花のあふれるこの街で
文字数 1,762文字
ミリフィエールがマルケータたちの姿 を求め、辺 りを見回していると、ヨダカがひょこっと迎 えにきた。
ミリフィエール、マルならこちらだ。ポストの横で丸くなっている
マルさん……
ミリフィエールがマルケータを心配し、隣 にしゃがみこむと、マルケータはポストをちらりと見遣 りながら、ぽつりぽつりと言葉を紡 いだ。
……ミリフィさん、おら、心のどこかで密 かに怯 えてたんだぁ。ポストレディの仕事は確 かに、皆にメーワクをかけてばっかだし。ばっちゃんは、本当はこんなダメなおらに、がっかりしてたんじゃないかって……
そのようなことはありません！！
地図を作っている間も、マルさんはそのお人柄 で、たくさんの出会ったかたがたを笑顔にしていました。それは、お仕事を効率的 にこなすこと以上に、価値 のあることです！
おばあ様は、そのようなマルさんを、本当に誇 らしく思っていたはずです……！！
ミリフィさん……
ミリフィエールはマルケータの手を取り、語気 を強めた。
マルさん……わたくしはあなたが、周 りのひとびとに愛される星の下 に生まれてきたかただと、確信 しています……！！
！！
マルケータの中に、かつて祖母 がくれた言葉が甦 る。
――マルケータは、皆から愛される星の下 に生まれてきただよ。ばっちゃんは、そう信じとるからね
ばっちゃんも……口癖 みたいにそう言ってただ……。……ねえ、ミリフィさん、ヨダカさん。おら本当に、ポストレディの仕事、諦 めなくてもいいだか……？
マルケータが少し震 える声で尋 ねると、ミリフィエールとヨダカは、マルケータを励 ますように優しく笑いかけた。
マルさん、もう一度……もう一度、地図を作りなおしましょう！
……！ ……そうだな！ 一回目より、もっとかっこいい地図、作るだ……！
あっ、それじゃあ、二回目はわたくしのイラストもふんだんに盛 りこんで……
それはナシで
それはナシで
***
数日後、樹々 の木漏 れ日 が眩 しい町の外れで、マルケータは歓喜 の声をあげた。
うん、一回目よりグレードアップした地図が完成しただ～！
おふたりのお陰 だぁ。この地図と一緒 に、おら、ポストレディの仕事がんばるだ！
夢に出るから止 めよう、ミリフィエール
？？？
あ、あはは……気持 ちだけいただいておくだぁ。……もう、この町を出ていくだか？
あっ、はい。少々 、『郵便配達界の疾風小僧（ポスト・ゲール・ボーイ）』さんを暗 がりに引きずりこんで迫害 ……いえ、おしおきしてから次の街 へ向かいます
ミリフィエール、それならば我 がウィルクランツ家 に伝わるいい拷問方法 ……いや、おしおき方法があるぞ……！！
おふたりとも、目つきが何だか、
うふふ。……それでは！ またお会いしましょう、マルさん！
また～！ せ、先輩 には、お手柔 らかにしてやってけろな～！！
マルケータは、去 ってゆくふたりの姿 が、見えなくなるまで手を振 りつづけた。
（行っちゃった。……ミリフィさん、ヨダカさん、本当にありがとう。ばっちゃんが、おふたりと出会わせてくれたのかな）
（見ててね、ばっちゃん。おら、立派 なポストレディになってみせるだ！）
さーて、配達開始 だぁ！！
花の香りあふれるこの街 で、マルケータは生きてゆく。不意 に、少し懐 かしい気持 ちになるような優しい風が、マルケータの髪 を揺 らした。
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