地図を作ろう!

文字数 2,409文字

では、地図作りを開始します! 紙はわたくしの、予備(よび)のスケッチブックを使用しましょう
ミリフィエール、絵を()趣味(しゅみ)があったのか? 初耳(はつみみ)だな
ミリフィさん、お上手(じょうず)そうだ~! ぜひぜひ、見せてけろ~!
えっ? ……うふふ、じゃあ、とびっきりの自信作(じしんさく)を!
 ミリフィエールはいそいそと、スケッチブックのページを()った。
じゃーん、ねこさんです!!
(ヴッ……!?)
(ヴッ……!?)
がんばって()きました!
えと……ミリフィさん……? このねこ、何で血を()いてるだ……?
血……? ああ、ほんのちょっとだけ、彩色(さいしき)(さい)に、ねこさんのお口の中の色がはみでてしまって……

ほんのちょっと!?


普通に()ってて、色ってこんなダイナミックにはみだせるモンなんだか!!?

ヨダカ様はいかがですか? このねこさん!
……えっと……
ミリフィエールの絵について……ホシミカミは以前、何か言っていたか……?

『ゾクゾクするほど芸術的だね♡』と!


それが何か?

(あの男神(おがみ)(てい)よく逃げたな!!)
あの、もしかしてこのねこさん、変ですか……?
……
……
……っ
……とても前衛的(ぜんえいてき)で……いいと、思う……
 ヨ ダ カ は お () () を 覚 え た !
うふふ、ありがとうございます! あっ、そうです、これから作る地図にも、わたくしのねこさんをいっぱい()きこんでラブリーに……
あーっ、あーっ、ミリフィさん、この家! この家はどうやったら覚えやすく、地図にできるだかね~!!?
そうっ、そうだな、まずは最低限の景色(けしき)特徴(とくちょう)だけ書きこんでゆかないか!!?
えっ、あっ、はい……??
 そうして、三人のノスタジア(めぐ)りが始まったのだった。
***
ザーレスカーさんの家の屋根(やね)は、わすれな草色……っと
こちらの菜の花畑を右に曲がると、コゼルさんという家に()くぞ!
左に曲がると、ランドヴァー様とおっしゃるかたのお(たく)です! 特徴(とくちょう)は、植木(うえき)がうさぎさんの形に()ってあります!
……よし、新しい地図ができただ~!!
これならもう、迷いようがないな!
明日(あした)から早速(さっそく)、この地図を使ってまいりましょう!! ……でもマルさん、地形を覚えるのは少し不得手(ふえて)みたいですけれど、この町のひとびとのお名前とお人柄(ひとがら)は、完璧(かんぺき)把握(はあく)されているのですね!
えへへ、町のひととお話するのはだいすきなんだぁ。そうしている内に、自然(しぜん)と覚えただ~
 そのとき、とげとげしい声が(あた)りに(ひび)いた。
こんなとこで何してるんだよ、ノロマル!!
ふえ!? リューズ先輩(せんぱい)
 突如(とつじょ)姿を現した男の悪意がむきだしの眼差(まなざ)しに、ミリフィエールは少し(ひる)む。
マルさん、このかたは……?
ミリフィさん、ヨダカさん。こちらがさっき話した、『郵便配達界の疾風小僧(ポスト・ゲール・ボーイ)』のリューズ先輩(せんぱい)だぁ
この男性がか? 小僧(こぞう)と言うには(とう)が立っているように見えるが
ヨダカ様、おそらく、このかたのご身長(しんちょう)が、標準(ひょうじゅん)サイズよりかなり(ひか)えめだからではないかと……

素直(すなお)にチビと言ってしまえよ!!


何なんだよ、この失礼な美形(びけい)どもは!!

 リューズは息荒(いきあら)くつっこむと、体裁(ていさい)(ととの)えるためか、ゴホンとひとつ咳払(せきばら)いし、マルケータを(にら)みつけた。
……おい、ノロマル。何、油売(あぶらう)ってんだ
リューズ先輩(せんぱい)にもらった地図も、とっても素敵(すてき)だったけど、よりわかりやすい地図を皆で作ってみたんだぁ! これでもう、迷わず配達(はいたつ)できるだよ!
 マルケータは(ほこ)らしげに、完成したスケッチブックを、リューズに差しだす。
……ふん
 リューズはスケッチブックを乱暴(らんぼう)に受けとったかと思うと、(かん)(はつ)()れず、画用紙をビリビリと(やぶ)りだした。
!!?
!!?
な……っ、何するだ、先輩(せんぱい)!!?
こんなダサい田舎町(いなかまち)簡単(かんたん)な道のりも覚えられないなんて、お前、ポストレディに向いてないんだよ
で、でも、ばっちゃんはいつも()めてくれて……
ふん。『ばっちゃん』とやらも、お前があまりに無能(むのう)で、内心(ないしん)がっかりしてたんじゃねえの? 目障(めざわ)りなんだよ、さっさと(あきら)めて、この田舎町(いなかまち)より、もっともっとダサい故郷(こきょう)へ帰れば?
!! ……っ
 マルケータは、()()りになったスケッチブックの紙片(しへん)を集めてぎゅっと(にぎ)りしめると、自棄(やけ)になったかのように走りだした。
マルさん……!
くっ、足が異常(いじょう)に早い……! ここは私に(まか)せろ、ミリフィエール! 見つけたら落ちあおう!
 ヨダカは颯爽(さっそう)とマルケータを追いはじめる。
ハハハ! 涙目(なみだめ)だったな、ノロマル! いい気味(きみ)だ!
 ミリフィエールは、(ゆが)んだ笑いを見せるリューズを一瞥(いちべつ)すると、強く()げた。
リューズ様、ひとを傷つけて嘲笑(あざわら)うようなあなたは、とても、かわいそうなかたです……!
 言い残すと、ふたりを追って、その場を(あと)にする。
 (ひと)りになったリューズは、(こぶし)(にぎ)りしめると、()()てるように(つぶや)いた。
……ふん、生意気(なまいき)なんだよ。オレがどんなに仕事をがんばろうと、あいつばかり、いつも皆に愛されて……
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登場人物紹介

ミリフィエール・トワナ


 星々を統べ、世界の平安を守る神様・ホシミカミのお世話をする、『星仕え(ほしづかえ)』の女の子。愛称はミリフィ。22歳。

 性格は、ちょっと頼りないが、癒し系ながんばり屋さん。


 ホシミカミにかいがいしく仕えていたが、結婚適齢期となり、16歳の少年・ヨダカとお見合い結婚することに。

 それによって暴走したホシミカミが生みだす、人間の心を悪に染めてしまう鳥型の精霊・『ヤミシドリ』を封印するために、代々家に伝わる魔術具・『夜の鳥かご』を片手に、世界をめぐることになる。


 非常にウブで、男性が極端に近づくとパニックを起こし、銃を乱射するクセがある。

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