サバキノカミとミリフィエール

文字数 1,979文字

 強い神の気配(けはい)を追いながら、ミリフィエールはひた走る。それは、『半神(はんしん)』を自覚(じかく)してから(おこ)なえるようになった『(わざ)』であった。
(こちらの方角(ほうがく)……なんだかすごくざわざわ、します……!)
 ミリフィエールは、自身(じしん)に流れる神の血を、(あらた)めて思う。
(わたくしのお母様は、確かに『ひと』で。それではわたくしの本当の『お父様』は……一体どなただというのでしょう……?)

 そこまで考えて一度、彼女は立ちどまった。

 ――(いな)、立ちどまらざるをえなかった。どこまでも圧倒的(あっとうてき)気配(けはい)が、彼女へ向かい進みくるからだ。


 ミリフィエールが初めて対峙(たいじ)するとの認識(にんしき)を持つその神は、やがて彼女の眼前(がんぜん)に姿を見せる。


 顔の半分をヴェールで(おお)った、それでもその美しさは一切損(いっさいそこ)なうことを知らぬ神。

 サバキノカミを(いろど)()えるような(あか)(かみ)と、空を思わせる色味(いろみ)の瞳は、ミリフィエールの持つそれとなぜか酷似(こくじ)していた。


 見知らぬ神の、はずなのに。

 ミリフィエールは(あらわ)しようのない畏怖(いふ)と、不可思議(ふかしぎ)(なつ)かしさに(おそ)われる。


 一方(いっぽう)神は、ひどく不満(ふまん)げにミリフィエールを()めつけたのだった。

ちょっと小娘、()が高いわよ!
!!

 サバキノカミの怒気(どき)は、周囲の空気をも(ふる)わせ、ミリフィエールは息を()む。

 しかし、彼女は(くっ)しなかった。

 だって、この存在は。ミリフィエールから愛する存在(ホシミカミ)(うば)うかもしれないのだから。


 恐怖(きょうふ)からあふれそうになる涙をこらえ、ミリフィエールはサバキノカミを、強い眼差(まなざ)しで見つめた。


 すると神は片眉(かたまゆ)を上げ、少しだけ感心(かんしん)したような声を出す。

あら、アタシの『神圧(しんあつ)』を()びて(ひざ)をつかないのね。中々肝(なかなかきも)()わってること

 どうやら出会いざまに試されていたらしい。


 相手は(おそ)らく、これまで妨害(ぼうがい)に現れた神々とは比べものにならないほどの身分(みぶん)だ。

 ミリフィエールはそこまで思考(しこう)(めぐ)らせてから、目の前の神に心当(こころあ)たりをつけた。

あなた様はもしや……サバキノカミ、様であらせられましょうか……?
……なぜ、そう思うの?
気配(けはい)から、おそらくホシミカミ様と近いご神位(しんい)をお持ちで、かつ、(おそ)れながらこちらに出向(でむ)かれるのであれば、世界第一位――ヨウノカミ様ということは考えにくい……という愚考(ぐこう)からにございます

 ミリフィエールは(あらた)めて、丁寧(ていねい)(れい)をとった。

 対するサバキノカミは、つまらなそうに腕を()む。

そーいう堅苦(かたくる)しいの、今は()らないわ。正直アタシはアンタに会ったことあるの。アンタは気絶(きぜつ)してたけど
 ミリフィエールは、それがホシミカミとの別れの場であったことを苦くも(さと)る。ミリフィエールがその(せつ)は、と言いかけると、サバキノカミはひらひら、と手を()って(せい)した。
だから、丁寧なのはいいっての。アンタはいわば、ここを襲撃(しゅうげき)しにきた実行犯(じっこうはん)なのよ? もっと(おど)文句(もんく)やらなにやらあるでしょーが!
……わたくしこそが今回の(けん)における発端(ほったん)であり、一番の咎人(とがびと)にございます。わたくしが、ホシミカミ様の道を(ゆが)めた元凶(げんきょう)(さば)くのならばホシミカミ様ではなく、わたくしであるべきと(うった)えにあがったのです
そんなのは瑣末(さまつ)なことね。いい? 小娘(こむすめ)。どんな誘因(ゆういん)があろうと、神の力を行使(こうし)した時点(じてん)で、それは神自身の(つみ)なのよ。力を持つものが全てを()うし、()わなければならない。おわかり?

 ――ここで引くわけにはゆかない。

 ミリフィエールは表情を引きしめ、真っ直ぐにサバキノカミを見据(みす)えた。

わたくしは絶対に(あきら)めません。

たとえ、(むか)えうつのがこの世でどんなに(とうと)い神様であっても。

――必ず最後に、(いと)しいあのかたを勝ちとってご(らん)にいれます……!

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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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