お祭り通りにて

文字数 1,765文字

 少々不満げなリタの案内で、ミリフィエールが訪れたのはヴィオナの中心地。めまいがするほど鮮やかな装飾を宿した露店の数々と、活気あふれるひとびとの喧騒(けんそう)に、ミリフィエールは感嘆の声をあげた。
わぁ、華やかな屋台がいっぱい! 今日はお祭りなのですか?
いいえ、毎日こんな感じよ。ヴィオナは芸術の都。国民は皆、派手な騒ぎがだいすきなの
 ミリフィエールはきょろきょろと興味深そうに辺りを見わたすと、ひとつの露店に心を奪われた。
リタ様、射的があります!
 ミリフィエールが指さした先には、愛らしくふわふわなぬいぐるみや、きらきらと輝くアクセサリーが“連れてかえって!”と言わんばかりに並べてある露店があった。店の前には、景品とは不釣り合いの、無骨(ぶこつ)なコルク銃がおいてある。
ウチの射的は、本物のアクセサリーやブランドもののぬいぐるみが景品だよ~! それでいて、3回たったの500フィン! お嬢ちゃん、やるかい?
ちょっとミリフィエール、やめておきなさいよ。ここ、地元でも“全っ然()れない”って有名な店よ?
ふふ、リタ様。ご心配には及びません♪屋台のおじ様、ぜひぜひ、挑戦させてください!
毎度ー
 にっこりと楽しげな笑みを見せ、銃を構えるミリフィエール。
 コルク銃はパン、パンパン! と軽やかな音を発し、その音と共に、ぬいぐるみやアクセサリーたちは次々と倒れていった。
そ、そんなバカな……!!?
 愕然(がくぜん)とし、息を()んだ屋台のおじさんとは裏腹に、ミリフィエールは子どものように、きゃっきゃっ、とはしゃぐ。
うふふ! この景品、重心に(むご)いまでの細工がしてあるのですね、おじ様! すっごく狙いがいがあります~!
うっぎゃああ、お嬢ちゃんバラサナイデ!!?
 屋台のおじさんは、次々ともぎとられてゆく景品と、店を開いて以来ごまかしつづけてきた不正の無邪気すぎる暴露(ばくろ)に、すっかり顔面蒼白(がんめんそうはく)だ。
リタ様、何か欲しいものはありますか?
【ゾォ……ッ】ウワッ……最早(もはや)、的も見ずに()っているし……。えっと、じゃあ、あの青い石のブレスレット……
かしこまりました~
パァン! 銃声と重なるように、おじさんの悲鳴が一帯に響きわたった。
もう許して~!!
***
 日が傾き、ひとびとがそれぞれの帰途(きと)につく。
 青い石のアクセサリーを夕陽にかざしながら、リタはミリフィエールに問いかけた。
結局全部、()ちおとしちゃったわね……。何だかんだ、アタシの分以外全て返しちゃったけれど。自分の分はいいの?
屋台のおじ様が、ご生活できなくなってしまわれそうでしたから。不正はよくないことなので、ちょっと()らしめさせていただいてしまいましたけれど
……ふっ。あはは! “ちょっと”って! 店主、真っ青だったわよ!!
よかった、リタ様、やっとお笑いになった!!
え?
リタ様、わたくしと出会ってから、ずっと固いご表情をなさっていたのです。だいすきであるはずのお歌を歌われているときでさえ……
……うそ。全然、意識していなかった……
リタ様、まずは、ご自分の夢……歌うことを、楽しんでみませんか? 自身の前向きな気持ちは、きっと見ているかたの喜びを連れてきてくれるって……わたくしは、思います
(そうだ……アタシも、ステラさんが幸せそうに歌う姿に()かれて、歌を始めたんだった……)
 きゅっ、と唇をかみしめるリタの顔を、ミリフィエールは心配そうにのぞきこんだ。
リタ様……?
……アナタに、言いたいことがあるわ
ごっ、ごめんなさい、差しでたことを申しまして……
そうじゃなくて! さっきからアナタ、アタシのこと“リタ様”、“リタ様”ってよそよそしすぎるのよ!! ……アタシはミリフィエール……ミリフィと、もっと仲よく、なりたいのに
……!!
……“リタ”でいいわ
……っ、はい、リタ!
 リタが真っ赤になりながら差しだした手を、ミリフィエールはその両の手で、宝物のように包みこんだ。
ちょっと! その(つか)みかたじゃ同時に進めないでしょうが!! 片手でいいの!!
うぅ~、リタ、厳しいです……
 夕暮れの街を、ふたりで進む。
 春先でまだまだ肌寒かったが、リタは、ミリフィエールとつないだ手と胸のあたりに、確かな(ぬく)みを感じていた。
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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