を(あら)らげる。
しっ、知っているぞ! 『ヤミシドリ』とやらを解きはなち、世を混乱に(おとしい)れているその罪は、存在そのものを滅せられてしかるべきの重さだと……!!
……
ヨダカ様……っ!
貴方など、世界の秩序(ちつじょ)を司るヨウノカミ様に、抹消(まっしょう)されてしまえばいい――……!!
 ヨダカがホシミカミに(ののし)りの言葉を浴びせた瞬間、ミリフィエールは『夜の鳥かご』を、ヨダカに突きつけていた。
絶望に染まりし星の(ともがら)よ、夜の(とばり)に抱かれて眠れ!!
!?
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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