天才の仮面

文字数 1,493文字

 ミリフィエールたちは(えり)を正し、女性たちへの恋愛事情(れんあいじじょう)にまつわるインタビューを(はじ)めることにする。

 数十分(すうじっぷん)もすると、“女の子の恋バナを()いてくれるふたりがいる”と話題になり、草食(そうしょく)肉食(にくしょく)年齢問(ねんれいと)わず、恋する乙女(おとめ)(ひと)だかりができた。

 女性たちのときに過激(かげき)体験談(武勇伝)にミリフィエールは真っ赤になりながらも、なんとかその()希望者(きぼうしゃ)全員聴(ぜんいんき)きおえる。

 (とも)(れい)()べ、移動(いどう)開始(かいし)したアキヒメへ、のぼせたようにふらふらしつつ声をかけた。

ほ、本当に恋の(かたち)多種多様(たしゅたよう)なのですね……
うむうむ、げに面白(おもしろ)きかな!! ……しかし、もう少しお話を(うかが)いたいのも事実(じじつ)! もうしばし付き合ってもらえるかい、みりりん!?
……

?? なんだい、ワタシの顔になにかついているかね?


……それとも……やはりワタシはキミたちに、迷惑(めいわく)をかけすぎている、だろうか……?

 それはずっと楽しそうで自信にあふれて見えたアキヒメが、ミリフィエールに初めて見せる『(かげ)り』を()びた表情(ひょうじょう)だった。
い、いえ、申しわけありません。そうではないのです。執筆前(しっぴつまえ)って、とても綿密(めんみつ)取材(しゅざい)をなさるものなのですね。わたくしはこれまで、作家さんって想像(そうぞう)したことをベースに物語を(つく)られるのかしらと、勝手(かって)空想(くうそう)をしていたもので……
 (あわ)ててアキヒメの不安を打ち消すと、アキヒメはふはっ、とこれまでより格段(かくだん)(ちから)なく笑った。
もちろん、そういう天才もいる。でもワタシは凡才(ぼんさい)なのだよ。……凡才(ぼんさい)なのだ、と年々(ねんねん)思い知る――
 アキヒメは、(こま)ったように(つづ)けた。
最初(さいしょ)はね、楽しかったんだ。書くことがただひたすらに。でも、様々(さまざま)なものがしがらみになりえる、というのかな。最初(さいしょ)はうれしかった読者(どくしゃ)さんの期待(きたい)が、気がつくと(くさり)みたいにワタシを(しば)る。評判(ひょうばん)がいいとホッとするんだ――ああ、今回(こんかい)もなんとか『間違(まちが)えなかった』、と
――!
気づくとワタシは、本当の気持(きも)ちを(かく)すため、道化(どうけ)(えん)じるようになっていた。(いま)ではもう――上手(じょうず)仮面(かめん)()ぎとることすらできないんだ
 そう(つぶや)き、微笑(ほほえ)んだアキヒメの顔は、ひどく大人(おとな)びていて。

そんな(よわ)いワタシを必死(ひっし)(ささ)えてくれていたのがキリエくんさ。(かれ)はワタシの『恩人(おんじん)』からいつしか……『(おも)いびと』になった。


好意(こうい)()げたところでこんな()わり(もの)小娘(こむすめ)、きっと相手(あいて)にしてはもらえないだろうが……

そんな! 〜〜そのようなこと……

 言えるわけがない。キリエの(おも)いも、彼女(かのじょ)にあるなどとは――。

 アキヒメは、言い(よど)むミリフィエールへ(さび)しげな()みを見せると、(つぎ)瞬間(しゅんかん)にはいつもの(・・・・)彼女に(もど)っていた。

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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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