ホシミカミの誘惑(前編)
文字数 1,884文字
ミリフィエールは、夢を見るような心地でその場に立ちつくしていた。あんなに会いたくて仕方のなかったホシミカミが今、目の前にいる。
ちゃかしている場合ではありません! おわかりですよね、ホシミカミ様! このまま『ヤミシドリ』を生みだしつづければ、あなたは神の罪を精査 するサバキノカミ様に捕らえられ、最高神であらせられるヨウノカミ様に……!
ホシミカミは甘美 な声でそう語りかけると、不意にミリフィエールを抱きよせた。
力強く腰を抱く手にあらがえず、ミリフィエールはパニック寸前だ。
ミリフィエールは、慌てて銃に手をかけ威嚇 しようとするが、ホシミカミは一向 にミリフィエールを放そうとしない。
それどころか、ホシミカミは更にからだを密着させ、ミリフィエールの耳元で、吐息まじりにささやく。
今までにないほど凄艶 で官能的なその様子に、しびれたように動けなくなってしまうミリフィエール。
そのとき森に、まだ幼さの残る少年の声が響いた。
柔らかそうなブロンドを揺 らし、美しい青の瞳でふたりを見据えるその少年は、幼い顔立ちに似合わぬ険しい表情をにじませ、細身 の剣を構 える。
そう、ミリフィエールには、その少年とただならぬ因縁 があった。
ヨダカ・ウィルクランツ。武術に秀でた家系の大富豪であるウィルクランツ家の嫡男 で、ミリフィエールの婚約者だ。
そ、それは……。貴方は、我が許嫁 の主 だった男だからな! け、決して、以前からミリフィエールと仲睦 まじくしているのを、指をくわえて見ていたわけでは……!! ……って、いつまでミリフィエールのからだをなでまわしているつもりだ!? この淫猥男神 !!
自分には到底 敵わないオトナな余裕を見せるホシミカミに、ヨダカは真っ赤な顔で声を荒 らげる。
ヨダカがホシミカミに罵 りの言葉を浴びせた瞬間、ミリフィエールは『夜の鳥かご』を、ヨダカに突きつけていた。
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