では、地図作りを開始します! 紙はわたくしの、予備のスケッチブックを使用しましょう
ミリフィエール、絵を描く趣味があったのか? 初耳だな
ミリフィさん、お上手そうだ~! ぜひぜひ、見せてけろ~!
えっ? ……うふふ、じゃあ、とびっきりの自信作を!
ミリフィエールはいそいそと、スケッチブックのページを繰った。
えと……ミリフィさん……? このねこ、何で血を吐いてるだ……?
血……? ああ、ほんのちょっとだけ、彩色の際に、ねこさんのお口の中の色がはみでてしまって……
ほんのちょっと!?
普通に塗ってて、色ってこんなダイナミックにはみだせるモンなんだか!!?
ミリフィエールの絵について……ホシミカミは以前、何か言っていたか……?
(あの男神、体よく逃げたな!!)
……とても前衛的で……いいと、思う……
ヨ ダ カ は お 世 辞 を 覚 え た !
うふふ、ありがとうございます! あっ、そうです、これから作る地図にも、わたくしのねこさんをいっぱい描きこんでラブリーに……
あーっ、あーっ、ミリフィさん、この家! この家はどうやったら覚えやすく、地図にできるだかね~!!?
そうっ、そうだな、まずは最低限の景色の特徴だけ書きこんでゆかないか!!?
そうして、三人のノスタジア巡りが始まったのだった。
ザーレスカーさんの家の屋根は、わすれな草色……っと
こちらの菜の花畑を右に曲がると、コゼルさんという家に着くぞ!
左に曲がると、ランドヴァー様とおっしゃるかたのお宅です! 特徴は、植木がうさぎさんの形に刈ってあります!
明日から早速、この地図を使ってまいりましょう!! ……でもマルさん、地形を覚えるのは少し不得手みたいですけれど、この町のひとびとのお名前とお人柄は、完璧に把握されているのですね!
えへへ、町のひととお話するのはだいすきなんだぁ。そうしている内に、自然と覚えただ~
そのとき、とげとげしい声が辺りに響いた。
突如姿を現した男の悪意がむきだしの眼差しに、ミリフィエールは少し怯む。
ミリフィさん、ヨダカさん。こちらがさっき話した、『郵便配達界の疾風小僧(ポスト・ゲール・ボーイ)』のリューズ先輩だぁ
この男性がか? 小僧と言うには薹が立っているように見えるが
ヨダカ様、おそらく、このかたのご身長が、標準サイズよりかなり控えめだからではないかと……
素直にチビと言ってしまえよ!!
何なんだよ、この失礼な美形どもは!!
リューズは息荒くつっこむと、体裁を整えるためか、ゴホンとひとつ咳払いし、マルケータを睨みつけた。
リューズ先輩にもらった地図も、とっても素敵だったけど、よりわかりやすい地図を皆で作ってみたんだぁ! これでもう、迷わず配達できるだよ!
マルケータは誇らしげに、完成したスケッチブックを、リューズに差しだす。
リューズはスケッチブックを乱暴に受けとったかと思うと、間、髪を容れず、画用紙をビリビリと破りだした。
こんなダサい田舎町の簡単な道のりも覚えられないなんて、お前、ポストレディに向いてないんだよ
で、でも、ばっちゃんはいつも褒めてくれて……
ふん。『ばっちゃん』とやらも、お前があまりに無能で、内心がっかりしてたんじゃねえの? 目障りなんだよ、さっさと諦めて、この田舎町より、もっともっとダサい故郷へ帰れば?
マルケータは、散り散りになったスケッチブックの紙片を集めてぎゅっと握りしめると、自棄になったかのように走りだした。
くっ、足が異常に早い……! ここは私に任せろ、ミリフィエール! 見つけたら落ちあおう!
ヨダカは颯爽とマルケータを追いはじめる。
ハハハ! 涙目だったな、ノロマル! いい気味だ!
ミリフィエールは、歪んだ笑いを見せるリューズを一瞥すると、強く告げた。
リューズ様、ひとを傷つけて嘲笑うようなあなたは、とても、かわいそうなかたです……!
言い残すと、ふたりを追って、その場を後にする。
独りになったリューズは、拳を握りしめると、吐き捨てるように呟いた。
……ふん、生意気なんだよ。オレがどんなに仕事をがんばろうと、あいつばかり、いつも皆に愛されて……